しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

コゲジゲジシダについて

種名:コゲジゲジシダ(Phegopteris decursivepinnata, Thelypteridaceae)

解説:オオゲジゲジシダとホウライゲジゲジシダの雑種起源種(異質4倍体)

場所:福岡県中部、南部

確認日:2022.7.31, 2022.8.21, 2022.9.3

↑コゲジゲジシダ(1)

これまであまり気に留めていない種だったのですが、2021年の論文*をきっかけに県内の分布実態を調べてみようと思い、調査・観察をしているところです。

ブログやSNSに"オオゲジゲジシダ"として掲載されているものには、"大きなコゲジゲジシダ"が多く含まれているようで、これは元々の"別け方"や"コゲジゲジシダ"という和名自体が災いしているのだと思います。このあたりも整理してみます。

※ホウライゲジゲジシダはこちらにホウライゲジゲジシダ

以下、いろいろなタイプ(状態)のコゲジゲジシダを掲載します。

↑コゲジゲジシダ(2):一般的にコゲジゲジシダとされているタイプ

↑コゲジゲジシダ(3):(2)より若干大きいやつ

↑コゲジゲジシダ(4):わりと大きくなったやつ(日陰で育ったやつ)

↑コゲジゲジシダ(5):わりと大きくなったやつ(日向で育ったやつ)

↑コゲジゲジシダ(6):かなり大きくなったやつ

(2)(3)については、コゲジゲジシダとして扱う方が多いものと思いますが、(4)〜(6)については、オオゲジゲジシダとして扱う方もいるのではないでしょうか。論文を基に同定すると、葉脈と葉柄基部の鱗片の特徴より、いずれもコゲジゲジシダの範囲となります。

以下、論文*に示されている特徴を抜粋します。葉身の大きさは3種の識別において有力な特徴ではありません。

 

■オオゲジゲジシダ(2倍体&4倍体?)

葉柄基部の鱗片:短い毛状縁

葉脈:遊離

側羽片:基部5-16対は隣接する側羽片と独立

葉身長:28〜66cm

葉:2回羽状深裂〜2回羽状葉

 

■コゲジゲジシダ(4倍体)

葉柄基部の鱗片:長い毛状縁

葉脈:遊離、一部辺縁に達する

側羽片:基部3-16対は隣接する側羽片と独立

葉身長:10〜55cm

葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂

 

■ホウライゲジゲジシダ(2倍体)

葉柄基部の鱗片:長い毛状縁

葉脈:辺縁に達する

側羽片:側羽片は隣接するものと合流、基部1-2対は稀に独立

葉身長:19〜59cm

葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂

 

 

↑コゲジゲジシダ(3)の葉柄基部

↑コゲジゲジシダ(5)の葉柄基部

↑コゲジゲジシダ(6)の葉柄基部の鱗片

先ず最も特徴的だと思われる葉柄基部の鱗片ですが、いずれの個体も長い毛状縁でした。若い時の鱗片は白っぽい色をしていますが、次第に褐色へ変化するようです。

見た目は地味なシダですが、鱗片の形態は意外とかっこいいです。

 

 

↑コゲジゲジシダの葉脈(切れ込みが浅い部分)

↑コゲジゲジシダの葉脈(浅〜中裂する部分)

↑コゲジゲジシダの葉脈(浅〜中裂する部分)

↑コゲジゲジシダの葉脈(中裂する部分)

葉脈は遊離するものが多く、稀に辺縁に達しています。この程度は葉の切れ込み具合次第でまちまちでした。深くきれ込んでいる場所では全て遊離しているように見えるし、日陰で育った葉は葉身があまり内巻きにならないので脈がより遊離して見えます。ただし、これらの場合でも全体をよく観察すると所々で脈が辺縁に達していることを確認できました。

 

 

↑コゲジゲジシダ(3)の葉身基部

↑コゲジゲジシダ(6)の葉身基部
小さい状態でも3-4対の側羽片は隣接する側羽片と不連続です。大型の葉になると10対前後が不連続になっています(ホウライとの差異)。

 

 

↑コゲジゲジシダ(1)の側羽片

↑コゲジゲジシダ(5)の側羽片

側羽片の切れ込み具合は株の大きさ次第で、大型化すると中裂程度になることは普通にあるようです。なお、裂片の内巻き具合は生育している場所の明るさ次第な気がしています。側羽片の切れ込みの状態だけでコゲジゲジシダとオオゲジゲジシダを区別することは危険だと思います。

 

 

↑コゲジゲジシダ(2)のソーラス

↑コゲジゲジシダ(6)のソーラス

ソーラスは中間生です。

 

 

↑コゲジゲジシダの胞子嚢

胞子嚢の費用面には腺状の?突起が疎らに生えていました。

 

 

↑コゲジゲジシダの胞子

(1)〜(6)はいずれも胞子は定形でした。表面は平滑です。

なお、胞子長(この場合は論文*と同様に胞子周皮Perisporeに相当する部分)を計測すると、41.0μm〜46.2μm(平均44μm)であったので、4倍体コゲジゲジシダであることが支持されると思います。

 

 

以上のように、コゲジゲジシダとオオゲジゲジシダとの識別においては、葉の大きさや側羽片の切れ込みは当てにならない場合が多いので注意が必要です。

韓国のサイトにはオオゲジゲジシダの生態写真が多く掲載されていますが、大型のコゲジゲジシダとはかなり違った雰囲気をしています(念のため:標準図鑑Ⅰの掲載写真もオオゲジです)。

ちなみに福岡県にはオオゲジゲジシダの記録があるのですが、今のところコゲジゲジシダしか確認できていません(ホウライも見つかってはいません)。探しにいかなくては・・・。

 

論文*はこちらとなっています。

*Fujiwara, Tao, et al. "Species Delimitation in the Phegopteris decursivepinnata Polyploid Species Complex (Thelypteridaceae)." Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 72.3 (2021): 205-226.