しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ホウライゲジゲジシダ

種名:ホウライゲジゲジシダ(Phegopteris taiwaniana, Thelypteridaceae)

解説:コゲジゲジシダ起源種の片親(2倍体有性生殖種)

場所:鹿児島県大隅半島

確認日:2022.12.28

ホウライゲジゲジシダです。今年もさぼり癖と戦いながらぼちぼち更新していきます。

本種は2021年に発表された論文*でゲジゲジシダ類が整理された際、同時に新種として発表されたシダです。福岡県での発見に期待していましたが、どこへ行ってもコゲジゲジシダしかいないので(笑)、大隅半島へ探しに行ってきました。

 

↑ホウライゲジゲジシダの生育環境

渓流沿いの岩壁を主な生育環境としているようで、ヤナギニガナやミツデウラボシ(チャボミツデウラボシの型)、シロヤマゼンマイと同所的に見られました。同質的な環境として、渓流沿いの護岸等でも見つかりました。また同じ岩壁的環境でも、乾燥している場所と湿潤な場所とでは形態に変異があるような気がしています。

今回の記事ではコゲジゲジシダとの差異に着目しながら本種の形態について紹介したいと思います。ゲジゲジシダって、タイピングしているとゲジゲジし過ぎて混乱してくるので、たまにゲジゲジゲジシダみたくゲジ過剰になっているかもしれません。笑

 

識別点は以下のとおり(コゲジとホウライゲジ、前の記事から表現を少し修正)

■コゲジゲジシダ(4倍体)
葉脈:一部辺縁に達する
側羽片:基部3-16対は隣接する側羽片と独立
葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂・夏緑
裂片先端:卵形〜卵状三角形

★ホウライゲジゲジシダ(2倍体)
葉脈:ほとんど辺縁に達する
側羽片:側羽片は隣接するものと合流、基部1-2対は稀に独立
葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂・常緑性
裂片先端:卵状三角形〜三角形

 

以下にサイズ別の生態写真を掲載していきます。

↑小型のホウライゲジゲジシダ1

↑小型のホウライゲジゲジシダ2

↑中型・乾燥地生のホウライゲジゲジシダ

↑中型・湿潤地生のホウライゲジゲジシダ

↑大型のホウライゲジゲジシダ

↑参考:コゲジゲジシダ

 

葉身の大きさは小型から大型まで様々で、実葉では最小15cmほど、最大40cm超えといったところ。常緑性のため冬季でも青々としてはいましたが、裸葉のみの個体が多く、実葉の発生には季節性があるかもしれません。

葉は単羽状中深裂〜二回羽状中深裂ですが、二回羽状の場合も側羽片が独立することはありません。あとコゲジゲジシダに比べると全体的に先端が尖っています。

葉身の切れ込みがコゲジゲジシダよりは浅いため、小型の葉のときは全体に密な印象を受けますが、大型の葉になると側羽片が交互(対にならずに)につくようになり、コゲジゲジシダの大型葉と似たような形態になります。

 

続いてポイントとなる葉身基部の側羽片の独立具合をサイズ別に比較します。

↑小型のホウライゲジゲジシダの葉身基部

↑中型のホウライゲジゲジシダの葉身基部1

↑中型のホウライゲジゲジシダの葉身基部2

↑大型のホウライゲジゲジシダの葉身基部

論文*に記載のとおり、隣接する側羽片と連続していないのは最基部の1〜2対のみで、ものによっては最基部まで連続しています。大型葉でも中軸の翼がしっかり連続しています。

稀には最基部の3対が独立している葉もありましたが、その場合でも別の葉では連続していたので、迷った場合には複数の葉を比較すると良さそうです。

 

また、ホウライゲジの大型の実葉では裂片が鋭い三角形状になる場合が多く、この点もコゲジゲジシダとは明瞭に異なります(ただし、裸葉では卵状寄りになるので注意)。以下参照。

↑ホウライゲジゲジシダの大型葉の側羽片

↑参考:コゲジゲジシダの大型葉の側羽片

ホウライ大型個体の実葉では裂片が明瞭な三角形状になる場合が多いのに対し、コゲジゲジシダは卵形ないし卵状三角形程度のため、より丸っこいです。大型葉での切れ込みの深さは同程度かな。

 

 

続いて問題の、ホウライゲジゲジシダの脈が辺縁に達する度合いについて。

↑側羽片の脈1

↑側羽片の脈2

↑側羽片の脈3

↑コゲジゲジシダ(左)とホウライゲジゲジシダ(右)

 

ホウライゲジゲジシダ自体、辺縁に達しない脈が交じることは普通のようで、葉の切れ込み具合(観察する場所)によっては辺縁に達しない脈が普通に見られます。

ゲジゲジシダとの差異については、同程度のサイズの葉で比較するとわかるのですが、"ホウライゲジゲジシダの方がより多くの脈が辺縁に達する"ようです(赤い矢印が達していない脈)。論文の検索表のとおりですね。
脈が辺縁に達しているかどうかだけに着目すると同定間違えるので、参考程度の特徴だと思います。

 

以上のように、脈は参考程度の特徴として、葉身基部の側羽片の連続具合や裂片の尖り具合によってコゲジゲジシダとは識別できそうです。

夏緑性か常緑性かという点も参考にはなりますが、大隅半島では12月末でもコゲジゲジシダの多くは元気にしていたので注意が必要です(そもそもコゲジには常緑性のホウライの遺伝子が入っているので)。

↑ホウライゲジゲジシダの幼若個体

↑コゲジゲジシダの幼若個体

幼若個体でも同様、コゲジゲジシダでは基部の側羽片がより不連続になるので識別可能です(同一地域に生育していた個体)。

 

 

その他の特徴についても参考に掲載しておきます。

↑ホウライゲジゲジシダの葉身基部

↑ホウライゲジゲジシダの葉柄基部の鱗片

ゲジゲジシダと同様、鱗片は葉柄に密につきます。鱗片の辺縁の刺もコゲジゲジシダと同様に長いですが、より細長いかもしれません。綺麗ですね。

 

 

 

↑ホウライゲジゲジシダのソーラス

ソーラスは若干辺縁寄りについています。

 

↑ホウライゲジゲジシダの胞子

↑コゲジゲジシダの胞子

時期的に胞子の観察が難しく、ほじくり出しての検鏡となりましたが、胞子外膜長(exospore)の平均は約36.8μm(最小:34.6μm、最大:38.4μm)でしたのでホウライゲジゲジシダの範囲としてはまあ妥当かなと思います。

※コゲジの小さめの胞子は斜めになっているものです。

 

論文*
ホウライゲジゲジシダ胞子:32〜36μm
ゲジゲジシダ胞子:39〜43μm

 

 

論文*はこちらとなっています。

*Fujiwara, Tao, et al. "Species Delimitation in the Phegopteris decursivepinnata Polyploid Species Complex (Thelypteridaceae)." Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 72.3 (2021): 205-226.