マサキカナワラビ
種名:マサキカナワラビ(Dryopteris ✕ yamaguchiensis, Dryopteridaceae)
解説:ハガクレカナワラビとコバノカナワラビの推定雑種
場所:福岡県南部
確認日:2022.2.11, 2022.8.28
↑マサキカナワラビの裸葉
↑マサキカナワラビの実葉
マサキカナワラビの裸葉と実葉
大変に久しぶりの更新となりました。2月からずっと更新をサボっていましたが、仕事とRDB改訂に向けた調査へ邁進していたためです。多分またサボりますが...。
マサキカナワラビは海老原さんの標準図鑑Ⅱで存在を認知した時から見てみたかった雑種(推定)でした。片親がごく稀にしか見つからないハガクレカナワラビということで発見できる望みは薄いと思っていたのですが、意外にも早く見つかりました。ここの個体群は斑入り葉のようになっていますが、"ハカタシダやイワガネソウのような斑"ではなく、"ウイルス性の斑"のようです。まあ綺麗ですが。笑
自生地にはハガクレカナワラビが近接して生え、コバノカナワラビのほかにもオニカナワラビやハカタシダも生育しています。ちなみに、ここのハガクレカナワラビは県内の新規確認地点となりました。
参考までにハガクレカナワラビも掲載しておきます。
↑ハガクレカナワラビの実葉と裸葉(本地点)
全体形状で比較した場合、マサキカナワラビとハガクレカナワラビの差異は、頂羽片の不明瞭さ(マサキがより不明瞭)、側羽片数(マサキが若干多い)に見て取ることができます。
↑マサキカナワラビの最下小羽片(実葉)
↑マサキカナワラビの葉身中部の側羽片(実葉)
↑マサキカナワラビの葉身中部の側羽片(裸葉)
↑参考:ハガクレカナワラビの葉身中部の側羽片(実葉・小型の個体)
小羽片の形態については、マサキカナワラビはハガクレカナワラビの影響を受けて芒が著しく明瞭になります。ハガクレカナワラビと同様、実葉よりも裸葉の状態で芒がより目立ちます。なお、芒の長さのみでハガクレとマサキを識別することは困難なように思います。
小羽片におけるハガクレカナワラビとの相違点については、マサキの方がより深く切れ込むことが挙げられるのですが、この写真のハガクレの側羽片は小型の個体なので注記しておきます。前段に掲載した大型のハガクレの小羽片で比較していただけると違いがわかりやすいです。
↑マサキカナワラビのソーラス
ソーラスは中間位置につきます。
↑マサキカナワラビの包膜(1)
↑マサキカナワラビの包膜(2)
まず、ハガクレ関連種の包膜の形態については少し議論の余地があると考えています。標準図鑑Ⅱではハガクレの包膜は無毛とされていますが、実際に観察していると包膜には明らかに突起があります。突起の量や大小には変異があるようで、今後調査が必要だと思います。
マサキの包膜ですが、包膜が全縁のコバノカナワラビとの雑種(推定)のため、不規則な小突起縁となっています。突起の出方は不安定ですが、明らかに存在はしていますね。なお、胞子は不斉であることは確かめました。
↑マサキカナワラビの根茎
ハガクレカナワラビの根茎はハカタシダやオニカナワラビと同様、著しく詰まってごく短く這います。一方、コバノカナワラビの根茎はちょっと詰まって短く這います。ということでマサキの根茎もその中間で、ハガクレ、ハカタ、オニよりは長く這っています。
なお、マサキカナワラビは推定雑種ということで補足しておくと、以下の点から雑種の組み合わせとしてはハガクレカナワラビとコバノカナワラビが最有力と判断しました。
・芒が著しい(ハガクレ、ツルダの関与の可能性)
・根茎は短く這う(ホソバ、ツルダ、エンシュウの可能性は低い)
・包膜が不規則な突起縁(包膜が全縁同士の組み合せではない)
・小羽片は切れ込みが深め(オニとハカタの可能性は低い)