しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

テンリュウカナモドキ

種名:テンリュウカナモドキ(Arachniodes x akiyoshiensis, Dryopteridaceae)

解説:オオカナワラビとホソバカナワラビの推定雑種

場所:福岡県南部

確認日:2020.11.21

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テンリュウカナモドキです。小渓流沿い約500mに渡って散生〜群生していました。

なお、1枚目と2枚目の写真は同じ葉を撮影したものですが、自然光下での色合いが伝わるように2種類掲載しました。

テンリュウカナモドキはオオカナワラビとホソバカナワラビの雑種と推定されていますが、テンリュウカナワラビと同様に実態がよくわかっていない雑種です。ここで見つけた個体群は全て写真のように緑白色をしています。鹿児島県でも見つけたことがあり、その時も緑白色でした(これが普遍的な特徴かどうかは断定できません)。

オオカナワラビとホソバカナワラビは同定に迷わない程に外見がことなっていますが、ともに平行的に狭まる側羽片を持ち、頂羽片が明瞭な鉾形(オオカナワラビは独立するけど)になる点で雑種になると特徴をとらえにくくなってしまいます。

それから、上の葉は大型ですが全て裸葉です。綺麗な実葉が少なかったのもありますが、裸葉がとても多い印象でした。オオカナワラビは普通小型の葉でもソーラスをつけるので、この点はホソバカナワラビ的だと考えています。

とりあえず美白(緑白色)な上に形が綺麗に整うので、かっこいい雑種だと思います。

 

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テンリュウカナモドキの葉身頂部。

明瞭な鉾形で、頂羽片はやや独立しています。独立しきっているわけではない点がホソバカナワラビ的でありますが、オオカナワラビも大きくなると頂羽片が不明瞭化する場合があるので微妙です。

また、頂羽片が短縮したり、葉身の頂部にかけて側羽片が狭まることもほとんどなかったので、テンリュウカナワラビではないと判断しています。

 

 

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テンリュウカナモドキの最下側羽片。

外側(下側)第1小羽片が著しく伸張しています。第2小片まで伸張することはまあまあありました。この写真については、第2小羽片以降は先端部まで並行的です(テンリュウカナワラビは徐々に狭まることが多い?)。

 

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テンリュウカナモドキの葉身中部の側羽片。

小羽片の輪郭はオオカナワラビよりもやや面長です。切れ込みはオオカナワラビよりも深めで、裂片の先端の芒がより顕著です。

 

 

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テンリュウカナモドキのソーラス。

オオカナワラビのソーラスが辺縁寄り、ホソバカナワラビのソーラスは中間〜軸寄りのため、テンリュウカナワラビと同様にソーラスがやや内側に入ります。

 

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↑テンリュウカナモドキの包膜。

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↑参考:オオカナワラビの包膜。

ホソバカナワラビの包膜はほぼ全縁、オオカナワラビの包膜は毛状縁のため、テンリュウカナモドキの包膜の縁毛は不規則な突起縁程度に抑え込まれています。

なお、このテンリュウカナモドキとした型の胞子は不定形でした。

 

 

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↑テンリュウカナモドキの根茎(大型の個体)。

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↑テンリュウカナモドキの根茎(小型の個体)。

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↑参考:テンリュウカナワラビの根茎。

ホソバカナワラビの根茎は長く這い、オオカナワラビの根茎は短く〜やや這いますが、テンリュウカナモドキの根茎は這ったり詰まったりしていました。テンリュウカナワラビよりは這いがちなようです。

小型の株は根茎の断裂により生じたものと思いますが、這っている様子がより顕著でした。