しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

テンリュウカナワラビ

種名:テンリュウカナワラビ(Arachniodes x kurosawae, Dryopteridaceae)

解説:オオカナワラビとコバノカナワラビの推定雑種

場所:福岡県中部

確認日:2020.11.29

f:id:shidasagashi:20201231174649j:plain

 

f:id:shidasagashi:20201231174635j:plain

 

f:id:shidasagashi:20201231174624j:plain

テンリュウカナワラビは有名だと思いますが、実態が不明な雑種です。カナワラビ属は浸透性交雑をしているらしいので、実際のところはコバノカナワラビとオオカナワラビのF1のみでなく、そこに更にコバノカナワラビやオオカナワラビ(それ以外にも?)が交雑している場合もあると思います。

単純な系で考えた場合、頂羽片が明瞭&各羽片が並行的に狭まるオオカナワラビと、頂羽片が不明瞭&側羽片が徐々に狭まるコバノカナワラビという異端な種が交雑するため、その中間的な特徴を示す型が雑種として判断しやすいです(上の写真)。

それからテンリュウカナワラビとされるものには光沢が有る型と無い型があります。光沢が有る型でも、オオカナワラビよりは霞んだ質感になります。光沢が無い型についてはよくわかりませんが、ハカタシダにも光沢が無い型がいるようにこの特徴のみで断定することは難しいです。光沢が有る型の方が遭遇頻度が高いと思います。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174425j:plain

テンリュウカナワラビの葉身頂部。

オオカナワラビに比べて独立感の無い(短い)頂羽片があります。側羽片と相対的に見ると短いですが、必ずいつも短縮するわけではありません。長い場合もあります。

葉身の頂部にかけて、側羽片が徐々に短縮する様子にはコバノカナワラビ感があります。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174416j:plain

テンリュウカナワラビの最下側羽片。

外側(下側)第1〜3小羽片が発達しています。外側(下側)第1小羽片が発達することはオオカナワラビの特徴ですが、葉身がなだらかに狭まる(側羽片の基部が最大幅になる)コバノカナワラビの影響が反映され、2〜3番目も発達したものと考えることができます。第4以降の小羽片についても、オオカナワラビよりは面長で、頂部にかけて徐々に狭まる傾向があります。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174407j:plain

テンリュウカナワラビの葉身中部の側羽片。

こちらも外側(下側)第1〜2小羽片が発達しています。最下側羽片と同様に、基部の方の小羽片がより長い(側羽片の幅が広い)ようです。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174359j:plain

テンリュウカナワラビの葉身上部の側羽片。

オオカナワラビに近似した輪郭ですが、やや面長になり、切れ込みがより深くなっています(コバノカナワラビの影響)。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174535j:plain

テンリュウカナワラビのソーラス。

オオカナワラビのソーラスが辺縁寄りでコバノカナワラビのソーラスが中間生なので、少し内側に寄った位置についています(裂片の切れ込みが深いために押し下げられた感じです)。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174532j:plain

↑テンリュウカナワラビのソーラス。

f:id:shidasagashi:20201231174517j:plain

↑参考:オオカナワラビのソーラス。

オオカナワラビの包膜は毛状縁でコバノカナワラビの包膜は全縁ですが、テンリュウカナワラビは写真のような感じです。オオカナワラビの影響で毛状突起がありますが、その出方が不規則になっています(長短・毛の有無)。

※このテンリュウカナワラビは胞子不定形でした(一年間栽培してみましたが、ずっと不定形でした)。

 

 

f:id:shidasagashi:20201231174523j:plain

テンリュウカナワラビの根茎。

短く這っています。

なお、根茎の断裂・流下によって、同じ谷沿いに点々と小個体群が見つかる場合はよくありますが、一面に群生している場合や根茎が長めに這っている場合はテンリュウカナモドキを疑う方が妥当かもしれません(こちらも実態がよくわからないけど)。

コバノカナワラビの根茎が短く這うことに対してオオカナワラビの根茎は短く〜やや這う程度のため、両親種以上にテンリュウカナワラビが長く這い回るとは考えにくいです。