ハチジョウベニシダ
種名:ハチジョウベニシダ(Dryopteris caudipinna, Dryopteridaceae)
解説:2倍体有性生殖種のベニシダ
場所:福岡県東部
確認日:2020.7.12
ようやく見つけたハチジョウベニシダです。雨天だったため写りがよろしくないです。
ふと見つけた個体に違和感を覚えたため、持ち帰って胞子嚢あたりの胞子数を確認したところ64個の定形胞子でした(採取許可は取得しています)。
オシダ科Dryopteridaceaeのイタチシダ節(sect. Variae)とイタチベニ節(sect. Erythrovariae)の網目状進化に関与している有性生殖種で、ベニシダ、トウゴクシダ、キノクニベニシダ、ベニオオイタチシダの片親と考えられています(シダ植物標準図鑑Ⅱ、Hori et al. 2018*1)。
ハチジョウベニシダはまだこの1個体しか観察できていないので、以下に述べる特徴は普遍的なものではない可能性があります。なお、ベニシダにはハチジョウベニシダに酷似する型があるため、最終的には胞子を確認しないと同定は難しいです。
せっかくなので、ベニシダと比較して掲載します。
↓参考:ベニシダ
↑ハチジョウベニシダの最下側羽片。
↑参考:ベニシダの最下側羽片。
最下側羽片の下側(外側)第一小羽片が短縮する特徴はベニシダと同じですが、ハチジョウベニシダではこの小羽片の切れ込みがやや深いです。そこから2、3、4番目の小羽片は同様に大きく伸張しますが、ハチジョウベニシダではやたら伸びている印象でした。
ハチジョウベニシダでは裂片(鋸歯)が反り返り気味な気もします。
↑ハチジョウベニシダの葉身中部の側羽片。
↑参考:ベニシダの葉身中部の側羽片。
ハチジョウベニシダでは小羽片(裂片)がより細長く、小羽片の間隔が広い(隙間が広い)です。小羽片の先端はどちらも鈍頭でした。ハチジョウベニシダは小羽片の基部が切れ込みやすいのかな。
↑ハチジョウベニシダの葉身頂部。
↑参考:ベニシダの葉身頂部。
ハチジョウベニシダの方が裂片が細長いため、頂端の方を見ると印象がだいぶ異なります。ハチジョウベニシダも鉾状にはならず、緩やかに狭まっています。雰囲気的にはハチジョウベニシダは優しい感じ。
↑ハチジョウベニシダのソーラス。
↑参考:ベニシダのソーラス。
シダ植物標準図鑑Ⅱではハチジョウベニシダのソーラスも軸寄りとなっていますが、裂片が細い分だけ中間的に見えます。
↑ハチジョウベニシダのソーラス(拡大)。
↑参考:ベニシダのソーラス(拡大)。
撮影している小羽片のサイズが異なるので一概には比較できませんが、羽軸の袋状の鱗片がハチジョウベニシダの方がより袋状な感じですかね。包膜はどちらとも円腎形で全縁です。
↑ハチジョウベニシダの葉柄基部の鱗片(2枚)。
↑ベニシダの葉柄基部の鱗片。
鱗片の色には変異がありますが、このハチジョウベニシダは黒褐色でした。鱗片の質感はベニシダに比べると弱々しい(より膜質な?)感じでした。
↑ハチジョウベニシダの胞子。
写真の個体のものです。64個の定形胞子でした。
なお、試しに栽培もしていますが、前葉体はたくさん発生しています。
*1:Hybridization of the Dryopteris erythrosora complex (Dryopteridaceae, Polypodiidae) in Japan and adjacent areas. Hikobia 17: 299–313. 2018.