オオカラクサイヌワラビの解説
種名:オオカラクサイヌワラビ
(Athyrium x tokashikii Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:カラクサイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種
場所:福岡県西部
確認日:2018.8.5
オオカラクサイヌワラビ①
オオカラクサイヌワラビ②
カラクサイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種です。両種とも県内のスギ林では普通に見られる種であるため(ヒロハイヌワラビはルリデライヌワラビも含めて比較的稀)、雑種のオオカラクサイヌワラビもそこそこ見つかります。
オオカラクサイヌワラビ①とした型はカラクサイヌワラビの特徴が強く(多分母方がカラクサイヌワラビ)、オオカラクサイヌワラビ②とした型はヒロハイヌワラビの特徴が強く(同様に母方がヒロハイヌワラビ(更に言うとこの個体ではルリデライヌワラビがかかっていそう))現れています。
【親種の参考】
オオカラクサイヌワラビ①の最下側羽片。
オオカラクサイヌワラビ②の最下側羽片。
いずれも、ヒロハに比べると切れ込みが深くて小羽片基部上側が耳片状に発達しており、カラクサに比べると切れ込みが浅くてその耳片が小さい。有柄の種間の雑種であるため、柄は明瞭です。
オオカラクサイヌワラビ①の葉身中部の側羽片。
オオカラクサイヌワラビ②の葉身中部の側羽片。
①の方はカラクサイヌワラビ的な形態をしていながら、耳片が小さく、羽軸に重なり合わずに平行的です。②の方はヒロハイヌワラビ的な形態をしていながら、やや羽軸に重なり合うほどに発達した耳片があります。②は小羽片間の重なりが強く、ルリデライヌワラビの特徴が現れています。
参考に各親種を載せます...。
カラクサイヌワラビの葉身中部の側羽片。
ヒロハイヌワラビ(ルリデライヌワラビ)の葉身中部の側羽片。
オオカラクサイヌワラビ①の葉身頂部。
オオカラクサイヌワラビ②の葉身頂部。
重なり具合の違いは②でルリデライヌワラビの特徴が現れているためと考えますが、カラクサイヌワラビもヒロハイヌワラビも頂部が(やや)矛状になるため、雑種でも矛状になっています。
オオカラクサイヌワラビ①のソーラスと羽軸。
オオカラクサイヌワラビ②のソーラスと羽軸。
ソーラスはどちらも鈎状のものが稀に混在します(カラクサの特徴)。
①の小羽片はカラクサに似た切れ込みですが、耳片は羽軸に重ならず、羽軸にはカラクサよりも毛が多いです。②の小羽片はヒロハ(ルリデラ)に似て切れ込みが浅いですが、耳片が発達して羽軸に重なっています。②は有毛ですが、親種のように白っぽく見える程の密度ではありません。
ハイホラゴケ類のようにややこしいグループを除けば、雑種ではこのように片親の各特徴が弱まってor入れ子状に現れます。
参考に各親種を載せます。
カラクサイヌワラビのソーラスと羽軸。
ヒロハイヌワラビ(ルリデライヌワラビ)のソーラスと羽軸。
オオカラクサイヌワラビ①の中軸と羽軸。
オオカラクサイヌワラビ②の中軸と羽軸。
カラクサイヌワラビよりも多毛で、ヒロハイヌワラビよりは疎らです。
オオカラクサイヌワラビ①の葉柄基部の鱗片。
オオカラクサイヌワラビ②の葉柄基部の鱗片。
どちらも、カラクサのように比較的幅広い鱗片とヒロハのように比較的細長い鱗片が混在します。色合いとしては、より黒っぽい①はカラクサ的、より明褐色な②はヒロハ的かなと思います。
ルリデライヌワラビ(ヒロハイヌワラビ)
種名:ルリデライヌワラビ(ヒロハイヌワラビ)
(Athyrium wardii (Hook.) Makino f. inadae (Tagawa) Ebihara, Athyriaceae)
解説:小羽片がほとんど切れ込まない有毛のイヌワラビ
場所:福岡県西部
確認日:2018.8.5
普通のヒロハイヌワラビをスキップしてしまいましたが、ルリデライヌワラビです。
スギ林等で稀に見られます。標準図鑑では品種として扱われています。ヒロハイヌワラビに比べて側羽片はより間隔をおいてつき、頂部が矛状になります。葉はやや肉厚です。
ルリデライヌワラビの最下側羽片。
長い柄があり、小羽片は重なり合うように混み合って付きます。また、カラクサイヌワラビのように深く切れ込まず、浅裂か鋸歯縁程度です。色合いは暗緑白色...うまく表現できませんが、カラクサイヌワラビよりは暗色です(普通のヒロハもだいたい同じ)。
左がルリデライヌワラビ、右がカラクサイヌワラビ。
ルリデライヌワラビの中部の側羽片。
同様に有柄で、小羽片は重なり合うように混み合ってつきます。小羽片の基部は独立せず、羽軸にやや流れています。
ルリデライヌワラビの葉身頂部。
急に短縮し、頂羽片状の部分を形成します。普通のヒロハイヌワラビより激しく狭まる。
ルリデライヌワラビのソーラスと羽軸の毛。
ソーラスは軸よりにつき、カラクサイヌワラビよりはやや長いです。
羽軸裏には白っぽく見える程に毛が密生します。カラクサイヌワラビよりも圧倒的に多い。
ルリデライヌワラビの中軸。
羽軸には毛が密生しますが、中軸にはほとんど生えていません。
ルリデライヌワラビの葉柄基部の鱗片。
普通のヒロハイヌワラビも同様ですが、鱗片はカラクサイヌワラビに比べてより細長く、やや明るい褐色で中央部は濃褐色です。ヤマイヌワラビよりも細い。
写真を撮り忘れましたが、小羽片の軸上に棘状突起はありません。
カラクサイヌワラビ
種名:カラクサイヌワラビ(Athyrium clivicola Tagawa, Athyriaceae)
解説:小羽片基部が耳状に発達するイヌワラビ
場所:福岡県西部
確認日:2018.8.5
カラクサイヌワラビです。県内の湿ったスギ林等ではまず普通に見られます。やや類似するヒロハイヌワラビに比べるとより明るい緑色をしていることが多いです。
隣接して生えていたヒロハイヌワラビ(左)とカラクサイヌワラビ(右)。
色合いの違いがわかるかと思います。また、葉質はカラクサイヌワラビの方が薄いです。なお、日向に生育する個体の場合は日焼けして変色・硬質化している場合があるため、いつもこの色合や質の違いというわけではありません。
カラクサイヌワラビの最下側羽片。
カラクサイヌワラビの葉身中部の側羽片。
側羽片には、ヤマイヌワラビ等と異なり、長く明瞭な柄があります。
発達する小羽片の基部上側の裂片は耳片状に張り出します。
小羽片の切れ込みは中裂程度が多いですが、大型の個体や秋葉のときには深裂していることもあるため、ヤマイヌワラビやホソバイヌワラビとの雑種との識別には注意が必要です。
カラクサイヌワラビのソーラスと羽軸の様子。
ソーラスは軸寄りにつき、その長さはヒロハイヌワラビに比べるとやや短いと思います。また、やや稀に鈎型のソーラスも混じります。
羽軸は基本的に無毛ですが、まったく毛がないわけではなく、写真のように小羽片の付け根付近には生えていることがあります。毛の"有無"がカラクサイヌワラビとヒロハイヌワラビの識別点になるわけではなく、量の違いです。
あとカラクサイヌワラビの小羽片の基部の耳片は羽軸に重なるようにつくことが多いです。ヒロハイヌワラビではここが発達せず、羽軸にも重なりません(次参照)。
こちらがヒロハイヌワラビの羽軸の毛の様子。
カラクサイヌワラビに比べると明らかに量が多く、羽軸が白っぽく見える程です。
カラクサイヌワラビの側羽片の柄の様子。
ほぼ無毛です。
カラクサイヌワラビの小羽片の突起の様子。
普通、ホソバイヌワラビやトゲカラクサイヌワラビのような突起はありません。が、秋葉では疎らに突起が出ている個体をしばしば確認しています。
カラクサイヌワラビの葉柄基部の鱗片。
鱗片は濃褐色で、縁が淡褐色になっています。ヒロハイヌワラビに比べるとより幅広く、濃褐色の部分がより広いです(この個体は平均よりも細め)。
ヒロハイヌワラビの葉柄基部の鱗片。
カラクサイヌワラビに比べてより細長く、淡色部が広いような形態です。
ヒカゲアマクサシダ
種名:ヒカゲアマクサシダ(Pteris purpureorachis Copel., Pteridaceae)
解説:オオバノハチジョウシダ似の大型種(別名:ウスバアマクサシダ)
場所:三重県
確認日:2018.8.13
ヒカゲアマクサシダ。プライベートでは初めて紀伊半島に繰り出しました。遠いんだもん。九州のシダに限定して掲載してたけど拘る理由は無いので載せます。笑
一見、変なオオバノハチジョウシダかと思うくらいに大型個体の風貌は似ており、葉柄も含めると1mはあるような葉をつける株も多数いました。ただ、葉身長の割に側羽片数は少なく5〜6対程度までで、1つの側羽片がより幅広い印象でした。
葉の色合いや質はヒノタニシダにも似ているので、せっかくなので比較してみます(ヒノタニシダは鹿児島県の個体)。
これはヒノタニシダ。
(葉身の長さは同程度ですが)側羽片の数、側羽片の基部の幅や基部にかけての狭まり方が明らかに異なります。
ヒカゲアマクサシダの最下側羽片の様子。
最下外側の裂片は著しく発達します。
ヒノタニシダの最下側羽片の様子。
最下外側の裂片は同様に著しく発達しますが、基部にかけて狭まっています。
ヒカゲアマクサシダは基部にかけて狭まる傾向はなさそうです。
ヒカゲアマクサシダの葉身中部の側羽片。
ヒノタニシダの葉身中部の側羽片。
前述したとおりですが、裂片の角度や長さも異なっており、ヒカゲアマクサシダではより開出気味です。あとどちらも柄はほぼ無い。
ヒカゲアマクサシダの頂羽片。
ヒノタニシダの頂羽片。
こちらも前述したとおりです。両種とも羽片の先端は尾状に細長く伸張します。この辺はオオバノハチジョウシダやオオバノアマクサシダとの識別点になりそうですね。質感もかなり薄いので触ればわかるとも思います。光沢も若干あるかな。
ヒカゲアマクサシダのソーラスの様子。
ヒカゲアマクサシダの羽軸周辺の脈の様子。
ヒノタニシダの羽軸周辺の脈の様子。
ヒカゲアマクサシダは羽軸の周りで網目を形成せず、葉裏面の光沢がより弱そうです。比べてみると脈理の具合も異なることがわかります。
ヒカゲアマクサシダの中軸。
ヒノタニシダの中軸。
ヒノタニシダには硬質で不格好な突起がありましたが、ヒカゲアマクサシダの中軸は平滑でした。色はどちらも光沢のある紫褐色です。
ヒカゲアマクサシダの葉柄基部の鱗片。
ヒノタニシダの葉柄基部の鱗片。
どちらも褐色ですが、ヒノタニシダの樹脂みたいなものが気になる...。
ホウライイヌワラビ
種名:ホウライイヌワラビ(Athyrium delavayi Christ, Athyriaceae)
解説:もう一つの青茎イヌワラビ的な種(別名:オトメイヌワラビ)
場所:福岡県西部
確認日:2018.8.5, 2017.7.15
ホウライイヌワラビ。遠目に見ているとリョウメンシダの幼株と見間違えそうな程に緑色(黄緑色)のイヌワラビです。オトメイヌワラビとも呼ばれるように美麗な種ですが、県内外で希少な種です。
葉身で20cm程度の株が多いですが、60cmに達するような株も稀にあります。
ホウライイヌワラビの葉身基部。
葉身の最大幅は上部にあり、基部にかけて側羽片はやや短縮します。
ホウライイヌワラビの葉身頂部。
最大幅となった後、急に狭まります。
ホウライイヌワラビの側羽片(葉身中部)。
ホウライという名のごとく切れ込みが荒々しい小羽片で、詰まってつきます。
柄は短く、最下の小羽片が中軸に重なるほど。
中軸も羽軸も黄緑色で、羽軸の付け根がやや淡紫色になる程度です。
ホウライイヌワラビの羽軸の突起。
小羽片の付け根の突起はかなり発達しており、よく目立ちます。発達した小羽片には写真のように突起が生じます。
小羽片はやや背軸側に反っており、リョウメンシダみたいな感じ。笑
ホウライイヌワラビの中軸と羽軸。
どちらとも無毛です。
ホウライイヌワラビのソーラス。
軸寄りに付き、馬蹄形になることはありません。
ホウライイヌワラビの葉柄基部の鱗片。
黒褐色で、辺縁は褐色です。
※これはやや大きな葉の葉柄のため、葉柄基部の色が褐色気味ていますが、普通は黄緑色です。
ホウライイヌワラビの新葉。
青軸ということでアオグキイヌワラビと比較対象になるかもしれませんが、アオグキイヌワラビの新葉が白色であるのに対し、ホウライイヌワラビでは黄緑色です。
参考:
ムラサキオトメイヌワラビ(ツクシイヌワラビとの雑種)
ムラサキオトメイヌワラビ(ホウライ×ツクシ) - しださがし
アオグキイヌワラビ(似てないけど)