イノウエトラノオ
種名:イノウエトラノオ(Asplenium varians, Aspleniaceae)
解説:雑種起源のAsplenium
場所:三重県
確認日:2020.7.23、2018.8.13
イノウエトラノオです。Asplenium semivariansという国内未記録種(2倍体・有性生殖)と、お馴染みイワトラノオ(2倍体・有性生殖)の雑種起源種(異質4倍体・有性生殖)です。
国内では宮崎県で2011年に初めて発見され、さらに2018年に熊本県でも発見されました(シダの会会報 Vol.4 No.11・Vol.4 No.35参照)。
ここで掲載するのは三重県の個体で、詳細については植物地理・分類研究で報告されています(https://doi.org/10.18942/chiribunrui.0692-08)。
※2枚目の写真の白い斑みたいなのは虫食いです。
↑イノウエトラノオの葉身
葉身は最大で20cm近くになり、この類としては大型の葉をつけます。葉身の最大幅は中央付近にあり、最下側羽片は中央の側羽片の半分長程度になります(ならない場合もありますが)。
↑イノウエトラノオの側羽片
側羽片の裂片は、切れ込みが浅くて一つ一つが丸っこく大きいです。コバノヒノキシダのように細切れにはなりません。
↑イノウエトラノオのソーラス
ソーラスは軸に接するように長くつきます。
↑イノウエトラノオの葉柄上部の溝
Aspleniumの仲間は葉柄〜中軸の溝の状態が同定のポイントになる場合がよくありますが、イノウエトラノオはコバノヒノキシダとは異なり、溝の中央部が隆起しません。三面コンクリの水路のような溝となっています。
↑イノウエトラノオの葉柄基部の鱗片
他のAspleniumの仲間同様、格子状の鱗片をつけます。
イノウエトラノオは国内こそ近年になって発見されたわけですが、世界的にはほぼ汎存種(コスモポリタン)とされています。そのため、宮崎県、熊本県、三重県に続いて別の場所でも確認される可能性は十分にあると思います。
なお、イノウエトラノオと同定する際には、類似種であるAsplenium semivariansとの識別に注意が必要です。詳細は論文を参照ください。
ちなみに、小さい個体でも大きめの裂片(切れ込みの浅さ)は顕著なので、大きさによらずコバノヒノキシダとの識別は容易だと思います。
↑葉身5cm程度の小株のイノウエトラノオ