ウスバヘビノネゴザ(キリシマヘビノネゴザ)
種名:ウスバヘビノネゴザ(キリシマヘビノネゴザ)
(Athyrium tashiroi Tagawa, Athyriaceae)
解説:高標高地で見られる幅広のヘビノネゴザ
場所:福岡県西部
確認日:2018.9.2、2018.9.15
分類についてはいろいろと議論のある種ですが、遺伝子的にはウスバヘビノネゴザとキリシマヘビノネゴザを識別することは支持されていないそうです。まだ福岡県と宮崎県の一部の個体群しか観察できていないので、形態的にどうかはわかりませんが、今まで見てきたものはウスバヘビノネゴザだと認識しています。
生育する場所の明るさにより葉色が多少異なり、また幼株では葉が披針形をしているため、ヘビノネゴザと紛らわしいかもしれません。明るくやや乾いた場所に生えているものは葉質がやや固く、軸が濃い紅紫色をしていました。
これはヘビノネゴザ。ウスバヘビノネゴザに比べると側羽片数が多く、また小羽片が小さくて密、切れ込みも浅いです。中軸の色にはどちらも藁色〜淡紅紫色の変異があり、あまりあてにしていません。
ウスバヘビノネゴザの最下側羽片。
ヘビノネゴザの最下側羽片。
小羽片の間隔や切れ込み具合に差があります。写真では伝わりにくいですが、薄明るい林床での葉質はウスバヘビノネゴザが薄い草質でヘビノネゴザは草質くらいかな。
ウスバヘビノネゴザの葉身中部の側羽片。
ヘビノネゴザの葉身中部の側羽片。
ウスバヘビノネゴザのソーラス。
ヘビノネゴザのソーラス。
ヘビノネゴザに比べて、ウスバヘビノネゴザのソーラスはより軸寄りにつきます。
ウスバヘビノネゴザの葉柄基部の鱗片。
福岡県植物目録に記載のあったとおり、確かに細長い鱗片が交じる場合もあるのですが、典型ではないようです。細長いというよりは、幅広いものがより多いように感じます(※採取許可はいただいています)。
岩上に生えていることが多く、よじ登ろうとしたらツタウルシが多くて断念しました...。個体数は割と多いです。
ヘビノネゴザ
種名:ヘビノネゴザ
(Athyrium yokoscense (Franch. et Sav.) Christ, Athyriaceae)
解説:鉱山で見られることの多いイヌワラビ
場所:福岡県西部
確認日:2018.8.26
本州の皆様にはお馴染みのヘビノネゴザですが、福岡県内では分布の少ないイヌワラビです。この個体は石灰岩の低山地で見つけたもの。場所によっては高標高地でも出現するようですが、その辺りになるとウスバヘビノネゴザ(キリシマヘビノネゴザ)の範囲に入るので識別は要注意。
ヘビノネゴザの最下側羽片。
羽状複生くらいで、小羽片は浅裂しています。
ヘビノネゴザの葉身中部の側羽片。
小羽片の基部は羽軸に延着しています。葉は草質です。小羽軸上には、ホソバイヌワラビのような突起はありません。
ヘビノネゴザのソーラス。
ソーラスは馬蹄形から楕円形で、軸と辺縁の中間からやや辺縁寄りにつきます。
包膜は全縁でした。
写真の中軸は藁色ですが、高標高帯(宮崎県北部)で見たヘビノネゴザは淡紅紫色でした。
ヘビノネゴザの葉柄基部の鱗片。
狭披針形か広線形といったところ。中央が濃褐色で、辺縁が淡褐色ですが、各色調帯の幅は、個体(内)間で差があるようでした(ほぼ全面が濃褐色のものもあれば、濃褐色の部位が広いものもある)。
ミヤマイタチシダ
種名:ミヤマイタチシダ
(Dryopteris sabaei (Franch. et Sav.) C.Chr., Dryopteridaceae)
解説:九州本土では福岡県のみ?
場所:福岡県
確認日:2018.9.17
ミヤマイタチシダです。本州の冷涼な場所においては一般種ですが、九州本土では稀な種で、標準図鑑によると九州本土では福岡県のみの分布のよう。
福岡県レッドデータブック2011では「確認できなかった」とされていますが、今年調査した限りでは数十株の生育を確認しています(正確な数は伏せますが)。
が、こういうローカルな知見は、地方植物誌が無い福岡県では蓄積されずに風化していくわけですね。種子植物に至っては、植物目録すら頓挫しているし、博物館の人や先人の研究者の方々にはもう少し頑張ってほしかったな。。。
ミヤマイタチシダの最下外側。
最下外側小羽片は2番目に比べてやや発達する程度。
ミヤマイタチシダの葉身中部の側羽片。
クマワラビのように、葉脈は表面で凹みます。葉の表面には強い光沢があり、かっこいいです。
ミヤマイタチシダの葉身頂部。
鉾状にはならず、なだらかに狭まります。
ミヤマイタチシダのソーラス。
ソーラスは軸寄りに付きます。また、以下のように全体的には葉の上側2/3くらいについています。
ミヤマイタチシダのソーラスの付き方。
ミヤマイタチシダの鱗片。
葉柄には褐色で幅広の鱗片がやや疎らにつきます。中軸にもちょっとつきます。
ツルダカナワラビ
種名:ツルダカナワラビ(ツルタカナワラビ)
(Arachniodes yaoshanensis (Y.C. Wu) Seriz., Dryopteridaceae)
解説:最下側羽片の最下外側小羽片が発達しないカナワラビ
場所:鹿児島県
確認日:2018.12.1
ようやく見つけました。ツルダカナワラビです。上から順に、実葉×2、裸葉、幼株です。雑種のイヌツルダカナワラビがいろいろな場所で確認されるのに対し、親のツルダカナワラビは稀にしか見つかりません。
ツルダカナワラビの最下側羽片。
他のカナワラビ類の多くで発達する最下外側小羽片が発達しません。同じく発達しないと言われているシビカナワラビではたまに発達している株を見かけるのに対し、ツルダカナワラビでは発達している株を見かけませんでした(ここで数十株を見た限りではの話)。
ツルダカナワラビの葉身中部の側羽片。
鋸歯の先端は、ハガクレカナワラビ程ではありませんが、芒状になっています。葉質はホソバカナワラビやコバノカナワラビよりも薄いです。光沢は強くありませんでした。
ツルダカナワラビの葉身頂部。
鉾状にはならず、緩やかに狭まります。
ずっとイヌツルダカナワラビばかり見てきたので、これが本物か!とちょっと感動しました。
ツルダカナワラビのソーラス。
やや軸寄りについています。包膜は確認できなかったため、また今度。
ツルダカナワラビのソーラスの付き方。
葉身の上からつくのかと思えば、各側羽片では下側からついています。
ツルダカナワラビの根茎。
やや這いますが、葉は近接して出ており、コバノカナワラビのように点在するように生育しています(コバノカナワラビも群落になることはありますが)。
イヌツルダカナワラビ
種名:イヌツルダカナワラビ
(Arachniodes x repens Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:ツルダカナワラビとホソバカナワラビの雑種
場所:鹿児島県
確認日:2018.12.1
イヌツルダカナワラビです。形態の異なる2型を掲載します。ツルダカナワラビの自生地の近くで見つけたもので、この2型は隣り合って群落を形成していました。輪郭では上の型がよりホソバカナワラビ的で、下の型がよりツルダカナワラビ的、でしょうか(どっちとも言い難いか)。
型親のツルダカナワラビ。
イヌツルダカナワラビの最下側羽片。
上の型では最下外側小羽片が発達し、下の型ではほとんど発達しません。なお、ツルダカナワラビでは以下のように発達しません。
ツルダカナワラビの最下側羽片(葉身30cm程度の葉で)。
イヌツルダカナワラビの葉身中部の側羽片。
上の型はより鋭頭で、下の型はより鈍頭です。いずれも、鋸歯の先端が著しく芒状になっています。ちなみにツルダカナワラビの側羽片は以下の感じ。
ツルダカナワラビの側羽片。
イヌツルダカナワラビの葉身頂部。
どちらも、ツルダカナワラビに比べると明らかに鉾状になっています。
ツルダカナワラビの葉身頂部は緩やかに狭まります(以下)。
ツルダカナワラビの葉身頂部。
イヌツルダカナワラビのソーラス。
どちらも、軸寄りについています。包膜はどちらも小突起縁でした。
イヌツルダカナワラビの包膜。
イヌツルダカナワラビの根茎。
長く這うのですが、ホソバカナワラビに比べると屈曲しがちで葉のつく間隔もやや狭いです。長く這うため、林床一面に生育していたりします。ツルダカナワラビの根茎もやや這うには這うのですが、コバノカナワラビのような株状になるため、マット状の群落は形成しません。
イヌツルダカナワラビの群落(下の型ver)。