しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

オオベニシダ

種名:オオベニシダ(Dryopteris hondoensis, Dryopteridaceae)

解説:ミサキカグマとベニシダの雑種起源の種

場所:福岡県西部

確認日:2020.5.24

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オオベニシダです。福岡県には広く分布しているようですが、あまり見かけない種です。自生地でもベニシダやマルバベニシダのように群生することはなく、1株がぽつんと生えていることが多いです。本種は"オオ"ベニシダという和名が与えられていますが、他のベニシダ類と比べて"大きい"ということはなく、どちらかと言えば中〜小型です(何でややこしい名前にしたんだろう)。本当に巨大な個体である場合はベニシダかトウゴクシダであることがほとんどだと思います。

 

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一応、自然光で撮影した写真も掲載しておきます。オオベニシダは葉色が独特な緑白色〜黄緑色をしており、一瞥でベニシダとは違うなと直観できます。

 ベニシダとミサキカグマの雑種起源だと考えられている種で、そんな背景を基に観察すると中間的であることが見えてきます(Hori et al. 2018, Hybridization of the Dryopteris erythrosora complex...を参照ください)。

 

 

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オオベニシダの最下側羽片。

ベニシダやマルバベニシダのように最下外側の小羽片が著しく短縮することはなく、2番目と同じかやや短い程度です。小羽片はやや深く切れ込んで、裂片は少し丸っこい感じです。側羽片の柄は明瞭です。

 

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オオベニシダの葉身中部の側羽片。

ベニシダと比べると優しい感じがします。

 

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オオベニシダの葉身頂部。

矛状になるトウゴクシダやホコザキベニシダに比べると緩やかに狭まっています。

 

 

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オオベニシダのソーラス。

ソーラスは中間位置についています。包膜の中心部が桃色に染まる品種をホホオオベニシダとして区別する場合がありますが、この個体は微妙ですね。

 

 

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↑オオベニシダの羽軸の鱗片(側羽片基部)

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↑オオベニシダの羽軸の鱗片(側羽片の先端に近い場所)

葉身下部の羽軸や、羽軸の基部の鱗片は、鱗片の基部が袋状になりません。一方、葉身上部の羽軸や羽軸の先端付近、小羽片の鱗片は、鱗片の基部が袋状になります。

 鱗片の基部が袋状になる点はベニシダ類に、袋状にならない点はミサキカグマの面影がありますね。ついでに包膜は全縁です。

 

 

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オオベニシダのフィドルヘッド。

ベニシダのような紅色ではなく、黄緑色です。

 

 

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オオベニシダの葉柄基部の鱗片。

辺縁が淡色、中央部が濃褐色になるツートンカラーの鱗片です。