しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ミヤコヤブソテツ

種名:ミヤコヤブソテツ(Cyrtomium yamamotoi Tagawa, Dryopteridaceae)

解説:包膜の中心が黒くなる無融合生殖のヤブソテツ類。

場所:福岡県北部、中部(多分全域にいる)

確認日:2018.5.20, 2018.6.9

f:id:shidasagashi:20180626214013j:plain

 

f:id:shidasagashi:20180626214018j:plain

ヤブソテツ類では比較的訳しやすい型でしょうか。幼株だとヒラオヤブソテツ型のヤブソテツとの識別が難しくなりますが、ほとんどの成株では問題なく識別できると思います。

弱光沢型と強光沢型の写真を掲載しましたが、このほかに広葉型の個体も確認してはいます(今年はまだ見に行けていない)。無融合生殖種なので、ほかにも異なる型があるかもしれません。

県内において、弱光沢型は石灰岩地に多い印象で、強光沢型はそのほか花崗岩地などで見かける印象です。

※ヤブソテツ⇒ホソバヤマヤブソテツ型、ツヤナシヤブソテツ型、ヒラオヤブソテツ型としてコメント書いてます。

 

f:id:shidasagashi:20180626213912j:plain

ミヤコヤブソテツの最下側羽片。

ホソバヤマヤブソテツ型が細長く、ツヤナシヤブソテツ型が広卵形っぽくなるのに対し、ミヤコヤブソテツはなだらかに狭まる長い側羽片であることが特徴です。この辺が少しヒラオヤブソテツ型にも近かったりするのですが、ヒラオではもう少しツヤナシ型寄りの幅広い形状をしています。イズヤブソテツは幅が平行的で鋸歯も荒いため、識別には困りません。

 

f:id:shidasagashi:20180626213917j:plain

ミヤコヤブソテツの側羽片(葉身中部)。

前述の説明に同じで、側羽片はなだらかに狭まり長いです。側羽片の基部は広いくさび形〜やや円形なくらいです。

 

f:id:shidasagashi:20180626213922j:plain

ミヤコヤブソテツの頂羽片。

ヒロハヤブソテツやツクシヤブソテツのように、目立って大きな頂羽片は形成しません(上手く表現できないけど)。ホソバヤマヤブソテツ型のように側羽片が頂部にかけて目立って小さくなることはないと思います。

 

f:id:shidasagashi:20180626213758j:plain

ミヤコヤブソテツの側羽片の先端。

鋸歯縁です。

 

f:id:shidasagashi:20180626213807j:plain

ミヤコヤブソテツのソーラス。

裏面の全面につきます。典型的なホソバヤマヤブソテツ型に比べるとソーラスは大きいです。ヤブソテツ類に典型的という言葉はあわないかもですが...。

 

f:id:shidasagashi:20180626213812j:plain

ミヤコヤブソテツの包膜。

中心部が濃褐色になります。ツクシヤブソテツやイズヤブソテツと同じ特徴ですが、両種よりはソーラスが大きい気がします。

 

f:id:shidasagashi:20180626213823j:plain

ミヤコヤブソテツの葉身基部中軸の鱗片の様子。

ここの鱗片も識別に有用だと思っていて、ツヤナシヤブソテツ型では明らかに幅広く大きな鱗片がついています。ミヤコヤブソテツでは、細い鱗片がつきます。ちなみにヒラオヤブソテツ型もミヤコヤブソテツと同じくらいかな。

 

f:id:shidasagashi:20180626213818j:plain

ミヤコヤブソテツの葉柄基部の鱗片の様子。

ツヤナシヤブソテツ型に比べると、まばらにつきます。

ツヤナシフナコシイノデ

種名:ツヤナシフナコシイノデ

(Polystichum ovatopaleaceum (Kodama) Sa.Kurata var. ovatopaleaceum x P. polyblepharon (Roem. ex Kunze) C.Presl, Dryopteridaceae)

解説:ツヤナシイノデとイノデの雑種(ツヤナシフナコシ)。

場所:福岡県西部

確認日:2018.6.24

f:id:shidasagashi:20180625213059j:plain

f:id:shidasagashi:20180625213104j:plain

名前が長くて噛みそうです。イノデが絡んだ雑種を識別できたのは多分初めてでした。
明らかに色や風貌が異なり、違和感があったのでよく見てみるとツヤナシイノデとイノデの特徴を合わせ持つ個体でした。

 

f:id:shidasagashi:20180625212955j:plain

ツヤナシフナコシイノデの葉身頂部。

小羽片にイノデをすごく感じますね。

 

f:id:shidasagashi:20180625213003j:plain

ツヤナシフナコシイノデの側羽片(葉身中部)。

自然光での写真です。イノデよりはやや弱いですが、ツヤナシイノデよりは明らかに強い光沢があります(イノデの影響)。

 

f:id:shidasagashi:20180625213009j:plain

ツヤナシフナコシイノデの葉身基部。

側羽片や小羽片が丸っこい点にツヤナシイノデ感があります。

 

f:id:shidasagashi:20180625212847j:plain

ツヤナシフナコシイノデのソーラス(葉身上部)。

両親ともに中間生のため、ソーラスは中間生です。小羽片が鋭頭であることはイノデの、小羽片が重なり合っていることはツヤナシイノデの特徴です。

 

f:id:shidasagashi:20180625212856j:plain

ツヤナシフナコシイノデのソーラス(葉身下部)。

ソーラスが少ない時のつき方は、イノデモドキのように小羽片の耳片に優先することはありませんでした。

 

f:id:shidasagashi:20180625212910j:plain

ツヤナシフナコシイノデのソーラスのつき方。

ツヤナシイノデの特徴から、ソーラスは葉身の上部につき、葉身の下部では少なくなっていました(この個体は葉身が60cm近くもある成熟株です)。

 

f:id:shidasagashi:20180625212901j:plain

一応、胞子嚢のほとんどは未成熟でした。

 

f:id:shidasagashi:20180625212703j:plain

f:id:shidasagashi:20180625212658j:plain

f:id:shidasagashi:20180625212651j:plain

f:id:shidasagashi:20180625212916j:plain

ツヤナシフナコシイノデの鱗片(葉身上部・中部・基部・葉柄下部)。

イノデに比べると葉身上部の鱗片は明らかに幅広いです。また、葉柄下部の鱗片には広卵形のものが混じります。

※逆毛にはなりません。

 

f:id:shidasagashi:20180625212716j:plain

イノデ(上)とツヤナシフナコシイノデ(下)の比較(葉身基部)。

ツヤナシフナコシイノデでは、イノデよりもやや幅広く、また少し白っぽい(ツヤナシイノデの影響)ことがわかります。

 

f:id:shidasagashi:20180625212711j:plain

イノデ(上)とツヤナシフナコシイノデ(下)の比較(葉柄基部)。

ツヤナシフナコシイノデでは広卵形の鱗片が混じります(ツヤナシイノデの影響)。

ヒゴカナワラビ

種名:ヒゴカナワラビ

(Arachniodes simulans (Ching) Ching, Dryopteridaceae)

解説:ミドリカナワラビ系の光沢の弱い種。

場所:熊本県

確認日:2018.6.17

f:id:shidasagashi:20180622233736j:plain

f:id:shidasagashi:20180622233730j:plain

ヒゴカナワラビ(2枚)。今春見つけた時には包膜の状態が悪かったため、再度確認してきました。最初の写真は自然光下で撮影した個体です。ここには大株がそこそこ生育しています。本当はサンヨウカナワラビと比べてみたいところですが、まだ見たことがないので(笑)、ミドリカナワラビ(福岡県産)と比べることにしました。

 

f:id:shidasagashi:20180622233724j:plain

f:id:shidasagashi:20180622233718j:plain

ミドリカナワラビ(上は自然光下で撮影)。

比べてみると、ヒゴカナワラビでは葉身が幅広く、小羽片がより丸っこいことがわかるかと思います(宮崎のM先生にも丸っこいことが特徴だと教わりました)。標準図鑑に記載の広五角形状の葉身というのも、その通りの葉形ですかね。

また、自然光下での写真で比べるとわかりやすいですが、ヒゴカナワラビではより白っぽく光沢の少ない葉色、ミドリカナワラビではより緑っぽく、光沢のある葉色をしています。

 

f:id:shidasagashi:20180622233418j:plain

ヒゴカナワラビの側羽片(実葉・葉身上部)。

f:id:shidasagashi:20180622233549j:plain

ミドリカナワラビの側羽片(実葉・葉身中部)

ヒゴカナワラビでは全体に丸っこい小羽片(裂片)であることがわかります。

 

f:id:shidasagashi:20180622233423j:plain

ヒゴカナワラビの小羽片(裸葉)

裸葉ではより丸っこいことがわかりやすいです。また、裂片の先端は芒状です。

 

f:id:shidasagashi:20180622233413j:plain

ヒゴカナワラビの最下側羽片(大型の葉)。

最下外側の第1小羽片が著しく発達することはなく、2番目と同じ程度です。

 

f:id:shidasagashi:20180622233400j:plain

ヒゴカナワラビの葉身頂部(大型の葉)。

徐々に狭まり、やや鉾状なくらいで、明瞭な頂羽片は形成していません。

 

f:id:shidasagashi:20180622233428j:plain

f:id:shidasagashi:20180622233239j:plain

ヒゴカナワラビのソーラス(2枚は別個体のもの)。

f:id:shidasagashi:20180622233555j:plain

ミドリカナワラビのソーラス。

ヒゴカナワラビのソーラスは、軸と辺縁の中間〜辺縁寄りに位置しています。ミドリカナワラビよりはやや辺縁寄りな気もしますが、同程度な場合もあると思います。

 

f:id:shidasagashi:20180622233244j:plain

ヒゴカナワラビの包膜。

f:id:shidasagashi:20180622233609j:plain

ミドリカナワラビの包膜。

ヒゴカナワラビの包膜は毛状突起縁で、ミドリカナワラビの包膜は突起縁です(やや未熟なことは否めないけど)。この点で、この個体がサンヨウカナワラビではないと言えるかと思います(胞子も定形だったし)。

 

f:id:shidasagashi:20180622233233j:plain

ヒゴカナワラビの小羽片裏の毛の様子。

f:id:shidasagashi:20180622233603j:plain

ミドリカナワラビの小羽片裏の毛の様子。

毛の量は同じか、ミドリカナワラビの方がやや多いくらいですかね。

 

f:id:shidasagashi:20180622233253j:plain

ヒゴカナワラビの葉柄上部の色。

葉柄上部というか、中軸の下部まで淡紅色でした。

 

f:id:shidasagashi:20180622233248j:plain

ヒゴカナワラビの葉柄下部の様子。

葉柄は下部まで淡紅色で、鱗片は褐色でした。

ミヤコイヌワラビ(ダンドイヌワラビ)

種名:ミヤコイヌワラビ(ダンドイヌワラビ)

(Athyrium frangulum Tagawa f. viride Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:青軸のミヤコイヌワラビ。

場所:福岡県南部

確認日:2018.6.16

f:id:shidasagashi:20180620215148j:plain

ミヤコイヌワラビがなかなか見つからずに、ホソバイヌワラビと勘違いしているのかななどと思っていましたが、今回初めて出会いました。ホソバイヌワラビとは全然違いました。笑

こちらは青軸品種のダンドイヌワラビになります。とても綺麗なシダでした。

 

f:id:shidasagashi:20180620215159j:plain

 

f:id:shidasagashi:20180620215153j:plain

ミヤコイヌワラビの葉身(上下)。

鮮やかな緑色をしており、ツヤのないホソバイヌワラビとは対照的な程です。春に低い位置に葉をつけ、その後高い位置に葉を伸ばす様はホソバイヌワラビに似ていますが、葉質はむしろタカサゴイヌワラビに似ています。

 

f:id:shidasagashi:20180620215054j:plain

ミヤコイヌワラビ(左)とホソバイヌワラビ(右)

ここでは混生していました。並べてみると一目瞭然ですが、葉面の色合い、裂片の切れ込み、中軸や羽軸の太さが異なります。

 

f:id:shidasagashi:20180620215101j:plain

ミヤコイヌワラビの最下側羽片。

明瞭な柄があり、また最下外側小羽片は短縮しません(こちらの柄も明瞭)。

 

f:id:shidasagashi:20180620214920j:plain

ミヤコイヌワラビの中部の側羽片。

小羽片はやや重なり合ってつき、裂片は切れ込みが深いことがわかります。

 

f:id:shidasagashi:20180620214937j:plain

ミヤコイヌワラビのソーラス。

軸寄りにつき、鈎形のものも混じります。

羽軸には短腺毛が散生します。

 

f:id:shidasagashi:20180620214944j:plain

ミヤコイヌワラビの軸上の突起。

ホソバイヌワラビのように顕著な突起が生じていますが、ややホソバイヌワラビよりも長いように思います。

 

f:id:shidasagashi:20180620214926j:plain

ミヤコイヌワラビの中軸。

綺麗な青軸(ダンドイヌワラビの型のため)であるほか、狭い羽がありました。

ホソバイヌワラビに比べると太い中軸ですが、もろく折れやすいです。

 

f:id:shidasagashi:20180620214950j:plain

ミヤコイヌワラビの葉柄基部の鱗片。

辺縁は褐色で、中部は濃褐色でした。

ツヤナシイノデモドキ

種名:ツヤナシイノデモドキ

(Polystichum x pseudo-ovatopaleaceum Akasawa, Dryopteridaceae)

解説:ツヤナシイノデとイノデモドキの雑種。

場所:福岡県南部

確認日:2018.6.16

f:id:shidasagashi:20180619214553j:plain

ツヤナシイノデとイノデモドキが群生していたので、もしやいるかな〜と思って探してみたところ、見つかりました(初めて見つけた)。せっかくなので、両親種との形態の違いを議論しながら記録しておくことにします。

 

f:id:shidasagashi:20180619214613j:plain

ツヤナシイノデモドキの葉身。

 

f:id:shidasagashi:20180619214440j:plain

ツナヤナシイノデ(上)、ツヤナシイノデモドキ(中)、イノデモドキ(下)。

倒披針形な葉形のツヤナシイノデと、いわゆるカヌー型を典型とするイノデモドキの中間的な形をしています。

 

f:id:shidasagashi:20180619214451j:plain

イノデモドキ(左)、ツヤナシイノデモドキ(中)、ツヤナシイノデ(右)。

葉面に光沢のあるイノデモドキと、ほとんど光沢の無いツヤナシイノデに対し、ツヤナシイノデモドキではやや光沢がある程度です。また、ツヤナシイノデの小羽片が重なり合うという特徴は、ツヤナシイノデモドキにも反映されていますね。

 

f:id:shidasagashi:20180619214502j:plain

ツヤナシイノデモドキの側羽片(一応掲載)。

 

f:id:shidasagashi:20180619214253j:plain

f:id:shidasagashi:20180619214302j:plain

ツヤナシイノデモドキのソーラス(上:葉身上部、下:葉身下部)。

写真が多くなるので載せませんが、ツヤナシイノデはソーラスが葉身の上半分くらいにつくことが多く、イノデモドキは基本全面につきますが、ツヤナシイノデモドキでは基本的に全面につくようでした。

また、小羽片につくソーラスが少ない時、イノデモドキでは小羽片上側の耳片部に優先してつき、ツヤナシイノデでは小羽片の外側からつく傾向がありますが、ツヤナシイノデモドキでは上の写真のようにやや小羽片上側の耳片部に優先する傾向があるようです。

文章が長くなったので、一番わかりやすい特徴の違いを並べて比較してみます。

f:id:shidasagashi:20180619213921j:plain

葉身基部の鱗片の様子(上:ツヤナシイノデ、下:ツヤナシイノデモドキ)

f:id:shidasagashi:20180619213945j:plain

葉身基部の鱗片の様子(上:イノデモドキ、下:ツヤナシイノデモドキ)

ツヤナシイノデの鱗片は幅広く、辺縁は少し突起縁な程度で、開出気味につきます。

イノデモドキの鱗片は幅狭く、辺縁は著しい突起縁で、中軸に平行につきます。

ツヤナシイノデモドキの鱗片は幅広く、辺縁は著しい突起縁で、中軸に平行につきます。ちょうど両種の中間的な形態で、わかりやすいですね。

 

f:id:shidasagashi:20180619214228j:plain

ツヤナシイノデモドキの葉身基部の中軸の鱗片(一応拡大も掲載)。

 

f:id:shidasagashi:20180619214214j:plain

ツヤナシイノデモドキの葉柄基部の鱗片。

ツヤナシイノデに類似して、幅広の鱗片が密についていました。

 

f:id:shidasagashi:20180619213914j:plain

ソーラスが成熟していなかったり、胞子が不定形であることは雑種であることの必要十分条件ではありませんが、判断の参考にはなります。この個体では成熟していませんでした。