しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ツクシオオクジャク

種名:ツクシオオクジャク(Dryopteris handeliana C.Chr., Dryopteridaceae)

解説:包膜が辺縁よりな有性生殖種。

場所:福岡県南部

確認日:2017.4.12, 2018.6.16

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このブログの背景画像にもしていますが、ここでようやく紹介。笑

県内では無融合生殖種のイワヘゴ、イヌイワヘゴ、オオクジャクシダ、有性生殖種のツクシイワヘゴが普通に見られる一方、ツクシオオクジャクはごく限られた場所でのみ確認しています。また、自生地のいくつかはシカ食害の増加が著しい場所のため、局地的に絶滅・衰退しているものと思っています。

 

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ツクシオオクジャクの葉身。

葉身の最大幅は中部〜やや上部にあり、基部にかけて幅が狭くなります。この時期とても綺麗な緑色をしています。

側羽片はイヌイワヘゴのように鎌状にはなりません。また、イワヘゴ類よりも幅広くぼってりとした感じです。

 

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ツクシオオクジャクの葉身頂部。

急に狭まり、穂状の頂部を形作っています。

 

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ツクシオオクジャクの葉身基部。

下部の側羽片は短縮するほか、下向きになっています。また、上部と下部の側羽片基部ははっきりと切形になっており、シャープな印象です。

 

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ツクシオオクジャクの側羽片(葉身中部)。

辺縁は鋸歯状で、イワヘゴのように浅裂もしません。葉身は鮮緑色で、脈ははっきりとくぼみ、またオオクジャクシダやキヨズミオオクジャクよりも脈の間隔は狭く密度が高いように感じます。

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ツクシオオクジャクの脈がくぼんでいる様子(自然光下で)。

 

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ツクシオオクジャクのソーラス。

先端側からつき始め、ごく辺縁に沿って並びます。すごく特徴的。

 

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ツクシオオクジャクの包膜は全縁でした。

 

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ツクシオオクジャクの葉柄最上部の鱗片。

やや明るい褐色で、鱗片の辺縁は全縁です。

 

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ツクシオオクジャクの葉柄基部の鱗片。

褐色〜濃褐色で、こちらも全縁でした。

ベニオオイタチシダ

種名:ベニオオイタチシダ(Dryopteris erythrovaria K.Hori & N.Murak., Dryopteridaceae)

解説:オオイタチシダよりも葉質が薄い無融合生殖種。

場所:福岡県西部

確認日:2018.6.9

従来のオオイタチシダは、Hori et al (2018)*の研究において本種ベニオオイタチシダと、イワオオイタチシダ、オオイタチシダの3種に整理されました。

*Revised Classification of the Species within the Dryopteris varia Complex (Dryopteridaceae) in Japan

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福岡県でも沿海地では普通に見られるようです。広く見られるオオイタチシダに比べると、ハチジョウベニシダが入っている分、葉質が薄く、葉身も大きくなり、より"ベニシダ感"を強く感じます。

 

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ベニオオイタチシダの葉身。

オオイタチシダ(アツバ)に比べると葉身はより長楕円状に近い印象を受けました。光沢はあります。

 

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ベニオオイタチシダの葉身の頂部。

やや穂状になるものの、オオイタチシダよりも狭まり方は緩やかです。

 

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ベニオオイタチシダの最下側羽片。

 

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オオイタチシダ(アツバ)の最下側羽片。

ベニオオイタチシダでは、裂片の辺縁が反り返らず、平らであることがわかります。

また比較的切れ込みが深いです。

最下外側小羽片の長さについては、個体によって伸張度合に差がありましたが、2番目の小羽片に比べて著しく発達することは少ないように思いました。

 

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ベニオオイタチシダの小羽片(中部の側羽片)。

ベニシダ感があり、前述した通り裂片の辺縁は平ら、小羽片の先端はやや鋭頭です。

 

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ベニオオイタチシダのソーラス1

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ベニオオイタチシダのソーラス2

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ベニオオイタチシダのソーラス3

ソーラスの位置は、辺縁と軸の中間です。この個体は包膜の中心が紅色ではなく、包膜の辺縁は全縁でした。

 

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ベニオオイタチシダの羽軸の鱗片。

鱗片の基部は袋状のものが多いです。

 

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ベニオオイタチシダの中軸(最下側羽片基部)の鱗片

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オオイタチシダ(アツバ)の中軸(最下側羽片基部)の鱗片

ベニオオイタチシダでは、鱗片基部の淡色部分の広さがオオイタチシダに比べて狭いように思います。

 

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ベニオオイタチシダの葉柄基部の鱗片。

ややツヤのある黒〜黒褐色といった具合です。形態的にはナンカイイタチシダの鱗片に似ているように思います。

 

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葉身の長さが80cm程にもなり、遠目にはベニシダに見えるような大株もありました。

サイゴクホングウシダ

種名:サイゴクホングウシダ(Osmolindsaea japonica (Baker) Lehtonen et Christenh., Lindsaeaceae)

解説:渓流に生育するホングウシダ。

場所:福岡県西部

確認日:2016.6.18, 2017.10.14, 2018.6.9

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増水時には沈水するような渓流の岩上に生育していました。県内では2箇所で確認していますが、いずれも明るい環境でした。

 

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サイゴクホングウシダの葉身。

水の流れを受け流せそうな、滑らかな質感です。

 

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サイゴクホングウシダの葉身頂部。

側羽片とほぼ同形の頂羽片があります。

 

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サイゴクホングウシダの葉身中部の側羽片。

ちょっと切れ込みがある程度。

 

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サイゴクホングウシダの最下側羽片。

上部の側羽片に比べて深く切れ込んでいます(ソーラスがついていないから)。

 

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サイゴクホングウシダのソーラス。

包膜は全縁から波状縁程度です。

コウラボシ

種名:コウラボシ(Lepisorus uchiyamae (Makino) H.Itô , Polypodiaceae)

解説:沿海地に生えるノキシノブ。

場所:宮崎県

確認日:2018.6.3

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こんな場所に生えるのか!と驚くほど過酷そうな環境に生育していました。

パキパキとした質感で、ノキシノブとは似ても似つかないくらい異なる風貌です。

 

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コウラボシの葉身(実葉)。

パキパキとした質感で、表面には細脈がやや隆起?しており凹凸があります。

葉身の長さは1cmくらいのものから5cmくらいのものまでありました。

 

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コウラボシの葉身基部。

葉柄は細長く、葉身が羽根状に流れています。

 

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コウラボシのソーラスの様子。

やや中軸に寄っており、葉身の上半部くらいまでついていました。

この写真からもわかりますが、ノキシノブやツクシノキシノブ等とは異なり、盾状鱗片が細いです(両種が円形であることに対し)。

 

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コウラボシの盾状鱗片の拡大。

狭三角状で、葉柄につく鱗片のような形状で特徴的です。

 

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コウラボシの葉柄基部の鱗片。

ノキシノブやツクシノキシノブのように中央が濃色になることはないです。

ニセヨゴレイタチシダ

種名:ニセヨゴレイタチシダ(Dryopteris hadanoi Sa.Kurata, Dryopteridaceae)

解説:汚れてはいません(その2)。

場所:宮崎県

確認日:2018.6.3

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先生からたくさんいるとは聞いていたものの、正確な場所までは聞いていなかったので不安でしたが、本当にたくさん見つかりました(笑)

陽地で見かけることが多かったですが、林内にも生えていました。陽地に生える場合は、葉色が写真2,3枚目のように黄緑色になり、林内に生える場合は写真1枚目のように緑色でした。

周囲にはヨゴレイタチシダは自生しないため区別には困りませんが、ややオオイタチシダ(アツバ)や光沢のあるナンカイイタチシダに似ている感じです。

ヨゴレイタチシダが重厚感のある渋い雰囲気なのに対し、ニセヨゴレイタチシダは若々しい(水々しい?)感じでした。笑

 

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ニセヨゴレイタチシダの最下側羽片の基部。

ヨゴレイタチシダのように柄が明らかに長いです。葉身10cm程度の幼株でも柄は目立つ印象を持ちました。

 

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ニセヨゴレイタチシダの側羽片基部(中部)。

柄は一応あります。小羽片や裂片はやや丸っこく、厚い質感です。

 

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ニセヨゴレイタチシダの葉身頂部。

頂羽片は不明瞭ですが、やや矛状であることが多かったです。

 

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ニセヨゴレイタチシダのソーラスの様子。

この種の特徴でもありますが、包膜は早落性のため確認できません。位置は中間〜やや辺縁寄り。

羽軸の鱗片の基部はオオイタチシダのように袋状にはならず、また褐色です。

 

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ニセヨゴレイタチシダの中軸の鱗片。

ヨゴレの所以にもなっている圧着ぶりです。ヨゴレイタチが黒褐色であるのに対し、ニセヨゴレでは褐色〜赤褐色といったところでした。

 

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ニセヨゴレイタチシダの葉柄基部の鱗片の様子。

新しいものでは褐色〜赤褐色で、細長いです。ヨゴレイタチシダも葉柄のごく基部の鱗片は褐色ですが、ヨゴレの鱗片は真っ直ぐで、ニセヨゴレではややわしゃわしゃしていました。