ヒメハイホラゴケ
種名:ヒメハイホラゴケ(Vandenboschia nipponica (Nakai) Ebihara, Hymenophyllaceae)
解説:コハイホラゴケとよく誤認される種
場所:大分県
確認日:2018.3.17
ようやく納得できるヒメハイホラゴケを見つけました。
そしてこれまでに見てきた”立体的な羽片のハイホラゴケ”がコハイホラゴケであったのだと納得できました(ホクリクの可能性はあるけど)。
質感や葉身、羽片の様子がコハイホラゴケとはまるで違いました。
ヒメハイホラゴケの実葉。
葉身の幅は1.2〜1.4cm程度かな。葉身は明らかに細長いです。
ヒメハイホラゴケの葉身下部
いわゆる立体的な側羽片で、軸に対して面が斜めについています。
側羽片は小さい卵状の三角形で、側羽片間にはやや隙間があるように思います(コハイホラゴケに比べて)。
ヒメハイホラゴケの上部の側羽片(ソーラス)の様子。
開口部はやや反り返っています。ハイホラゴケに比べると広く開いています。
ヒメハイホラゴケの裸葉。
実葉に比べると立体的でないように見えますが、中軸に対してはやはり斜めについています。
ヒメハイホラゴケの根茎。
褐色の鱗片が密生しています。太さはハイホラゴケよりも気持ち細め。
やや乾燥した岩の隙間で見つけました。
裂片が立体的であればとりあえずヒメハイホラゴケというのはもう古い考えで、ここら(九州あたりの中〜低山地)で見つかるそのような型はハイホラゴケとヒメハイホラゴケとの雑種のコハイホラゴケがほとんどです。
ハイホラゴケが混じる分、コハイホラゴケでは葉身がやや幅広くなり、側羽片(特に最下側羽片)はやや幅広く?なっているように思います。
コハイホラゴケにはハイホラ寄りのものと、ヒメハイホラよりのものがいるそうなので、ホクリクハイホラゴケも含めて探してみるつもりです。
トミタカナワラビ
種名:トミタカナワラビ(Arachniodes x tomitae Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:ミドリカナワラビとハカタシダの雑種
場所:熊本県
確認日:2018.3.4
トミタカナワラビとしていますが、半信半疑です。ぱっと見でミドリカナワラビ感があること、ヤマグチカナワラビではないことは直観しましたがイツキカナワラビとかそのへんの近縁種をまだ認識したことがないもので...。
トミタカナワラビの葉身頂部の様子。
とりあえずは、(やや)明瞭な頂羽片があること、葉柄が緑色(藁色、後述)であることから、ミドリカナワラビや近縁なその他の種、サンヨウカナワラビ等ではないことはわかります。
参考に、こちらはヤマグチカナワラビの葉身頂部。
トミタカナワラビでは、小羽片がやや細っそりとしているのに対し、ヤマグチカナワラビでは四角形的であり異なることがわかります。葉質はトミタの方が明らかに硬質でした。
トミタカナワラビの最下羽片の様子。
最下羽片の外側小羽片が著しく発達しています。光沢は強めです。
トミタカナワラビの中部側羽片(小羽片)の様子。
小羽片はやや細長く、切れ込みが深い。裂片が細くまとまっており、隙間が目立ちます。裂片の先端は顕著な芒となっています。
参考にヤマグチカナワラビの中部側羽片。
こうして比べてみると、葉質や裂片の切れ込み具合、小羽片の形状等明らかに異なることがわかります。
トミタカナワラビのソーラスの様子。
軸と辺縁の中間位置についています。
トミタカナワラビのソーラスの拡大。
微妙に突起縁〜全縁でした(確認した時期がよくない可能性もある)。
裏面に毛が散生していることもわかります。
トミタカナワラビの葉柄基部の鱗片。
淡褐色でやや広く、ミドリカナワラビ的です。
葉柄は基部までしっかり緑色で、淡紅色でないことから、ミドリカナワラビ系の種そのものでないことがわかります。
トミタカナワラビの根茎の様子。
ミドリカナワラビよりも葉のつく間隔がやや広い気がします。
熊本県では、ミドリカナワラビの他にイツキカナワラビ等も記録があります。イツキそのものを私は見たことがないので、片親がイツキである可能性は棄却できずにいますが、その場合には包膜に部分的にでも毛状突起が見られるものかと思います。
頂羽片が明瞭となることから、もう片親はハカタシダ、オオカナワラビ、ホソバカナワラビが考えられます。オオカナワラビである可能性は前述の通り低いと考えられ、ホソバカナワラビである可能性は根茎の様子と確認地がかなり内陸であることから低いかと考えています。
ということで、なんだか裂片が切れ込み過ぎな感はありますが、ひとまずトミタカナワラビと同定してみました。
ツクシノキシノブ
種名:ツクシノキシノブ(Lepisorus tosaensis (Makino) H.Itô , Polypodiaceae)
解説:やわらかいノキシノブ
場所:福岡県南部
確認日:2018.2.18
九州南部ではお馴染みのツクシノキシノブですが、福岡県でも無事見つけました。宮崎県や鹿児島県で見つけた時と同様、本県でも沢沿いの枝や樹上に着生しています。
葉質は柔らかくてぼってりしており独特なので、本県で見られる他のノキシノブ類とは容易に識別できます。
この個体は立派な方で、葉幅は20mm近くありました。
ツクシノキシノブの葉身上部
頂部はやや尾状になり、ソーラスがついている部分は表面に突出します。他のノキシノブやミヤマノキシノブとかも表面に突出はしますけどね。
ツクシノキシノブのソーラスの様子。
中軸寄りについています。
ツクシノキシノブのソーラスの拡大。
この仲間では未熟なソーラスには盾状の鱗片がつきます。ツクシノキシノブには中央部が濃褐色の円形の鱗片がついていました。
ツクシノキシノブの葉柄基部の拡大。
根茎の先端部には鱗片が密生していました。
お約束の鱗片の拡大図。
ツクシノキシノブでは基部が広くなります。
ナンピイノモトソウ
種名:ナンピイノモトソウ(Pteris x austrohigoensis Sa.Kurata, Pteridaceae)
解説:クマガワイノモトソウとキドイノモトソウの雑種
場所:熊本県
確認日:2018.1.4
ある場所で一株だけ見つけました。最初はオオバノイノモトソウとクマガワイノモトソウの雑種として発表されたようです。
確認地はクマガワイノモトソウが多数生育する場所で、キドイノモトソウの他にイノモトソウやオオバノイノモトソウ、マツサカシダ、イツキイノモトソウも生育していました。
ナンピイノモトソウの実葉。
クマガワイノモトソウに比べて、各羽片は明らかに細長く、また頂羽片は著しく長く伸張しています。
ナンピイノモトソウの頂羽片基部(実葉)。
この程度の延着であれば"延着しない種"とみています。イツキイノモトソウに比べると明らかですかね。
ナンピイノモトソウの最下側羽片(実葉)。
細長く、辺縁の膠質の部分はクマガワイノモトソウのように発達しています。キドイノモトソウと言えば偽脈が見られることが特徴ですが、この個体では明瞭な偽脈は確認できませんでした(胞子は不定形でした)。
ナンピイノモトソウの裸葉(半分)。
各羽片の幅はクマガワイノモトソウと同じくらい幅広ですが、側羽片が2対と多いです。また各羽片の先端はクマガワイノモトソウより鋭頭でした。
ナンピイノモトソウの葉脈。
辺縁に達するものと達しないものがありました。
偽脈が確認できなかったことが気がかりですが、辺縁に達しない脈が多くあり、葉身が軸に流れることもないので片親はキドイノモトソウだと推定するのが妥当ですかね。
イツキイノモトソウ
種名:イツキイノモトソウ(Pteris x calcarea Sa.Kurata, Pteridaceae)
解説:クマガワイノモトソウとイノモトソウの雑種
場所:熊本県
確認日:2018.1.3
クマガワイノモトソウと同所的に生育していました。名前は最初に発見された場所の地名ですが、他の場所でも見つかります。有性生殖のクマガワイノモトソウと無融合生殖のイノモトソウ間の雑種とされています。
葉身が中軸に延着することや羽片の幅、色合い等から、両親種と識別しやすい雑種だと思います。全体にイノモトソウよりもがっちりとした重厚感がありました。
イツキイノモトソウの中軸(実葉)。
イノモトソウのように軸に延着していることがわかりますが、ちょっとぎこちないですね。
イツキイノモトソウの最下側羽片(実葉)。
このくらいのサイズのイノモトソウでは、側羽片から複数の裂片が分岐しますが、イツキイノモトソウでは分岐数は少なく、(0〜)1(〜2)本のみでした(5株の観察で)。
イツキイノモトソウ(左)とクマガワイノモトソウ(右)。
イツキイノモトソウは各羽片が幅広く、また葉身の色合いがクマガワイノモトソウに類似していることがわかります。
イツキイノモトソウの裸葉。
イノモトソウに比べて鋸歯が細かく均質で、また葉質はより硬質です。
イツキイノモトソウの葉身の様子。
イツキイノモトソウのソーラスの様子。
イノモトソウだとわずかに偽脈があり、クマガワイノモトソウには偽脈がありません。
少しはでるかと思いましたが、イツキイノモトソウでは偽脈は確認できませんでした。
イツキイノモトソウの脈。
イノモトソウの脈は辺縁に達しない、クマガワイノモトソウの脈は辺縁に達するとのことで、中間的...と言うよりは達していない傾向が強かったです。
イツキイノモトソウの鱗片の様子。