しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

サツマシダ

種名:サツマシダ(Ctenitis sinii (Ching) Ohwi, Dryopteridaceae)

解説:一番かっこいいと思うシダ(個人的に)。

場所:鹿児島県本土

確認日:2017.6.17、2017.8.8

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鹿児島シリーズもここで一息入れようかな。サツマシダ。

鮮やかな黄緑色と金属光沢のある褐色の鱗片のコントラストが美しいシダです。

日本ではごく限られた地域に分布してます。

 

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けっこう大きくなり、この個体では葉身だけで70cm近くありました。

 

 

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Tectariaチックな印象もありますが、今はカツモウイノデ属にされています。

各軸には赤褐色(と赤紫の間くらいの色)の鱗片が密生しています。

明るい黄緑色なので若い葉かと思いがちですが、これで成熟した実葉になります。

 

 

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葉身頂部の裏面。ソーラスは軸と辺縁の中間に広く不規則に散在しています。

包膜は無く、ツクシイワヘゴみたいにどっしりとした大きなソーラスです。

 

 

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側羽片の裏面だとこんな感じ。中軸に鱗片がびっしり。葉はなんだかのっぺりとしていて独特です。

 

 

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葉柄基部の鱗片は毛状で密生しています。人里で普通に見られる種にはこういうタイプの種はいないので、初めて見つけた時は驚愕でした。

 

 

それにしても、オークションに出されてたり栽培をアピールしてる人がいてびっくりしました。他人のすることに文句は言わんけど、希少種とは節度を持って付き合ってほしいものです。

キュウシュウイノデ

種名:キュウシュウイノデ(Polystichum grandifrons C.Chr., Dryopteridaceae)

解説:葉身頂部が矛状になるイノデ

場所:鹿児島県本土

確認日:2017.6.17、2017.8.8、2020.1.4

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まだまだネット上には形態情報の少ないイノデ様です。思いの外すぐに見つけることができました(通常、自生状態ではほとんど見る機会の無いイノデです)。

よく見るイノデ類に比べてぼってりとしている感じがわかるかと思います。

 

[2020.1.6追記]

知人の研究者の方から教わっていた群生地の状況を確認してきました。私が見つけた場所には子株が1個体しかいませんでしたが、ここには大型の個体が多数生育しています。大型になったものは、重厚感のある風貌をしており、圧倒されます。

※昔撮影した写真の画質が微妙です。

 

葉身の頂部が急に狭まり、やや頂羽片状になること、葉の表面の光沢がやや強いことがキュウシュウイノデの特徴です。

若い葉は黄緑色〜緑色ですが、成熟した葉は深緑色を呈しています。

以下、軽易な部分は適宜加筆・修正しています。

  

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キュウシュウイノデの葉身頂部。

頂部が矛状になっています。

 

 [2020.1.6追記]

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キュウシュウイノデの葉身中部の側羽片。

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キュウシュウイノデの最下側羽片。

葉身下部の小羽片は丸っこく鈍頭で、辺縁には先端がやや芒状の細かい鋸歯があります(発達した小羽片ではやや鋭頭になっていますが)。

近隣でよく見られるイノデやサイゴク、モドキとはかなり異なった風貌です。

また、小羽片同士はツヤナシイノデのように明らかに重なり合っています(サイズ感は全く違うんだけど)。

 

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キュウシュウイノデのソーラス。


ソーラスはやや軸よりの中間性です。図鑑の記述では包膜が無いとのことですが、時期的に確認できませんでした。

小羽片基部上側は鋭頭の耳片となっています(ノギが痛いくらい)。

 

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キュウシュウイノデの葉柄基部の鱗片。

褐色の鱗片がやや密についています。以下のように、葉柄上部や中軸にかけて鱗片は細くなりますが、いずれも明らかな突起縁です。
 

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キュウシュウイノデの葉柄基部鱗片の拡大。

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キュウシュウイノデの中軸の鱗片の拡大。 

 

 

ミゾシダモドキ

種名:ミゾシダモドキ(Thelypteris leveillei (Christ) C.M.Kuo, Thelypteridaceae)

解説:ミゾシダに似ているけど違う種。

場所:鹿児島県本土

確認日:2017.8.8

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鹿児島シリーズ第4回目。まずどこにでもいらっしゃるミゾシダとは生育環境が異なるようです。

 

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最下羽片の様子。本種の一番目立つ特徴で、最下羽片は著しく短縮します。

 

 

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側羽片。ミゾシダに比べてやや端正が整った裂片をしています。基部は短縮。

 

 

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側羽片基部の様子。ミゾシダモドキには写真のような通気孔がありますが、ミゾシダにはこれがありません。

 

 

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側羽片の裏側の様子。ソーラスは中間位置で、ミゾシダのように線状になりません。裂片の側脈もミゾシダに比べると開出しており、数は多いです。以下のミゾシダ参照。

 

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ミゾシダの側羽片裏面。ミゾシダモドキに比べて、ソーラスは線状に伸び、裂片の側脈の軸に対する角度は狭いです。

 

 

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ミゾシダモドキの葉の表面は裂片の主脈と辺縁に突起毛があるのみですが、

 

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ミゾシダでは全面に散生しています。

 

 

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葉柄基部の鱗片は、淡褐色〜褐色です。

 

モドキとは言っても、ミゾシダとのわかりやすい違いがたくさんあり、親切な種ですね。他にも、ミゾシダモドキでは中軸の向軸側に顕著な溝があったりします。

コマチイワヒトデ

種名:コマチイワヒトデ(Leptochilus elegans (Sa.Kurata) Nakaike, Polypodiaceae)

解説:オオイワヒトデ似の種。

場所:鹿児島県本土。

確認日:2017.6.17、2017.8.8

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鹿児島シリーズ第3回目。大きさも形もオオイワヒトデそっくりな種です。オオイワがあちこちに生えていたのに対し、見つけたコマチイワヒトデはこの1株だけでした。

 

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側羽片の様子。艶やかな質感で、オオイワヒトデよりはしなやか(柔らかい)です。

 

 

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側羽片の裏の様子。ソーラスは軸寄りに長くつきます。葉面はやや緑白色です。葉脈は葉面から確認できません。

 

 

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頂部の裏面。同様に緑白色です。胞子葉も栄養葉も同じくらいで2形性はありません。

 

 

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葉軸に生じる羽は基部まで連続しています。

 

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根茎の様子。オオイワとほとんど同じくらいの太さです。脈がほとんど見えないといってもアイイワヒトデとかではないことがわかります。

 

 

参考として、オオイワヒトデを以下に載せます。

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葉身頂部。葉脈がはっきりと確認できますね。ソーラスはこちらも軸寄りにつきます。

 

 

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左がオオイワ、右がコマチ。比べてみると、違いは一目瞭然。同じくらいのサイズですと、側羽片の数はコマチの方が少ないです。

また、側羽片の辺縁は、オオイワに比べてウェーブ(波状縁)が緩いことも確認できます。頂羽片もコマチの方が長いです。

葉質がよりしなやかで、コマチ(小町)とかelegansとかいう名前の由来もなんとなくわかる気がしますね。笑

 

裏面が白っぽくなると言われていますが、この個体のようにほとんど白くならない場合も普通にあるそうです(名前を出して良いのかわかりませんので、シダの先生に教えていただいたと書いておきます)。

掲載したのはコマチの1つのタイプに過ぎず、変異がいろいろあるそうです。こちらについては日本シダの会会報 Vol.2 No.86(1991.8.1)をご確認いただければと思います。

シビカナワラビ

種名:シビカナワラビ(Arachniodes hekiana Sa.Kurata, Dryopteridaceae)

解説:ミドリカナワラビ的なオオカナワラビ。

場所:鹿児島県本土。

確認日:2017.8.8

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鹿児島シダの旅その2(笑)。↑シビカナワラビ①

本種は最下外側の小羽片がその上(2番目)に比べて著しく伸張しないことで有名ですね。ここには200株を超える多数の個体が生育していました。とりあえず一般的に認知されてそうなタイプを掲載してみましたが、現地ではこういうのはどちらかというと極端なタイプであるように思いました。他のも載せます。

 

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シビカナワラビ②

 

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シビカナワラビ③

類似種とされるオオカナワラビが緑(やや黄緑も)〜深緑色で変異するのに対し、シビカナワラビはだいたい各写真のような鮮緑色でした。

葉質は薄くてやや柔らかく、オオカナ比ではその2/3くらいの厚さです。

 

 

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シビカナワラビ①の葉身頂部。明瞭な頂羽片があります。基部が広がるヤマグチカナワラビとの識別点になります。

 

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シビカナワラビ①の最下側羽片基部。外側1番目が2番目とほぼ同じです。他にも、各小羽片は切れ込みが深いことがわかります。この個体では浅〜中裂してました。

 

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①の(略した)真ん中くらいの側羽片基部。やはり切れ込みは深いです。個体によって切れ込みの深さには違いがありそうでしたが、オオカナよりは切れ込みが深い傾向はありそうでした。

 

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①の頂羽片裏側。ソーラスは小羽片の辺縁と軸の中間に位置しています。小羽片の切れ込みが深めなために、中間位置に押しとどめられているような感じです。

 

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①の側羽片の裏側。ソーラスは中間位置。上側優先についているようです。そのため、ソーラスが少ない場合は側羽片の上側に優先して並んでおります(多分オオカナもこんな感じだけど)。

小羽片の形状はオオカナよりは"ミドリカナ的"でやや長く鋭頭な傾向がありました(オオカナは立方体的で、シビカナはイルカの背中のヒレ的な感じかな)。

 

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①は包膜かぴかぴだったので、別の個体の包膜の様子。オオカナだと(あるいはそれとの雑種のゴリカナワラビも多少は)包膜の辺縁が毛状であるのに対し、シビカナでは全縁で辺縁には毛状突起は全くありませんでした。

 

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葉柄下部の鱗片はこんな感じ(軽く流す笑)。

 

冒頭にも述べたように「最下外側の小羽片がその上(2番目)に比べて著しく伸張しないこと」が本種の特徴と捉えがちですが、現地で様々な個体を観察してみたところ、60%くらいの決定打にしかならないかなと感じました。左右2本が(オオカナみたいに)著しく伸張している個体や最下羽片以外でも外側基部の小羽片が伸張する個体も稀にはいます。

小羽片はオオカナに比べてやや長く鋭頭な個体が多いのですが、オオカナとほぼ同じ形の個体もいるにはいます。

では何がシビカナワラビを特徴付けるのかと言いますと、やはりミドリカナ系の種なだけに葉が薄めであること、(よく発達した)小羽片はやや切れ込みが深いこと、ソーラスが中間くらいの位置(オオカナよりは中間寄り)であること、包膜が全縁であること、だと思います。

 

ちなみに冒頭の全体写真かわわかるように、小羽片の間隔は狭く、しばしば重なり合っているために側羽片がぎっしりと詰まっていることも特徴として捉えてもいいのかなと考えています。

ただ雑種のゴリカナワラビもたまに混生しているので、やはり包膜の辺縁が毛状になっていないことを確認することが識別には一番重要なポイントかもしれません。