タカサゴイヌワラビ
種名:タカサゴイヌワラビ(Athyrium silvicola Tagawa, Athyriaceae)
解説:マニアックな種(雑)。
場所:鹿児島県本土。
確認日:2017.8.8
夏期休暇をいただいて、鹿児島県某所でシダ探しに明け暮れました(1日ちょいだけ)。そこで一番印象的だったのがこの種。
葉身は綺麗な三角形(三角状広卵形)をしており、これまでに見てきたどのイヌワラビ類とも異なる風貌で、はっきりと認識できます。軸が紫色のバージョンです。
葉身頂部の様子。ヒロハやカラクサに代表されるようなやや鉾状にまとまる傾向はなく、なだらかに狭まっていました。ちなみに若いから葉身が黄緑色をしているのであり、硬化した葉では深緑色をしています。
最下羽片の様子。羽片には明瞭に長い柄があります。小羽片はややヤマイヌワラビに似ている感じがありますが、より楕円形で鈍頭、切れ込みがはっきりしています。
真ん中くらいの側羽片。ここでも柄は明瞭です。小羽片は鈍頭。
羽軸・小羽軸上には細い突起が生じます。ホソバやトゲヤマ、トゲカラクサよりは短いです。でもまぁ、はっきりとはしている方です。
ソーラスの様子。軸寄りにつき、接することもしばしば。鍵状にはならず、写真のように真っ直ぐでした。ちなみに各軸はやや有毛。
包膜は不規則な波状縁といった具合です。
鱗片の様子。濃褐色〜やや赤褐色で、中央部がやや濃くなっています。
幅と長さの比率はヒロハとカラクサの中間からややヒロハ寄りな感じ。
大小合わせて5個体の生育を確認しました。
トゲヤマイヌワラビ
種名:トゲヤマイヌワラビ(Athyrium spinescens Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:ヤマイヌワラビに似ているけど軸上に顕著なトゲが生じる種。
場所:福岡県の西部。
確認日:2017.8.5
ネット上に正真正銘の本種が載るのは初めてかもしれません。筒井さんとお会いするきっかけになった思い出深いシダ植物です(半年前だけど)。
写真のようにやや地面に伏している葉と、直立する葉があるようです(どっちもソーラスはつける)。
和名や学名にもあるように、トゲヤマの特徴は各軸上に生じる顕著な突起ですが、他にもヤマイヌワラビに比べて葉身の幅がやや狭いことも識別点になります。あとはぎっしりとしている感じが特徴です(抽象的)。
羽片の柄はややはっきりしており、この個体では最下羽片で3mmありました。
小羽片はやや鈍頭で、円っこい形状をしており、最下羽片では小羽片がやや重なり合っています。切れ込みは中裂と深裂の間くらいかな?いや中裂かな。
こっちは立ち上がっているバージョン。小羽片はやや鈍頭気味で、最下羽片の小羽片はやっぱりちょっと重なっている感。
ちなみにこれが一番綺麗な葉で、ここ一帯の個体はだいたい虫食いに合い、葉身やソーラスがぼろぼろのものが多かったです。
ぼろぼろ。笑
そしてこれがぎっしりとしている感じ(その1)。全体に詰まった感じで、葉身はやや細長く、小羽片の間隔は狭く、特に最下羽片では重なっています(最下羽片がやや狭まるからかな)。
ぎっしりとしている感じ(その2)。葉柄は葉身の長さの割に太いです。
葉柄の色については、写真のような紫色からやや緑がかったものまであります。
ソーラスはやや軸寄りにつき、鉤形のものも混じります。小羽片の基部は若干耳状になっています。各軸の毛の量は個体により差がありそうでしたが、概して少ないです。
そしてこれが小羽片軸上の突起。ホソバイヌワラビよりやや短いです。突起はより細く繊細な感じで、ごく小さい場合を除き、小さい小羽片上にも生じていました。
同じくらいの大きさの時のトゲヤマ(左)とヤマイヌ(右)。
ヤマイヌにも小さい突起はありますが、トゲヤマの方が明瞭でした。
最後に鱗片。黒褐色〜濃褐色的な色で、辺縁はやや淡色、また明らかに幅広です。
ヤマイヌでもバイカラーの鱗片であることはありますが、トゲヤマではより幅広く、また質感としてはよりしっかり(ちろちろしない)しています。
同定に際しては各軸上に顕著な突起があることの他に、前述した通り小羽片の形状、葉柄、鱗片についても確認する必要がありそうです(もちろん胞子が定形かどうかも)。
慣れてくればトゲヤマイヌワラビっぽさは一瞥で認識できますが、私自身まだ解決できていない個体(トゲヤマと他の種との雑種と思しきもの等)もいくつかおり、トゲヤマ自体の変異がどこまでかもまだまだ観察が必要なよう。
ちなみに福岡県内の他の産地とされる場所の個体も確認をしてきましたが、いずれも鱗片がやや濃褐色・バイカラーのタイプのヤマイヌワラビのようです。
カラサキモリイヌワラビ
種名:カラサキモリイヌワラビ
(Athyrium clivicola Tagawa x A. oblitescens Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:サキモリイヌワラビとカラクサイヌワラビの雑種とされている。
場所:福岡県の西部、渓流沿い。
確認日:2017.7.23
おっ!大株のサキモリイヌワラビ見っけ!写真撮っとこかね...あれ?ん?カラクサイヌワラビかな?いや違うな...。
と言った具合の見た目・質感をしています。サキモリ自体がカラクサ(かヒロハ)との雑種起源のようですので、またカラクサと混じったのかよ!とつっこみたくなります。
最下羽片。基部外側の小羽片はそんなに短縮せず、また各小羽片は鈍頭を保っています。質感にはサキモリ感があります。柄がよく見えない...。
中部の羽片。柄ははっきりしており、サキモリよりはやや長いです。小羽片はここでも鈍頭で、やや切れ込みが深いです(浅裂と中裂の間みたいな?いや浅裂かな)。
下部羽片の裏面の様子。小羽片基部上側の耳片は明瞭ですが鈍頭であり、また小羽片の形状はやや三角状です。基部以外の小羽片でもやや切れ込んでいるのがわかります。
各軸はほぼ無毛で、羽片基部にちょっと毛があるくらい(この毛はカラクサ、タニイヌ、サキモリ等に共通)。
また、ソーラスには鉤形のものはありません。
鱗片の様子。光沢はあまりなく、辺縁が淡褐色で中央は黒褐色をしています。やや幅は広いですが、カラクサよりは細いものが多いです。タニイヌのように細くでちろちろした感じはありません。
カラサキモリイヌワラビと推定するには、雑種であることの他に、タニサキモリイヌワラビや、或いはヒロハイヌワラビやその他のイヌワラビ類との雑種である可能性を棄却せねばなりません。
まず、各軸がほぼ無毛であり、側羽片に明瞭な柄(短いけれども明瞭)があることから自生地周辺で確認できるホソバ、ヒロハ、ヤマ(或いはタニイヌも)等は棄却できます。また、小羽片が鈍頭でやや三角状、切れ込みはやや明瞭で上側の耳片も鈍頭、ソーラスには鉤形が混じらない、鱗片はタニイヌのように黒色でちろちろした感じ(上手く表現できない)がありませんので、タニサキモリとするよりはカラサキモリとするのが妥当であろうという判断に至りました。
※胞子は不定形です。
サキモリイヌワラビ(とタニイヌワラビの識別)
種名:サキモリイヌワラビ
(Athyrium oblitescens Sa.Kurata , Athyriaceae)
解説:タニイヌワラビとヒロハイヌワラビもしくはカラクサイヌワラビ起源の種(日本産シダ植物標準図鑑Ⅱより)。
場所:福岡県の西部、渓流沿い。
確認日:2017.7.23
会ってきました。ぼってりとしており、類似種とされるタニイヌワラビと違うことは一目瞭然でした(イズイヌワラビやタニサキモリイヌワラビはまだ見たことがないので、この辺はなんともですが、胞子は定形でしたので)。
なんとなく嬉しかったのでもう1個体の写真。この辺では全部で4個体確認しました。
さて、典型的なタニイヌワラビとの違いについて気づいた点を整理しときます。
こちらがタニイヌワラビ。
葉身の長さは違うのですが、とりあえずシャープで鋭利ですね。
サキモリの最下羽片。
タニイヌの最下羽片。
よく言う羽片の柄の長さは、ほんのちょっと長いかなという程度ですが、小羽片の形状や質感は顕著に異なります。サキモリは小羽片が鈍頭、タニイヌは鋭頭。また、サキモリにはタニイヌに比べてツヤ消し感がありました。
サキモリの葉身上部。
タニイヌの葉身上部。
上部の側羽片が鈍頭なのに加えて、サキモリではタニイヌに比べて鎌状に湾曲していないことがわかります(開出とまではいきませんが)。現地ではわかりやすい特徴の1つでした。
サキモリの側羽片の裏。
タニイヌの側羽片の裏。
小羽片上側の耳片は、サキモリに比べてタニイヌでは鋭頭であることがわかります。こちらも判別には有用な特徴のようです。
ちなみにサキモリのソーラスですが、
残念ながら下部の羽片にはつけていませんでした...。笑 しかしまぁタニイヌワラビよりは軸に対して狭い角度でつき、ソーラス自体も少しタニイヌよりは長い印象を持ちました。
サキモリの鱗片。
タニイヌの鱗片。
タニイヌ(の多く)の鱗片の色は黒ですが、サキモリでは褐色でした。この個体では辺縁がやや淡くなっており、またより色が淡い個体もいました。ほとんどのタニイヌのように真っ黒ではない点では識別点になりそうです。
福岡ではサキモリは希少なので、定期的に様子を確認しておくことにします。
オオサトメシダ
種名:オオサトメシダ
(Athyrium x multifidum Rosenst., Athyriaceae)
解説:サトメシダとヤマイヌワラビの雑種。
場所:福岡県の西部、渓流沿いの湿地。
確認日:2017.7.16
こちらはかなりわかりやすい雑種。
サトメシダというよりはむしろヤマイヌワラビ的な印象を持ちました(多分ヤマイヌの変異がいろいろで、まだ捉えきれてないからだろうな)。
最下羽片基部の様子。各軸は紫色、また一番付け根にある小羽片は著しく短縮しており、ヤマイヌ的な特徴が現れています(ツルニンジンさん切ってごめん)。
ではどの辺がサトメシダなのかと言うと、
これ。細っそりと伸び、左右相称になっています。
参考までにヤマイヌがこれ。
サトメはこちらのリンクから。
(http://shidasagashi.hatenablog.com/entry/2017/07/27/224208)
オオサトメの裏面の様子。ソーラスは鉤形というか馬蹄形かな?
ソーラスのつき方はサトメシダに類似しています(さっきのリンク参照)。
ちなみにヤマイヌはこちら。
違いは伝わりましたでしょうか。軸に寄って小さくつく感じがとてもサトメシダらしい特徴のように思います。包膜の辺縁はサトメのような毛状ではなく、やや突起があるかなといった具合でした。
ちょっと藪ってたので、1本いただいて鱗片の様子。
サトメやヤマイヌのように細身な鱗片ですが、中央がやや濃くなっており、ヤマイヌの特徴(の1タイプ)が現れていました。
オオサトメシダをまとめると、表から見るとヤマイヌワラビ、裏から見るとサトメシダと言った具合です。