しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

カラサキモリイヌワラビ

種名:カラサキモリイヌワラビ

(Athyrium clivicola Tagawa x A. oblitescens Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:サキモリイヌワラビとカラクサイヌワラビの雑種とされている。

場所:福岡県の西部、渓流沿い。

確認日:2017.7.23

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おっ!大株のサキモリイヌワラビ見っけ!写真撮っとこかね...あれ?ん?カラクサイヌワラビかな?いや違うな...。

と言った具合の見た目・質感をしています。サキモリ自体がカラクサ(かヒロハ)との雑種起源のようですので、またカラクサと混じったのかよ!とつっこみたくなります。

 

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最下羽片。基部外側の小羽片はそんなに短縮せず、また各小羽片は鈍頭を保っています。質感にはサキモリ感があります。柄がよく見えない...。

 

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中部の羽片。柄ははっきりしており、サキモリよりはやや長いです。小羽片はここでも鈍頭で、やや切れ込みが深いです(浅裂と中裂の間みたいな?いや浅裂かな)。

 

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下部羽片の裏面の様子。小羽片基部上側の耳片は明瞭ですが鈍頭であり、また小羽片の形状はやや三角状です。基部以外の小羽片でもやや切れ込んでいるのがわかります。

各軸はほぼ無毛で、羽片基部にちょっと毛があるくらい(この毛はカラクサ、タニイヌ、サキモリ等に共通)。

また、ソーラスには鉤形のものはありません。

 

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鱗片の様子。光沢はあまりなく、辺縁が淡褐色で中央は黒褐色をしています。やや幅は広いですが、カラクサよりは細いものが多いです。タニイヌのように細くでちろちろした感じはありません。

 

カラサキモリイヌワラビと推定するには、雑種であることの他に、タニサキモリイヌワラビや、或いはヒロハイヌワラビやその他のイヌワラビ類との雑種である可能性を棄却せねばなりません。

まず、各軸がほぼ無毛であり、側羽片に明瞭な柄(短いけれども明瞭)があることから自生地周辺で確認できるホソバ、ヒロハ、ヤマ(或いはタニイヌも)等は棄却できます。また、小羽片が鈍頭でやや三角状、切れ込みはやや明瞭で上側の耳片も鈍頭、ソーラスには鉤形が混じらない、鱗片はタニイヌのように黒色でちろちろした感じ(上手く表現できない)がありませんので、タニサキモリとするよりはカラサキモリとするのが妥当であろうという判断に至りました。

※胞子は不定形です。

サキモリイヌワラビ(とタニイヌワラビの識別)

種名:サキモリイヌワラビ

(Athyrium oblitescens Sa.Kurata , Athyriaceae)

解説:タニイヌワラビとヒロハイヌワラビもしくはカラクサイヌワラビ起源の種(日本産シダ植物標準図鑑Ⅱより)。

場所:福岡県の西部、渓流沿い。

確認日:2017.7.23

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会ってきました。ぼってりとしており、類似種とされるタニイヌワラビと違うことは一目瞭然でした(イズイヌワラビやタニサキモリイヌワラビはまだ見たことがないので、この辺はなんともですが、胞子は定形でしたので)。

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なんとなく嬉しかったのでもう1個体の写真。この辺では全部で4個体確認しました。

さて、典型的なタニイヌワラビとの違いについて気づいた点を整理しときます。

 

こちらがタニイヌワラビ。

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葉身の長さは違うのですが、とりあえずシャープで鋭利ですね。

 

 

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キモリの最下羽片。

 

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タニイヌの最下羽片。

よく言う羽片の柄の長さは、ほんのちょっと長いかなという程度ですが、小羽片の形状や質感は顕著に異なります。サキモリは小羽片が鈍頭、タニイヌは鋭頭。また、サキモリにはタニイヌに比べてツヤ消し感がありました。

 

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キモリの葉身上部。

 

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タニイヌの葉身上部。

上部の側羽片が鈍頭なのに加えて、サキモリではタニイヌに比べて鎌状に湾曲していないことがわかります(開出とまではいきませんが)。現地ではわかりやすい特徴の1つでした。

 

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キモリの側羽片の裏。

 

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タニイヌの側羽片の裏。

小羽片上側の耳片は、サキモリに比べてタニイヌでは鋭頭であることがわかります。こちらも判別には有用な特徴のようです。

 

ちなみにサキモリのソーラスですが、

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残念ながら下部の羽片にはつけていませんでした...。笑 しかしまぁタニイヌワラビよりは軸に対して狭い角度でつき、ソーラス自体も少しタニイヌよりは長い印象を持ちました。

 

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キモリの鱗片。

 

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タニイヌの鱗片。

タニイヌ(の多く)の鱗片の色は黒ですが、サキモリでは褐色でした。この個体では辺縁がやや淡くなっており、またより色が淡い個体もいました。ほとんどのタニイヌのように真っ黒ではない点では識別点になりそうです。

 

福岡ではサキモリは希少なので、定期的に様子を確認しておくことにします。

オオサトメシダ

種名:オオサトメシダ

(Athyrium x multifidum Rosenst., Athyriaceae)

解説:サトメシダとヤマイヌワラビの雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿いの湿地。

確認日:2017.7.16

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こちらはかなりわかりやすい雑種。

サトメシダというよりはむしろヤマイヌワラビ的な印象を持ちました(多分ヤマイヌの変異がいろいろで、まだ捉えきれてないからだろうな)。

 

 

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最下羽片基部の様子。各軸は紫色、また一番付け根にある小羽片は著しく短縮しており、ヤマイヌ的な特徴が現れています(ツルニンジンさん切ってごめん)。

ではどの辺がサトメシダなのかと言うと、

 

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これ。細っそりと伸び、左右相称になっています。

参考までにヤマイヌがこれ。

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サトメはこちらのリンクから。

http://shidasagashi.hatenablog.com/entry/2017/07/27/224208

 

 

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オオサトメの裏面の様子。ソーラスは鉤形というか馬蹄形かな?

ソーラスのつき方はサトメシダに類似しています(さっきのリンク参照)。

 

ちなみにヤマイヌはこちら。

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違いは伝わりましたでしょうか。軸に寄って小さくつく感じがとてもサトメシダらしい特徴のように思います。包膜の辺縁はサトメのような毛状ではなく、やや突起があるかなといった具合でした。

 

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ちょっと藪ってたので、1本いただいて鱗片の様子。

サトメやヤマイヌのように細身な鱗片ですが、中央がやや濃くなっており、ヤマイヌの特徴(の1タイプ)が現れていました。

 

オオサトメシダをまとめると、表から見るとヤマイヌワラビ、裏から見るとサトメシダと言った具合です。

オオサカバサトメシダ

種名:オオサカバサトメシダ

(Athyrium x paludicola Sa.Kurata ex Seriz., Athyriaceae)

解説:サカバサトメシダとサトメシダの雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿いの湿地。

確認日:2017.7.16,23

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こちらも最初はサカバサトメシダかと思った個体。ごく上部の側羽片は開出〜逆葉になっており、またサトメシダに比べると羽片は細っそりとしており羽片間の間隔は広いです。

 

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葉身上部の様子。逆葉になろうとしたけどなれなかった感じ。小羽片もサカバサトメに比べてやや幅広で切れ込み方もやや甘いです(というより切れ込んでも裂片間の間隔が広がらないと言った感じ)。

 

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最下羽片の様子。左右相称な小羽片はサトメシダ的な特徴だと思います。一方で明らかにreflexしている(しようとしている)感じはサカバ的な特徴でしょうか。

 

 

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軸は微妙に淡紫色を帯びている感もありましたが、写真のようにほぼ藁色。そして小羽片は羽片の背軸側(abaxialな方)に反っていました。サトメシダは通常平面的だったと思うので、サカバの特徴かな?

 

 

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ソーラスの様子。鉤形となっており、サトメシダ的な特徴が現れています。

 

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ソーラスの拡大図。包膜の辺縁は明らかに毛状となっており、サカバサトメとは異なることがわかります。写真では判別しずらいですが、胞子嚢は正常に成熟しきらず萎縮したものを多く含んでいました。が、成熟した胞子嚢では定形の胞子を形成していました。

 

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鱗片の様子。普通のサトメシダよりは少しだけ幅広いかな...といったくらい。

 

胞子を形成する場合は定形でしたので不可解な感じがしますが、雑種であっても定形の胞子を形成する場合もあり(中身が空 or 充実していない的な)、100%の決定打ではありません。

胞子を培養してみることが確実なのでしょうが、高温で乾燥標本にしちゃったので、またいつか調べてみることにします。

 

ここでは、①葉身上部や小羽片に逆葉のものが混じる、②葉柄・葉軸は藁色、③羽片はやや狭く間隔が広い、④包膜は毛状に裂ける、等の特徴から、総合的にサカバサトメシダとサトメシダの雑種と判断しました。

ちなみに、標本にすると羽軸が薄紅色になりました。と付け加えておきます。

ヤマサカバサトメシダ

種名:ヤマサカバサトメシダ

(Athyrium x calophyllum Sa.Kurata ex Seriz., Athyriaceae)

解説:サカバサトメシダとヤマイヌワラビの混生地にごく稀に生じる両種の雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿いの湿地。

確認日:2017.7.16, 23

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ごく湿った場所に生育するサカバサトメシダとは異なり、写真のようにやや乾いた環境に生育していました。真のサカバサトメより先に出会ったのがこの個体で、当初はサカバサトメを見つけたと思い喜んだものです。

胞子が不定形だという事実に気付くまでは。笑

 

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サカバサトメのように地に伏す葉と立ち上がる胞子葉的な葉をつけます。

上の写真は立ち上がる方。下部の側羽片は逆葉になっていますが、中部では開出、上部では開出〜やや斜上しています。

 

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こちらは地に伏す葉。同様に中部〜上部の側羽片は開出あるいは斜上しています。

サカバサトメの特徴が反映され、地に伏す葉は小型でもソーラスをつけていました。

軸は淡紫色(というか紫色)で、サトメシダよりは端正の整った形をしており、色合い的にも真のサカバを知らなければ間違えてしまいそうです。

参考:サカバサトメシダ(http://shidasagashi.hatenablog.com/entry/2017/07/28/224547

 

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こちらが裏面の様子。サカバサトメと異なり、ソーラスは鉤形〜馬蹄形のものが多くまじっており、ヤマイヌワラビの特徴が反映されています。サトメシダのソーラスも鉤形にはなりますが、この個体は中軸が明確に紫色をしており、ヤマイヌを相手と推定する方が妥当でしょうね。

サカバサトメに比べて各裂片にみっちりソーラスが生じており、これとは異なることもわかります。

 

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ちょっと荒いですが、ソーラスの拡大。包膜はサトメのような著しい毛状ではなく、突起縁になっています。またよく見ると葉身が有毛であるため、ヤマイヌワラビのなかでもケヤマイヌワラビが相手だと思われます。

 

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鱗片の様子。淡褐色で、サカバサトメのように幅の広いものからヤマイヌのように細長いものが混在しています。

 

周辺にはオオサトメシダ(サトメシダとヤマイヌワラビの雑種)やオオサカバサトメシダ(サカバサトメシダとサトメシダの雑種)も生育していましたが、前者とは葉形、後者とは軸の色等で識別することができそうです(ただし発育の良い株に限る)。