しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ノコギリシダ

種名:ノコギリシダ(Diplazium wichurae (Mett.) Diels, Athyriaceae)

解説:Diplaziumの入門種的な?

場所:福岡県の西部

確認日:2017.10.24

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基本に立ち返って...というよりは、イヨクジャクとアカメクジャクを載せるために掲載。やや湿った場所に生育します。

葉身の形状にはある程度変異がありますが、だいたいしゃっきりと細長いです。

 

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最下羽片。

羽片の柄は明瞭です。常緑であり葉は革質で、いかにもDiplaziumって感じです。

波状の鋸歯があります。

 

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中部の側羽片。

上側基部には耳片が発達します。脈は湾入しています。

 

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ソーラスの様子。

羽片の上側に開くようにつきます。

ちなみに、耳片にソーラスがつかないことがイヨクジャクとの識別点とか見聞きしたことがありますが、ノコギリシダでも耳片につく場合はあります。

 

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鱗片の様子。濃褐色でした。

ヒロハトウゴクシダ

種名:ヒロハトウゴクシダ(Dryopteris nipponensis Koidz., Dryopteridaceae)

解説:最下外側小羽片がやや伸張し、小羽片が丸っこいトウゴクシダ。

場所:福岡県の西部、中部

確認日:2017.10.1, 2017.10.10

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トウゴクシダとすればそれまでなのですが、"トウゴクシダ"群の中にはいつくかのタイプがあり、これはそのうちの1型だと思います。

ヤブソテツのように、ホソバヤマヤブソテツやツヤナシヤブソテツをとりあえず一括りにするにしても、やはりその内訳を認識しておかなくてはと思い掲載した次第です。

 

 

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ヒロハトウゴクの最下羽片の様子(2枚)。

葉面の光沢は強く、裂片の鋸歯はタカサゴシダやタカサゴシダモドキよりは目立ちません。最下外側の小羽片の伸張具合は、株の大きさや個体(群)により異なります。2番目の外側小羽片より長くなることもあります。

 

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こちらはタカサゴシダモドキの最下羽片。

光沢がやや少なく、切れ込みが明瞭です。鋸歯の違いは写真だとわかりにくいですね。

 

比べてみると、ヒロハトウゴクでは小羽片や裂片が丸っこいという印象を持ちます。

 

 

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ヒロハトウゴクの側羽片。

 

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タカサゴモドキの側羽片。

やはり光沢や裂片には違いがありそうです。

 

 

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ヒロハトウゴクの葉身頂部

 

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タカサゴモドキの葉身頂部

ヒロハトウゴクではタカサゴモドキのような穂状というよりは、やや小さくまとまる株が多いように思います(実際にはいろいろかも)。

 

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ヒロハトウゴクの鱗片の様子。

シャッキリとしたベニシダ類的な鱗片をしており、タカサゴシダのような膜質感はありませんでした。黒褐色〜濃褐色くらいの狭披針形ですかね。

 

トウゴクシダに比べて、ヒロハトウゴクシダはより湿潤な環境を好むように思います。私が確認した場所の多くは渓流や谷の細流周辺の岩上や付近の林床でした。

そんな違いもあって、起源や実体はトウゴクシダの型とは異なるような気がしています。

 

 

タカサゴシダモドキ

種名:タカサゴシダモドキ(Dryopteris sp?, Dryopteridaceae)

解説:タカサゴシダと混同されやすい種(?)。

場所:福岡県の西部。

確認日:2017.10.14

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かつてシダ植物分類の大御所の方々が訪れた谷をようやく(自力で)突き止め、出会うことができました。

タカサゴシダに類似していますが、やや異なる形態をしています。

恐らくタカサゴシダと同定されている型の多くは、このモドキの型ではないでしょうか。

 

ちなみにタカサゴシダはこちら:

http://shidasagashi.hatenablog.com/entry/2017/10/15/225017

タカサゴの葉身全体

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以下、タカサゴシダモドキとタカサゴシダを比較してみます。

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↑モドキ最下側羽片の様子。

伸張しますが、その程度は様々で、タカサゴに近しい程度からヒロハトウゴクシダ程度まで変異があります。羽片の柄はタカサゴより短く、最下小羽片がかなり近接しているように見えます。

また、最下外側小羽片はタカサゴのように斜上せず、羽片の軸に直角についています。

タカサゴの最下羽片。

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↑モドキ中部の側羽片の様子。

羽片の柄はやはり短いです。

また、タカサゴの側羽片の幅はなだらかに狭まるのに対し、モドキの側羽片の幅は羽片の中部まで平行してそのあと狭まるような違いもありそうです。

タカサゴ中部の側羽片の様子。

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↑モドキの葉身頂部の様子。

やや穂状にまとまっております。タカサゴのように急に短縮することはあまりありませんでした。

 

タカサゴの葉身頂部

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急に短縮します。

 

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↑モドキのソーラスの様子。

タカサゴと同じく中間性で、各軸の裏には黒褐色の鱗片がやや密生しています。

 

 

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↑モドキの鱗片の様子。

(やや黒褐色〜)濃褐色〜褐色で(狭)披針形です。

タカサゴのように幅広いものは混じらず、またやや膜質な感じもありませんでした。

タカサゴシダの鱗片(写真だとわかりにくかった)。

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やや近しいものに"ヒロハトウゴクシダ"がいますが、葉身の光沢や小羽片の形態等で一応は明確に識別できるものです。

恐らく無融合生殖種なのではちゃめちゃな感はあると思いますが、タカサゴシダとタカサゴシダモドキは1/2〜3/4くらいは同じような気がしています。

逆に言えば1/2〜1/4は別物が混じっていると思っています。

また、タカサゴシダとトウゴクシダの中間と言われていますが、かかっているものはトウゴクシダではない別物だと考えています(憶測ですが形態はトウゴクとの中間からずれている気がしている)。

 

タカサゴシダ

種名:タカサゴシダ(Dryopteris formosana (Christ) C.Chr., Dryopteridaceae)

解説:伸張する最下外側小羽片が特徴の種。

場所:福岡県の西部。

確認日:2015.8.10, 2017.10.1, 2018.6.24(追記)

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(2018.6.24追記分)

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県内には2ヶ所に産地があるとされていますが、そのうち"典型的な"タカサゴシダが確認できるのはここ1ヶ所のみです。もう片方の産地に分布するのは、やや類似するタカサゴシダモドキとされる型です。

筒井さんがおっしゃっていた通り、ここの型がいわゆるタカサゴシダだと私も考えています。

 

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よく称される五角形の葉身ですが、裸葉の時に顕著な形のようです。

最下羽片の外側第一小羽片のみでなく、第二小羽片以降もやや伸張するので羽片が幅広いこと、頂部が急に狭まることからくる形状です。

 

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タカサゴの最下羽片の様子(2枚)。

最下羽片の外側第一小羽片は著しく伸張します。

以下、タカサゴシダモドキと比べてみます。

 

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タカサゴシダモドキの最下羽片の様子。

タカサゴシダでは側羽片の柄がやや長く、モドキでは柄が短く詰まっているような違いがあります。また、モドキでは小羽片がやや幅広いため、小羽片のつく間隔がやや広く見えるかと思います。

 

 

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タカサゴシダの中部側羽片。

 

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タカサゴシダモドキの中部側羽片。

やはりタカサゴシダの方がモドキよりも柄が長いようです。モドキの小羽片はやや丸っこいですかね。

また、大型のタカサゴシダでは中部の側羽片でも最下外側小羽片が伸張する傾向がありそうです。

 

 

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タカサゴシダの葉身頂部。

 

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タカサゴシダモドキの葉身頂部。

モドキではやや穂状にまとまるのに対し、タカサゴシダでは急に狭まっています。

 

 

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タカサゴシダのソーラスの様子。

中間性です。ちなみに各軸の背軸側には黒色の鱗片がやや密生しています。

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タカサゴシダのソーラスの様子(2018.6.24追記)。

包膜は白色で、淡紅色になることはありません。 

 

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鱗片の様子。

黒褐色〜濃褐色で、披針形に広披針形のものが混じります。

モドキやヒロハトウゴクに比べて、やや幅広く、若干膜質な感じがあります。

 

あと一応タカサゴシダモドキはこんな。

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以上のように、タカサゴシダとタカサゴシダモドキには明確に区別できる特徴がありそうです。まあ多分どちらも無融合生殖なので、いくらか変異はあると思われます。

少なくともモドキの方にもやや変異がありそうなので、この2型の実体は異なると考えるのが妥当かなと考えます。ちなみにネットで検索してでてきたタカサゴシダのほとんどはモドキの型であって、タカサゴシダの型ではなさそうでした。

 

オトコシダ

種名:オトコシダ(Arachniodes yoshinagae (Makino) Ching, Dryopteridaceae)

解説:男シダ、漢シダ?

場所:福岡県の西部、湿潤な斜面。

確認日:2017.10.7

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たまには普通の種も紹介します。羽状複葉のカナワラビ、オトコシダです。

ベニシダ類でいうナチクジャク的な部類です(見た目が)。

 

2年前シダを始めたばかりの時は、岩についていた10cmくらいの本種を初めて見つけて感激したものです。

そういえば先日はシダの例会にちょこっと参加させていただいて、また新しい繋がりを作ることができてワクワクしているところです。これから時間をかけて、シダのより深い世界を見ていきたいですね。

 

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私がこれまで見てきた中では、福岡県内の中部と西部に本種のまとまった群生地があります。西部で確認した2箇所は状態の良い大株が多数生育していますが、ここでは特に立派な個体が見られました。

中程度のサイズまでだと、本種は単羽状複葉の個体が多いのですが、葉身の伸張により下部の側羽片が羽状深裂〜全裂したりします。

 

 

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深裂している最下側羽片。

 

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真ん中くらいの側羽片。

 

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葉身頂部。

 

以上のように、葉面の光沢がとても美しく、フォルムもかっこいい種です。

オオカナワラビやホソバカナワラビのようにまとまった頂羽片は形成しません。

 

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最下羽片のソーラスの様子。

 

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中部の側羽片のソーラスの様子。

ソーラスは軸と辺縁の中間についています。

 

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鱗片は褐色でした。