オンガタイノデ
種名:オンガタイノデ
(Polystichum x ongataense Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:ツヤナシイノデとサイゴクイノデの雑種。
場所:福岡県南部
確認日:2017.6.10
久しぶりの更新となりました(仕事が忙しい時期になってきた)。
そう言えば、記載論文(国外のシダ)がWebで公開されたので、これで自信を持ってシダ植物屋ですと言えるようになりました。笑
最近は熊本のシダ植物屋な方々とも知り合いになれて楽しくなってきたところです。
とまあ、今回はツヤナシとサイゴクの雑種を、両親種と対比しながら掲載します。
上の写真はオンガタイノデ。
ツヤナシイノデ。
サイゴクイノデ。
ツヤナシの葉身はやや幅広で上部の最大幅が目立つ感じ、サイゴクは細身の葉身(写真のはまだ子株)で、オンガタではツヤナシが少し細身になった具合です。
オンガタの側羽片。
ツヤナシの側羽片
サイゴクの側羽片。
表面の光沢の強さは、ツヤナシ > オンガタ > サイゴク。
ツヤナシで顕著な小羽片の重なりは、オンガタではやや緩くなっています。
正に中間的といった感じです。
てかツヤナシってツヤあるよね。イノデとかモドキには全然及ばないけど。
オンガタのソーラスの様子(2枚)。
サイゴクのソーラスの様子。
ツヤナシのソーラスの様子。
サイゴクのソーラスは辺縁寄りで、少ないときは小羽片の基部上側にやや優先してつきます。そして軸の鱗片は細く少なめ。
ツヤナシのソーラスは中間で、葉身の上半分につく。軸の鱗片は卵形で密につく。
オンガタのソーラスはサイゴクよりは内側の辺縁寄り。少ない時のつき方はサイゴクに同じで、ソーラスは葉身の一面につく。鱗片はやや幅広いです。
オンガタの基部鱗片。
ツヤナシの基部鱗片。
サイゴクの基部鱗片。
ツヤナシの鱗片は、一面淡褐色で、卵形(たまに披針形も混じる)です。
サイゴクの鱗片は、中央部が黒褐色で辺縁は淡褐色、披針形(長楕円状の)です。
オンガタの鱗片は、広披針形とか狭卵形といった具合で、ほとんどの鱗片の中央部が黒褐色です。
という具合にいろいろな特徴が中間的で識別しやすい雑種でした。
ツクシワラビ
種名:ツクシワラビ
(Diplazium × tsukushiense K.Hori & H.Kanemitsu, Athyriaceae)
解説:ホソバノコギリシダとヒカゲワラビの雑種。
場所:福岡県西部
確認日:2017.8.26
国内でおそらくここだけ(筑紫)の雑種、ツクシワラビを探してきました。
ホソバノコギリシダとヒカゲワラビが混じるのかよ!とダンドシダ並に驚きの雑種です。筒井さんが図鑑に記述されていた通り、葉形や葉質は多様で、上の写真に掲載したように様々な特徴を示す個体・葉が確認できました。
最初の2枚の葉は今春展葉したと思われる葉で、最後の葉は最近(夏)展葉したと思われる葉です。葉質が全く異なりますね(どっちも実葉)。
親種も載せときます。
ヒカゲワラビ(3回羽状複葉)
ホソバノコギリシダ(羽状複葉)
ここからはツクシワラビの特徴を載せます。
最下羽片の様子(肉厚の葉)。小羽片が独立しかかっています。ホソバノコギリのようにやや革質で、軸に対して直角に並ぶ様子は、その側羽片をイメージさせます。一方小羽片の鋸歯の様子はややヒカゲワラビに似た感じがします。
軸上にはやや微毛(腺毛?)があり、これはホソバノコギリの特徴かな。
ちなみに夏葉だとこんな感じで、前の春葉と比べると明らかに薄く辺縁がやや反り返る様子もありません。でもヒカゲワラビに比べると厚く、草質と紙質くらいの違いです。
ツクシワラビ最下羽片のソーラスの様子(春葉)。
以下のホソバノコギリのソーラスに似ています。
ホソバノコギリシダの側羽片。
ツクシワラビ夏葉の側羽片ソーラス。
以下のヒカゲワラビのソーラスに似ています。
ヒカゲワラビの側羽片。
ツクシワラビではヒカゲワラビよりも軸と辺縁の中間に配列するようです。
ツクシワラビの鱗片は基部で黒色、上部にかけて濃褐色でした。
春葉と夏葉は便宜的にそう呼んだだけですので悪しからず。
ただ、異なる形態の葉を同一個体が出しているのは確かなようです。もちろん個体によってややホソバノコギリ寄りだったり、ヒカゲワラビ寄りだったりもするようです。が、両親種とは明らかに異なる形態を備えており、一見で識別することができます。
ナガエイヌワラビ ✕ ホソバイヌワラビ
種名:アイトガリバイヌワラビ
⇒ナガエイヌワラビ ✕ ホソバイヌワラビ(H30.10.8訂正)
(Athyrium iseanum var. iseanum× A. iseanum var.angustisectum, Athyriaceae)
解説:ナガエイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種。
場所:福岡県西部
確認日:2017.7.8
ホソバイヌワラビとナガエイヌワラビを載せたらこいつも載せねばと。
ナガエイヌワラビのようにやや尾状感がありますが、羽片や小羽片、葉身が細身であること等にホソバイヌワラビの特徴が見受けられます。
最下羽片の様子(ピンボケすみません)。
雑種の葉身中部の側羽片の様子。
以下のホソバイヌワラビ(2個体)とナガエイヌワラビと比較してみます。
ホソバ葉身中部の側羽片(裂片の間隔がやや広いタイプ)。
典型的?なホソバの最下羽片も一応。
ナガエイヌワラビ葉身中部の側羽片(小羽片)。
雑種では、小羽片がホソバに比べて三角状にやや幅広くなり、裂片の切れ込みもちょっとだけ深めです。また、ホソバよりは切れ込もうとしている感じがあります。
各軸はやっぱり多毛で、ソーラスも鉤形が多いです。
鱗片も一応掲載しますが、ホソバとナガエイヌワラビの特徴がどう現れているのかまだ認識できておりません。
違いが微妙と思われた方もいるかと思いますが、実際に微妙で、幼株だと識別できる自信はあまりありません。
掲載した個体のように、ホソバ的でありながら、小羽片はやや幅広で、羽片がナガエイヌワラビ的に尾状である場合ですと、現地でもピンときます(胞子は不定形でした)。
小羽片の切れ込み方は、しばしば迷いますが、ナガエイヌワラビではだいたい基部の裂片は独立するくらいに切れ込んでいると思うので、ポイントの1つになるのかなと。
でもまぁ、1つの形質に拘るよりも、葉身の形状+羽片の尾状度+小羽片の形態(+胞子)を総合的に判断するのが一番良いのかなと思いますね。
ナガエイヌワラビ
種名:トガリバイヌワラビ ⇒ ナガエイヌワラビ
(Athyrium iseanum Rosenst. var. angustisectum Tagawa, Athyriaceae)
解説:ホソバイヌワラビの親戚。
場所:福岡県西部
確認日:2017.8.19
ナガエイヌワラビ①
ナガエイヌワラビ②
※トガリバイヌワラビとして掲載しましたが、I先生のご助言を踏まえ、ナガエイヌワラビに訂正します(H30.10.8)。
ホソバイヌワラビと普通に混生する種です。変種とされていますが、ホソバとの間に胞子が不定形の雑種を生じます。
ホソバに比べて、羽片は丸っこく幅広(なので、葉身あたりの羽片数も少なめ?)、羽片先端がやや急に狭まるため、ホソバに比べて顕著に尾状になる印象を持っています。
参考までに前の記事に掲載したホソバ2個体↓。
細身のホソバとの違いは一目瞭然ですが、幅広で羽片がやや尾状になるホソバとの識別には迷う場合があるかもです。ナガエイヌワラビでは急に尾状になり、ホソバでは緩やかに尾状になる感じ?
また、ナガエイヌワラビでは最下羽片がより短縮し、ホソバに比べて丸っこくなっています。
葉身の最大幅が、ホソバでは葉身基部付近であるのに対し、ナガエイヌワラビでは葉身中部〜葉身基部にあるといった具合でしょうか。葉身中部の羽片が突出して長い個体をよく見かけます(気のせい?)。
ナガエイヌワラビ各個体の葉身頂部。
ホソバの葉身頂部。
ナガエイヌワラビでは、側羽片・小羽片が幅広で、間隔が広めであるため、やや隙間が多いような印象を受けます。①の個体のようにある程度育った個体では、頂部の側羽片がやや開出ぎみになっている場合をよく見かけます。
また、ナガエイヌワラビでは急に尾状になる感というのも伝わるかなと思います。
ナガエイヌワラビ最下羽片。2回目ですが、羽片はやや短縮し、丸っこい(幅広)。
ナガエイヌワラビ葉身中部の側羽片。
これはホソバの葉身中部の側羽片。
ナガエイヌワラビでは、小羽片がやや幅広で、裂片の間隔が広く、切れ込みが深いことがわかるかと思います(小羽片の基部の裂片が独立するくらい切れ込む個体が多い)。
ナガエイヌワラビの裏面。軸はホソバ同様に有毛(※毛が少ない)で、ソーラスは軸より、鉤形のものが多く混じります。
ホソバ同様、トガリバにも顕著な突起が常にあります。
鱗片もホソバ同様に褐色。ホソバとの違いがどのくらいかはよくわかりません。
一応、胞子が定形であることを確認した個体を掲載してますが、ヤマイヌワラビとナガエイヌワラビとの雑種をまだ見つけておらず、何か違いましたらどなたかご指摘ください。
ホソバイヌワラビ
種名:ホソバイヌワラビ(Athyrium iseanum Rosenst., Athyriaceae)
解説:葉面に突起があるイヌワラビと言えばこれ。
場所:福岡県中部、西部
確認日:2017.8.19
ホソバイヌワラビ①
ホソバイヌワラビ②
そのシダ見つかるのかよ!という種・雑種ばかり掲載してきましたので、基本種?についても掲載していきましょう。福岡県内に戻ります。
上の①は受け入れやすいホソバ、②はトガリバイヌワラビやアイトガリバイヌワラビと誤認されるかもしれないホソバだと思っています。ちなみに②も①と同じ葉をつけていました(右下)。
葉面に光沢は無く、むしろツヤ消し感があり、粉っぽい色合いをしていました。
やや2形を示すシダで、春先には地面に這いつくばっていますが、後から写真のように葉を立ち上げます。
①の最下羽片。
②の最下羽片の1つ上。
②ではやや小羽片が幅広、裂片の切れ込みが少し深くなっています。小羽片はだいたい深裂でたまに中裂くらいの個体もいます。羽片には明瞭な柄があります(カラクサイヌワラビとヤマイヌワラビの中間長くらいかな?)。
羽軸・小羽軸状には顕著な突起が生じています。トゲカラクサのように出たり出なかったりはせずに、安定して突起をつけています。トゲヤマよりは肉厚です。
羽軸表面が有毛であることも確認できます。
羽軸裏面も有毛(多毛)です。ソーラスは軸寄りで、鉤形のものが頻繁に混じります。
葉身の頂部には、無性芽をつけることがあります。トガリバはつけないみたいです。
鱗片は褐色でやや幅広、カラクサやヒロハイヌワラビに比べるとやや小さめでした。
ホソバイヌワラビはスギ林の林床等、低山地ではまず普通に見かける種です。
葉身が細長い個体、やや幅広の個体(狭卵形くらい?)、小羽片の裂片があまり切れ込まない個体、裂片の感覚がやや広い個体等、変異の幅はある程度あります。
また、トガリバイヌワラビとの雑種であるアイトガリバイヌワラビは混生地ではまず確認できると思いますが、識別が難しい場合もよくあります。
基本的には、各軸の突起、有毛、ツヤ消し感、小羽片の切れ込みで同定することができる種です。トガリバやアイトガリバとの識別は別の記事にて。
シダ植物が見えるようになることへの近道は、これがA種、これがB種、これがAとBの雑種だと理解するのではなく、A種の変異はこのくらい、この雑種はA種寄り、この雑種はB種寄りと変異の幅を学ぶことだと思っています(適当)。