ハガクレカナワラビ
種名:ハガクレカナワラビ(Arachniodes yasu-inouei Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:オニカナワラビ似で芒が特徴の種。
場所:佐賀県
確認日:2017.8.19
ハガクレカナワラビ①(実葉)
ハガクレカナワラビ②(実葉)
なぜか佐賀県になりましたが、ちょっとハガクレカナワラビの様子を見に行ってきました。写真はどちらも昨年見つけた自生地に生育する個体(自生地は全て自分で探してきた派(トゲヤマ除く))。
本種の詳細な特徴についての情報は図鑑以外にありませんので、類似種でありその辺によくいるオニカナワラビとの違いを比べていこうと思います。
オニカナワラビの葉身全体(実葉)。やや厚ぼったく、重たい感じがします。
頂羽片は両種とも、不明瞭だったり、やや鉾状にまとまっていたりします。
見た感じでは、ハガクレは軽い金属感、オニカナは重たい金属感(抽象的)。
ハガクレ最下羽片(実葉)。特徴である芒がはっきりと確認できます。辺縁がものすごくわしゃわしゃしており面白いですね。
オニカナ最下羽片(実葉)。芒は発達しておらず、またハガクレよりも厚ぼったい感じがします。また小羽片はより鋭頭でした。
ハガクレ側羽片(実葉)。
オニカナ側羽片(実葉)。
やはりハガクレでは芒が顕著で、オニカナより葉が薄めなようです。
その他のハガクレの形態も掲載します。
ソーラスは辺縁と軸の中間(この個体は不調だった模様)。
葉軸には黒褐色の毛状の鱗片が密生しています。が、早落性なので扱っているうちに落としてしまいました(通常は写真の3〜4倍くらいの量の鱗片がある)。
オニカナよりは若干多いかもしれない(これは主観)。
葉柄基部の鱗片は褐色、中部〜上部になると鱗片は黒褐色になっていました。
このように、ハガクレの特徴はやはり芒・葉の厚さであり、この特徴に基づけば簡単に識別できそう...に思えますが、もう少し複雑です。
これは葉身が40cmを超えるくらいになったハガクレの側羽片(実葉)。小羽片は鋭頭になり、またやや厚ぼったくなっています。
オニカナかそれとの雑種じゃないの?と思った方もいるかもしれないので、この個体の裸葉を掲載しときます。
しっかり芒が発達しており、葉も薄めなハガクレですね。さっきの実葉もよく見ると芒はあるのですが、小羽片自体が大きくなり、目立たなくなっていたようです。
現地でいくつかの個体を観察した限りでは、ハガクレの葉の薄さが同定のキーになるのは大株でない場合と裸葉についてのみのようです。
実葉では裸葉に比べて明らかに葉の厚みが増す場合が多く、また大株ではやや萎縮するために一瞬オニカナと迷うこともありました(萎縮とはハカタシダ、オニカナ、コバノカナワラビ等のカナワラビ類の実葉が、その裸葉に比べて異なる形態を示したりする場合のこと)。
肝心の芒については逆に、オニカナやハカタシダの裸葉で発達する場合があります。
上がハガクレの裸葉。下がオニカナの裸葉。
比べるとわかりますが、オニカナ裸葉の芒発達バージョンでは、芒がやや不揃いであること、オニカナで芒と認識する突起には葉身の部分が多く含まれますが、ハガクレでは白い革質?の部分がオニカナの倍程度あることで識別できそうです。
まぁ裸葉同士でなら、葉の厚さでも識別できそうですね。
サツマシダ
種名:サツマシダ(Ctenitis sinii (Ching) Ohwi, Dryopteridaceae)
解説:一番かっこいいと思うシダ(個人的に)。
場所:鹿児島県本土
確認日:2017.6.17、2017.8.8
鹿児島シリーズもここで一息入れようかな。サツマシダ。
鮮やかな黄緑色と金属光沢のある褐色の鱗片のコントラストが美しいシダです。
日本ではごく限られた地域に分布してます。
けっこう大きくなり、この個体では葉身だけで70cm近くありました。
Tectariaチックな印象もありますが、今はカツモウイノデ属にされています。
各軸には赤褐色(と赤紫の間くらいの色)の鱗片が密生しています。
明るい黄緑色なので若い葉かと思いがちですが、これで成熟した実葉になります。
葉身頂部の裏面。ソーラスは軸と辺縁の中間に広く不規則に散在しています。
包膜は無く、ツクシイワヘゴみたいにどっしりとした大きなソーラスです。
側羽片の裏面だとこんな感じ。中軸に鱗片がびっしり。葉はなんだかのっぺりとしていて独特です。
葉柄基部の鱗片は毛状で密生しています。人里で普通に見られる種にはこういうタイプの種はいないので、初めて見つけた時は驚愕でした。
それにしても、オークションに出されてたり栽培をアピールしてる人がいてびっくりしました。他人のすることに文句は言わんけど、希少種とは節度を持って付き合ってほしいものです。
キュウシュウイノデ
種名:キュウシュウイノデ(Polystichum grandifrons C.Chr., Dryopteridaceae)
解説:葉身頂部が矛状になるイノデ
場所:鹿児島県本土
確認日:2017.6.17、2017.8.8、2020.1.4
まだまだネット上には形態情報の少ないイノデ様です。思いの外すぐに見つけることができました(通常、自生状態ではほとんど見る機会の無いイノデです)。
よく見るイノデ類に比べてぼってりとしている感じがわかるかと思います。
[2020.1.6追記]
知人の研究者の方から教わっていた群生地の状況を確認してきました。私が見つけた場所には子株が1個体しかいませんでしたが、ここには大型の個体が多数生育しています。大型になったものは、重厚感のある風貌をしており、圧倒されます。
※昔撮影した写真の画質が微妙です。
葉身の頂部が急に狭まり、やや頂羽片状になること、葉の表面の光沢がやや強いことがキュウシュウイノデの特徴です。
若い葉は黄緑色〜緑色ですが、成熟した葉は深緑色を呈しています。
以下、軽易な部分は適宜加筆・修正しています。
キュウシュウイノデの葉身頂部。
頂部が矛状になっています。
[2020.1.6追記]
キュウシュウイノデの葉身中部の側羽片。
キュウシュウイノデの最下側羽片。
葉身下部の小羽片は丸っこく鈍頭で、辺縁には先端がやや芒状の細かい鋸歯があります(発達した小羽片ではやや鋭頭になっていますが)。
近隣でよく見られるイノデやサイゴク、モドキとはかなり異なった風貌です。
また、小羽片同士はツヤナシイノデのように明らかに重なり合っています(サイズ感は全く違うんだけど)。
キュウシュウイノデのソーラス。
ソーラスはやや軸よりの中間性です。図鑑の記述では包膜が無いとのことですが、時期的に確認できませんでした。
小羽片基部上側は鋭頭の耳片となっています(ノギが痛いくらい)。
キュウシュウイノデの葉柄基部の鱗片。
褐色の鱗片がやや密についています。以下のように、葉柄上部や中軸にかけて鱗片は細くなりますが、いずれも明らかな突起縁です。
キュウシュウイノデの葉柄基部鱗片の拡大。
キュウシュウイノデの中軸の鱗片の拡大。
ミゾシダモドキ
種名:ミゾシダモドキ(Thelypteris leveillei (Christ) C.M.Kuo, Thelypteridaceae)
解説:ミゾシダに似ているけど違う種。
場所:鹿児島県本土
確認日:2017.8.8
鹿児島シリーズ第4回目。まずどこにでもいらっしゃるミゾシダとは生育環境が異なるようです。
最下羽片の様子。本種の一番目立つ特徴で、最下羽片は著しく短縮します。
側羽片。ミゾシダに比べてやや端正が整った裂片をしています。基部は短縮。
側羽片基部の様子。ミゾシダモドキには写真のような通気孔がありますが、ミゾシダにはこれがありません。
側羽片の裏側の様子。ソーラスは中間位置で、ミゾシダのように線状になりません。裂片の側脈もミゾシダに比べると開出しており、数は多いです。以下のミゾシダ参照。
ミゾシダの側羽片裏面。ミゾシダモドキに比べて、ソーラスは線状に伸び、裂片の側脈の軸に対する角度は狭いです。
ミゾシダモドキの葉の表面は裂片の主脈と辺縁に突起毛があるのみですが、
ミゾシダでは全面に散生しています。
葉柄基部の鱗片は、淡褐色〜褐色です。
モドキとは言っても、ミゾシダとのわかりやすい違いがたくさんあり、親切な種ですね。他にも、ミゾシダモドキでは中軸の向軸側に顕著な溝があったりします。
コマチイワヒトデ
種名:コマチイワヒトデ(Leptochilus elegans (Sa.Kurata) Nakaike, Polypodiaceae)
解説:オオイワヒトデ似の種。
場所:鹿児島県本土。
確認日:2017.6.17、2017.8.8
鹿児島シリーズ第3回目。大きさも形もオオイワヒトデそっくりな種です。オオイワがあちこちに生えていたのに対し、見つけたコマチイワヒトデはこの1株だけでした。
側羽片の様子。艶やかな質感で、オオイワヒトデよりはしなやか(柔らかい)です。
側羽片の裏の様子。ソーラスは軸寄りに長くつきます。葉面はやや緑白色です。葉脈は葉面から確認できません。
頂部の裏面。同様に緑白色です。胞子葉も栄養葉も同じくらいで2形性はありません。
葉軸に生じる羽は基部まで連続しています。
根茎の様子。オオイワとほとんど同じくらいの太さです。脈がほとんど見えないといってもアイイワヒトデとかではないことがわかります。
参考として、オオイワヒトデを以下に載せます。
葉身頂部。葉脈がはっきりと確認できますね。ソーラスはこちらも軸寄りにつきます。
左がオオイワ、右がコマチ。比べてみると、違いは一目瞭然。同じくらいのサイズですと、側羽片の数はコマチの方が少ないです。
また、側羽片の辺縁は、オオイワに比べてウェーブ(波状縁)が緩いことも確認できます。頂羽片もコマチの方が長いです。
葉質がよりしなやかで、コマチ(小町)とかelegansとかいう名前の由来もなんとなくわかる気がしますね。笑
裏面が白っぽくなると言われていますが、この個体のようにほとんど白くならない場合も普通にあるそうです(名前を出して良いのかわかりませんので、シダの先生に教えていただいたと書いておきます)。
掲載したのはコマチの1つのタイプに過ぎず、変異がいろいろあるそうです。こちらについては日本シダの会会報 Vol.2 No.86(1991.8.1)をご確認いただければと思います。