ナガエイヌワラビ
種名:トガリバイヌワラビ ⇒ ナガエイヌワラビ
(Athyrium iseanum Rosenst. var. angustisectum Tagawa, Athyriaceae)
解説:ホソバイヌワラビの親戚。
場所:福岡県西部
確認日:2017.8.19
ナガエイヌワラビ①
ナガエイヌワラビ②
※トガリバイヌワラビとして掲載しましたが、I先生のご助言を踏まえ、ナガエイヌワラビに訂正します(H30.10.8)。
ホソバイヌワラビと普通に混生する種です。変種とされていますが、ホソバとの間に胞子が不定形の雑種を生じます。
ホソバに比べて、羽片は丸っこく幅広(なので、葉身あたりの羽片数も少なめ?)、羽片先端がやや急に狭まるため、ホソバに比べて顕著に尾状になる印象を持っています。
参考までに前の記事に掲載したホソバ2個体↓。
細身のホソバとの違いは一目瞭然ですが、幅広で羽片がやや尾状になるホソバとの識別には迷う場合があるかもです。ナガエイヌワラビでは急に尾状になり、ホソバでは緩やかに尾状になる感じ?
また、ナガエイヌワラビでは最下羽片がより短縮し、ホソバに比べて丸っこくなっています。
葉身の最大幅が、ホソバでは葉身基部付近であるのに対し、ナガエイヌワラビでは葉身中部〜葉身基部にあるといった具合でしょうか。葉身中部の羽片が突出して長い個体をよく見かけます(気のせい?)。
ナガエイヌワラビ各個体の葉身頂部。
ホソバの葉身頂部。
ナガエイヌワラビでは、側羽片・小羽片が幅広で、間隔が広めであるため、やや隙間が多いような印象を受けます。①の個体のようにある程度育った個体では、頂部の側羽片がやや開出ぎみになっている場合をよく見かけます。
また、ナガエイヌワラビでは急に尾状になる感というのも伝わるかなと思います。
ナガエイヌワラビ最下羽片。2回目ですが、羽片はやや短縮し、丸っこい(幅広)。
ナガエイヌワラビ葉身中部の側羽片。
これはホソバの葉身中部の側羽片。
ナガエイヌワラビでは、小羽片がやや幅広で、裂片の間隔が広く、切れ込みが深いことがわかるかと思います(小羽片の基部の裂片が独立するくらい切れ込む個体が多い)。
ナガエイヌワラビの裏面。軸はホソバ同様に有毛(※毛が少ない)で、ソーラスは軸より、鉤形のものが多く混じります。
ホソバ同様、トガリバにも顕著な突起が常にあります。
鱗片もホソバ同様に褐色。ホソバとの違いがどのくらいかはよくわかりません。
一応、胞子が定形であることを確認した個体を掲載してますが、ヤマイヌワラビとナガエイヌワラビとの雑種をまだ見つけておらず、何か違いましたらどなたかご指摘ください。
ホソバイヌワラビ
種名:ホソバイヌワラビ(Athyrium iseanum Rosenst., Athyriaceae)
解説:葉面に突起があるイヌワラビと言えばこれ。
場所:福岡県中部、西部
確認日:2017.8.19
ホソバイヌワラビ①
ホソバイヌワラビ②
そのシダ見つかるのかよ!という種・雑種ばかり掲載してきましたので、基本種?についても掲載していきましょう。福岡県内に戻ります。
上の①は受け入れやすいホソバ、②はトガリバイヌワラビやアイトガリバイヌワラビと誤認されるかもしれないホソバだと思っています。ちなみに②も①と同じ葉をつけていました(右下)。
葉面に光沢は無く、むしろツヤ消し感があり、粉っぽい色合いをしていました。
やや2形を示すシダで、春先には地面に這いつくばっていますが、後から写真のように葉を立ち上げます。
①の最下羽片。
②の最下羽片の1つ上。
②ではやや小羽片が幅広、裂片の切れ込みが少し深くなっています。小羽片はだいたい深裂でたまに中裂くらいの個体もいます。羽片には明瞭な柄があります(カラクサイヌワラビとヤマイヌワラビの中間長くらいかな?)。
羽軸・小羽軸状には顕著な突起が生じています。トゲカラクサのように出たり出なかったりはせずに、安定して突起をつけています。トゲヤマよりは肉厚です。
羽軸表面が有毛であることも確認できます。
羽軸裏面も有毛(多毛)です。ソーラスは軸寄りで、鉤形のものが頻繁に混じります。
葉身の頂部には、無性芽をつけることがあります。トガリバはつけないみたいです。
鱗片は褐色でやや幅広、カラクサやヒロハイヌワラビに比べるとやや小さめでした。
ホソバイヌワラビはスギ林の林床等、低山地ではまず普通に見かける種です。
葉身が細長い個体、やや幅広の個体(狭卵形くらい?)、小羽片の裂片があまり切れ込まない個体、裂片の感覚がやや広い個体等、変異の幅はある程度あります。
また、トガリバイヌワラビとの雑種であるアイトガリバイヌワラビは混生地ではまず確認できると思いますが、識別が難しい場合もよくあります。
基本的には、各軸の突起、有毛、ツヤ消し感、小羽片の切れ込みで同定することができる種です。トガリバやアイトガリバとの識別は別の記事にて。
シダ植物が見えるようになることへの近道は、これがA種、これがB種、これがAとBの雑種だと理解するのではなく、A種の変異はこのくらい、この雑種はA種寄り、この雑種はB種寄りと変異の幅を学ぶことだと思っています(適当)。
ハガクレカナワラビ
種名:ハガクレカナワラビ(Arachniodes yasu-inouei Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:オニカナワラビ似で芒が特徴の種。
場所:佐賀県
確認日:2017.8.19
ハガクレカナワラビ①(実葉)
ハガクレカナワラビ②(実葉)
なぜか佐賀県になりましたが、ちょっとハガクレカナワラビの様子を見に行ってきました。写真はどちらも昨年見つけた自生地に生育する個体(自生地は全て自分で探してきた派(トゲヤマ除く))。
本種の詳細な特徴についての情報は図鑑以外にありませんので、類似種でありその辺によくいるオニカナワラビとの違いを比べていこうと思います。
オニカナワラビの葉身全体(実葉)。やや厚ぼったく、重たい感じがします。
頂羽片は両種とも、不明瞭だったり、やや鉾状にまとまっていたりします。
見た感じでは、ハガクレは軽い金属感、オニカナは重たい金属感(抽象的)。
ハガクレ最下羽片(実葉)。特徴である芒がはっきりと確認できます。辺縁がものすごくわしゃわしゃしており面白いですね。
オニカナ最下羽片(実葉)。芒は発達しておらず、またハガクレよりも厚ぼったい感じがします。また小羽片はより鋭頭でした。
ハガクレ側羽片(実葉)。
オニカナ側羽片(実葉)。
やはりハガクレでは芒が顕著で、オニカナより葉が薄めなようです。
その他のハガクレの形態も掲載します。
ソーラスは辺縁と軸の中間(この個体は不調だった模様)。
葉軸には黒褐色の毛状の鱗片が密生しています。が、早落性なので扱っているうちに落としてしまいました(通常は写真の3〜4倍くらいの量の鱗片がある)。
オニカナよりは若干多いかもしれない(これは主観)。
葉柄基部の鱗片は褐色、中部〜上部になると鱗片は黒褐色になっていました。
このように、ハガクレの特徴はやはり芒・葉の厚さであり、この特徴に基づけば簡単に識別できそう...に思えますが、もう少し複雑です。
これは葉身が40cmを超えるくらいになったハガクレの側羽片(実葉)。小羽片は鋭頭になり、またやや厚ぼったくなっています。
オニカナかそれとの雑種じゃないの?と思った方もいるかもしれないので、この個体の裸葉を掲載しときます。
しっかり芒が発達しており、葉も薄めなハガクレですね。さっきの実葉もよく見ると芒はあるのですが、小羽片自体が大きくなり、目立たなくなっていたようです。
現地でいくつかの個体を観察した限りでは、ハガクレの葉の薄さが同定のキーになるのは大株でない場合と裸葉についてのみのようです。
実葉では裸葉に比べて明らかに葉の厚みが増す場合が多く、また大株ではやや萎縮するために一瞬オニカナと迷うこともありました(萎縮とはハカタシダ、オニカナ、コバノカナワラビ等のカナワラビ類の実葉が、その裸葉に比べて異なる形態を示したりする場合のこと)。
肝心の芒については逆に、オニカナやハカタシダの裸葉で発達する場合があります。
上がハガクレの裸葉。下がオニカナの裸葉。
比べるとわかりますが、オニカナ裸葉の芒発達バージョンでは、芒がやや不揃いであること、オニカナで芒と認識する突起には葉身の部分が多く含まれますが、ハガクレでは白い革質?の部分がオニカナの倍程度あることで識別できそうです。
まぁ裸葉同士でなら、葉の厚さでも識別できそうですね。
サツマシダ
種名:サツマシダ(Ctenitis sinii (Ching) Ohwi, Dryopteridaceae)
解説:一番かっこいいと思うシダ(個人的に)。
場所:鹿児島県本土
確認日:2017.6.17、2017.8.8
鹿児島シリーズもここで一息入れようかな。サツマシダ。
鮮やかな黄緑色と金属光沢のある褐色の鱗片のコントラストが美しいシダです。
日本ではごく限られた地域に分布してます。
けっこう大きくなり、この個体では葉身だけで70cm近くありました。
Tectariaチックな印象もありますが、今はカツモウイノデ属にされています。
各軸には赤褐色(と赤紫の間くらいの色)の鱗片が密生しています。
明るい黄緑色なので若い葉かと思いがちですが、これで成熟した実葉になります。
葉身頂部の裏面。ソーラスは軸と辺縁の中間に広く不規則に散在しています。
包膜は無く、ツクシイワヘゴみたいにどっしりとした大きなソーラスです。
側羽片の裏面だとこんな感じ。中軸に鱗片がびっしり。葉はなんだかのっぺりとしていて独特です。
葉柄基部の鱗片は毛状で密生しています。人里で普通に見られる種にはこういうタイプの種はいないので、初めて見つけた時は驚愕でした。
それにしても、オークションに出されてたり栽培をアピールしてる人がいてびっくりしました。他人のすることに文句は言わんけど、希少種とは節度を持って付き合ってほしいものです。
キュウシュウイノデ
種名:キュウシュウイノデ(Polystichum grandifrons C.Chr., Dryopteridaceae)
解説:葉身頂部が矛状になるイノデ
場所:鹿児島県本土
確認日:2017.6.17、2017.8.8、2020.1.4
まだまだネット上には形態情報の少ないイノデ様です。思いの外すぐに見つけることができました(通常、自生状態ではほとんど見る機会の無いイノデです)。
よく見るイノデ類に比べてぼってりとしている感じがわかるかと思います。
[2020.1.6追記]
知人の研究者の方から教わっていた群生地の状況を確認してきました。私が見つけた場所には子株が1個体しかいませんでしたが、ここには大型の個体が多数生育しています。大型になったものは、重厚感のある風貌をしており、圧倒されます。
※昔撮影した写真の画質が微妙です。
葉身の頂部が急に狭まり、やや頂羽片状になること、葉の表面の光沢がやや強いことがキュウシュウイノデの特徴です。
若い葉は黄緑色〜緑色ですが、成熟した葉は深緑色を呈しています。
以下、軽易な部分は適宜加筆・修正しています。
キュウシュウイノデの葉身頂部。
頂部が矛状になっています。
[2020.1.6追記]
キュウシュウイノデの葉身中部の側羽片。
キュウシュウイノデの最下側羽片。
葉身下部の小羽片は丸っこく鈍頭で、辺縁には先端がやや芒状の細かい鋸歯があります(発達した小羽片ではやや鋭頭になっていますが)。
近隣でよく見られるイノデやサイゴク、モドキとはかなり異なった風貌です。
また、小羽片同士はツヤナシイノデのように明らかに重なり合っています(サイズ感は全く違うんだけど)。
キュウシュウイノデのソーラス。
ソーラスはやや軸よりの中間性です。図鑑の記述では包膜が無いとのことですが、時期的に確認できませんでした。
小羽片基部上側は鋭頭の耳片となっています(ノギが痛いくらい)。
キュウシュウイノデの葉柄基部の鱗片。
褐色の鱗片がやや密についています。以下のように、葉柄上部や中軸にかけて鱗片は細くなりますが、いずれも明らかな突起縁です。
キュウシュウイノデの葉柄基部鱗片の拡大。
キュウシュウイノデの中軸の鱗片の拡大。