しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ホソバハカタシダ

種名:ホソバハカタシダ

(Arachniodes x respiciens Sa.Kurata, Dryopteridaceae)

解説:ハカタシダとホソバカナワラビの雑種

場所:福岡県北部

確認日:2018.11.18

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ホソバハカタシダです。ホソバカナワラビとハカタシダの雑種で、見た目的にはハカタシダにやや類似しています。

 

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親種①ハカタシダ。

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親種②ホソバカナワラビ。

ホソバカナワラビよりも側羽片の数が多く、ハカタシダよりも最下外側の小羽片が直線的です。

以下、同程度のサイズの個体を比較してみます。

 

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ホソバハカタシダ(上)とハカタシダ(下)の最下側羽片。

ホソバハカタシダでは、小羽片がより細く小さく、ハカタシダよりも切れ込みが深い傾向があります。

 

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ホソバハカタシダ(上)とハカタシダ(下)の葉身中部の側羽片。

似ていますがホソバハカタシダの方が切れ込みが深いですね。

 

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ホソバハカタシダ(上)とハカタシダ(下)の頂羽片。
どちらも明瞭ではあるのですが、ハカタシダの方がより明瞭(独立的)ですかね。切れ込みはやはりホソバハカタシダの方が深いです。

 

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ホソバハカタシダ(上)とハカタシダ(下)のソーラス。

どちらも中間に位置しています(やはり裂片の切れ込みが深い)。

 

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ホソバハカタシダ(上)とハカタシダ(中)、ホソバカナワラビ(下)の根茎。

一番わかりやすい識別点だと思います。ハカタシダの根茎は塊状に這い、ホソバカナワラビの根茎は葉を間隔を開けてつけながら長く這います。

ホソバハカタシダの根茎は、葉を狭い間隔でつけながら長く這います。

ハカタシダ

種名:ハカタシダ

(Arachniodes simplicior (Makino) Ohwi, Dryopteridaceae)

解説:基本のカナワラビ

場所:福岡県中部

確認日:2018.11.23

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日本のシダの中では一番お馴染みの種だと思います。福岡の低山地帯のやや乾燥した場所ではだいたいどこでも見られる種です。

明瞭な頂羽片があることで類似種であるオニカナワラビと識別される種ですが、羽軸沿いの斑の有無も含めていろんな変異があります。

 

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いろんなハカタシダ(というか実葉かどうかと株の大きさにもよるのですが)。

同じく(やや)明瞭な頂羽片のあるホソバカナワラビに比べると、側羽片の数は少ないです。

 

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ハカタシダの最下側羽片。

最下外側の小羽片が著しく発達しています。2番目以降は発達しないことが多いです。

 

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ハカタシダの葉身中部の側羽片。

幅は平行的です。小羽片はオニカナワラビに比べると小さめで多くつきます。大株になっても、小羽片はホソバカナワラビやコバノカナワラビのよりは切れ込みが浅いです。

 

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ハカタシダの頂羽片。

明瞭な頂羽片があります。ホソバカナワラビよりも明瞭です。

 

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ハカタシダのソーラスの様子。

小羽軸と辺縁の中間からやや辺縁寄りにつきます。

 

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ハカタシダの包膜。

全縁、というよりは波状縁ですかね。

 

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ハカタシダの根茎。

塊状にごく短く這います。葉は詰まってついており、間隔はコバノカナワラビより明らかに狭いです(以下)。

 

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コバノカナワラビの根茎。

ハカタシダよりも這っています。葉柄は間隔をあけずに交互につく感じ。

ナンゴクオオクジャク

種名:ナンゴクオオクジャク

(Dryopteris x satsumana Sa.Kurata, Dryopteridaceae)

解説:オオクジャクシダとツクシイワヘゴの雑種

場所:福岡県中部

確認日:2018.11.4

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とあるシダを探している時に偶然見つけました。形態的にはちょうどオオクジャクシダとツクシイワヘゴの中間にあるような雑種です。どちらかと言えばわかりやすい雑種かな。ツクシイワヘゴは有性生殖種ですが、オオクジャクシダは無融合生殖種です。

各種を順番に並べて比較してみます。

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オオクジャクシダ↑

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ツクシイワヘゴ↑

葉質や側羽片の形態が中間的なことがわかります。

 

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ナンゴクオオクジャク

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オオクジャクシダ↑

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ツクシイワヘゴ↑

オオクジャクシダは葉の表面の脈が明瞭に凹むのに対し、ツクシイワヘゴでは裂片に入る脈のみがやや凹んでいる程度です。なお、裂片の切れ込み具合はツクシイワヘゴそれ自体で鋸歯縁〜浅裂まで変異がありますし、オオクジャクシダもブレるのであまりあてにしていません。

とは言っても、このナンゴクオオクジャクの裂片はツクシイワヘゴに類似していると思います(笑)。また、実物でないとわかりにくいのですが、ナンゴクオオクジャクの脈の凹み具合はオオクジャクシダよりは浅いです。

 

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ナンゴクオオクジャクとツクシイワヘゴの葉の脈の凹みの比較(オオクジャクシダじゃなくてすみません)↑

 

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ナンゴクオオクジャクのソーラス↑

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オオクジャクシダのソーラス↑

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ツクシイワヘゴとナンゴクオオクジャクのソーラスの比較↑

オオクジャクシダのソーラスは側羽片の辺縁に寄ってつき、ツクシイワヘゴのソーラスは側羽片の軸寄りから辺縁との中間に広がります。

ナンゴクオオクジャクのソーラスはオオクジャクシダに似て羽軸の周りにつきませんが、どちらかと言えばより羽軸に近いですかね。

ちなみに、ツクシイワヘゴの包膜が小さい&早落であるため、ナンゴクオオクジャクの包膜も小さく、ほとんど残っていませんでした。

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ナンゴクオオクジャクの包膜↑

そのほかの特徴は以下のとおり。

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ナンゴクオオクジャクの最下側羽片の様子↑

ツクシイワヘゴよりは明らかに短縮しています(オオクジャクシダの特徴)。

 

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ナンゴクオオクジャクの鱗片。

ツクシイワヘゴは黒色〜黒褐色ですが、ナンゴクオオクジャクではかなり明るい褐色でした。また、鱗片は大きなものがたくさん蜜についており、この辺はツクシイワヘゴに類似しています。

フクオカカナワラビ

種名:フクオカカナワラビ(Dryopteridaceae)

解説:ツクシカナワラビとホソバカナワラビの雑種

場所:福岡県西部

確認日:2018.10.14, 2017.10.14

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フクオカカナワラビです。ちょっといいものを掲載してみました。

生体写真の公開は初かもしれません。

シダを始めたばかりの人だとホソバカナワラビにしてしまいそうですね。ホソバカナワラビとコバノカナワラビのゲノムを有するツクシカナワラビが、更にホソバカナワラビと交雑して生じたとされています。

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ホソバカナワラビ↑

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ツクシカナワラビ↑

 

コバノカナワラビを少しだけ含むホソバカナワラビと言った具合ですかね。せっかくなので以下に全部を比べてみました。

 

 

 

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ホソバカナワラビの最下側羽片↑

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フクオカカナワラビの最下側羽片↑

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ツクシカナワラビの最下側羽片↑

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コバノカナワラビの最下側羽片↑

このように並べてみると違いがわかりやすいと思います。フクオカカナワラビはホソバカナワラビに近似していますが、側羽片の幅がやや広く小羽片も少し細長くて切れ込みがより深いというコバノカナワラビの特徴が現れています。

全て同じ場所のものですが、フクオカカナワラビはホソバカナワラビよりも葉色が"重い"感じがします。

 

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ホソバカナワラビの葉身中部の側羽片↑

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フクオカカナワラビの葉身中部の側羽片↑

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ツクシカナワラビの葉身中部の側羽片↑

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コバノカナワラビの葉身中部の側羽片↑

フクオカカナワラビにはコバノカナワラビの気配を少し感じますね。

 

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ホソバカナワラビの葉身頂部↑

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フクオカカナワラビの葉身頂部↑

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ツクシカナワラビの葉身頂部↑

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コバノカナワラビの葉身頂部↑

フクオカカナワラビの葉身頂部の狭まり方は、ホソバカナワラビと同じくらい(ツクシカナワラビよりも)急です。が、鉾上の部分はやや幅広いですね。

 

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並べてみるとこんな感じ。

左からツクシカナワラビ、フクオカカナワラビ、ホソバカナワラビ。

フクオカカナワラビの側羽片は少ないですね。

 

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それぞれの根茎を上から順に並べてみました。

ホソバカナワラビ、フクオカカナワラビ、ツクシカナワラビ、コバノカナワラビ。

フクオカカナワラビの根茎は長く這いますが、葉のつく間隔(発達しなかった場所も含め)が少し短いことがわかるかと思います。ツクシカナワラビの場合の間隔よりは明らかに広いですね。

 

根茎は掘り出さないとわかりませんが、前述した葉身の形態に基づき、なれれば幼株でも区別できます(この自生地では)。

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ホソバカナワラビ↑

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フクオカカナワラビ↑

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ツクシカナワラビ↑

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コバノカナワラビ↑

ツクシカナワラビ

種名:ツクシカナワラビ

(Arachniodes tsutsuiana Sa.Kurata ex Nakaike, nom. nud., Dryopteridaceae)

解説:ホソバカナワラビとコバノカナワラビのゲノムを有していながら有性生殖をする2倍体のカナワラビ

場所:福岡県西部

確認日:2018.10.14, 2017.10.14

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ツクシカナワラビ。図鑑に記述のあった場所をようやく見つけ出すことができました。この自生地にはホソバカナワラビ、コバノカナワラビも生育しており、フクオカカナワラビも見られます。

雑種的でありながら有性生殖をするとされていますが、胞子葉が無かったため、1株を栽培してみることにしました。ちょうど一年後となりましたが、胞子葉がつき、胞子がほぼ定形であることを確認できました。

わかりやすい違いとしては、ホソバカナワラビに比べると頂羽片が不明瞭で側羽片が幅広い。コバノカナワラビに比べるとややまとまった頂羽片があり、ホソバカナワラビ的なツヤ感がある。といった具合です。両種と比較してみます。

 

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ツクシカナワラビの最下側羽片↑

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コバノカナワラビの最下側羽片↑

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ホソバカナワラビの最下側羽片↑

側羽片の幅はコバノカナワラビ的ですが、より丸っこい小羽片や裂片はホソバカナワラビ的ですね。

 

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ツクシカナワラビの葉身中部の側羽片↑

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コバノカナワラビの葉身中部の側羽片↑

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ホソバカナワラビの葉身中部の側羽片↑

最下側羽片と同様の相違・類似点があります。

 

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ツクシカナワラビの葉身頂部↑

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コバノカナワラビの葉身頂部↑

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ホソバカナワラビの葉身頂部↑

このツクシカナワラビは葉身頂部の鉾状度合いが強い型ですが、それでもホソバカナワラビに比べると基部にかけて幅広く、狭まり方が急ではありません。

 

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上から順に、ホソバカナワラビ、フクオカカナワラビ、ツクシカナワラビ、コバノカナワラビの根茎。

ツクシカナワラビの根茎は、長く這うホソバカナワラビと短く這うコバノカナワラビの特徴の中間で、やや長く這うものの葉のつく間隔は短いです。

 

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こちらは栽培株ですが、ツクシカナワラビのソーラスの様子。

中間に位置し、包膜は全縁です(以下)。

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