ナガバヤブソテツ
種名:ナガバヤブソテツ(Cyrtomium devexiscapulae (Koidz.) Ching, Dryoteridaceae)
解説:有性生殖をするヤブソテツ類
場所:福岡県の東部
確認日:2017.12.17
石灰岩地では比較的多いですが、低山ではそこそこ見つかると思います。
オニヤブソテツ系の種で、成熟したような個体はオニヤブソテツと容易に見分けられますが、幼株だとちょっと微妙です。
有性生殖種であり、その他無融合生殖種のヤブソテツ類とも雑種を作ります。
ナガバヤブソテツの葉身頂部。
指が邪魔でした。各羽片は混み合ってつかず、ほっそりとしています。
葉色はやや明るい緑色で、光沢は強いです(テリハヤブソテツよりも)。
テリハヤブソテツの最下側羽片。
テリハヤブソテツの中部の側羽片。
側羽片は細長い形状をしており、基部に耳片は発達しません。
オニヤブソテツのように基部上側が盛り上がることもありません。
辺縁はやや波状縁で、切れ込みが深いこともしばしばあります。
テリハヤブソテツの側羽片の頂部。
側羽片中部は波状縁であったりますが、先端にかけては全縁です。
テリハヤブソテツのソーラスと包膜の様子。
ソーラスは裏の全面に散在します。
包膜は全縁で、中心部が(というよりほぼ全面が)黒褐色です。
鱗片撮り忘れました。笑
テリハヤブソテツ
種名:テリハヤブソテツ(Cyrtomium laetevirens (Hiyama) Nakaike, Dryoteridaceae)
解説:ヤブソテツ類では識別が容易な種
場所:福岡県の中部
確認日:2017.12.23
県内では山に入れば普通に見つかるヤブソテツ類がこのテリハヤブソテツ。
テリハと言うだけあって光沢のある種ですが、光沢のあるタイプのミヤコヤブソテツやヒロハヤブソテツに比べると光沢は少ないです。
テリハも無融合生殖種ですが、それぞれに中間型のある"ヤブソテツ類"や、光沢の有無に変異のあるミヤコヤブソテツに比べると、形質の変異は少ないように思います。
テリハヤブソテツの葉身頂部。
明瞭な頂羽片があります。カメラのフラッシュでわかりにくいですが、葉色はやや黒っぽい緑色をしていることが多いです。
テリハヤブソテツの側羽片。
やや鎌状に曲がることが多いです。辺縁は全体に細鋸歯縁です。
テリハでは側羽片基部に耳片が発達しないことがほとんどです。
テリハヤブソテツの側羽片の先端部。
辺縁は先端部まで細鋸歯状です。オニヤブソテツ系との識別点になる特徴。
テリハヤブソテツのソーラスと包膜の様子。
ソーラスは葉の裏面全体に散在します。包膜は灰白色...というよりは淡褐色で全縁、中心部は黒くなりません。また、"ヤブソテツ類"のうち、ホソバヤマヤブソテツに比べると明らかに包膜は大きいと思います。
テリハヤブソテツの鱗片の様子。
イチョウシダ
種名:イチョウシダ(Asplenium ruta-muraria L., Aspleniaceae)
解説:独特な葉身のAsplenium
場所:福岡県の東部
確認日:2017.12.17
この時期に及んで未だに活動中です(むしろ夏場に石灰岩地に行くとマダニがすごくて大変なので冬季に藪漕ぎ頑張ってます)。
県内で石灰岩地に特異的に分布するシダと言えば、このイチョウシダは外せませんよね。30株程が元気に生育しておりました。
石灰岩生ではあるものの、その生育環境はキドイノモトソウやクモノスシダ、コバノヒノキシダ、ツルデンダ、タチデンダ等とは異なるようでした。
イチョウシダの葉身。
名前の通り、裂片は銀杏の葉にやや類似した雰囲気です。質感はやや肉質で、(実葉を探すために)いじくっていると折れてしまうくらいの強度でした。
裂片の外縁部は歯牙状になっています。切れ込んでいるというか、縁が突起状になっている感じですね。裂片の両側は平滑です。
イチョウシダのソーラスの様子。
各裂片の基部・中間寄りについています。常緑ではありますが、この時期に正常に胞子が成熟しているとは丈夫です。
写真の通り、中軸や葉柄には鱗片の他に腺毛が多く生えています。日本のAspleniumでは珍しい形質だと思います。
イチョウシダの包膜。
TG4で頑張って撮りました。辺縁は毛状に裂けています。
イチョウシダの鱗片の様子。
岩場なのにナナフシの卵が落ちているというサプライズ...。
Aspleniumの仲間らしく、格子状の鱗片でした。縁の透明な部分はやや広かったです。
キドイノモトソウ
種名:キドイノモトソウ(Pteris kidoi Sa.Kurata, Pteridaceae)
解説:有性生殖をするイノモトソウの仲間
場所:福岡県の東部
確認日:2017.11.26
石灰岩地生に生育する代表的なイノモトソウ類の1つです。1年ぶりに見てきました。
初めて見つけた時は葉質がイノモトソウよりも硬質なことに感激したものです(シダをやり始めて半年くらいだったかな)。
上の写真に挙げたように、キドイノモトソウは陽地に生える場合は羽片が細長くなり、日陰に生える場合は比較的幅広の羽片になります(他の種でもよくあるけど)。
イノモトソウの側羽片数が3〜5対くらいなのに対して、キドイノモトソウの側羽片数は1対か2対であることがほとんどです(もちろん3,4対になっている場合もあるけど)。
キドイノモトソウの側羽片。
イノモトソウの側羽片。
イノモトソウとはぱっと見で認識できるほど形態に違いがありますが、細かく言えば偽脈が明瞭かどうかで識別できます。イノモトソウにも一応偽脈はありますが、キドイノモトソウでは写真のように明瞭です。
ちなみにヒメイノモトソウも石灰岩地生の有性生殖種で細長い羽片を持ちますが、偽脈は不明瞭で羽片はキドイノモトソウの陽地ver程に細く、またより長かったです。
もう一つの違いとしては、中軸に羽がないことですかね。
幼株や裸葉の時は、写真のように頂羽片のみが著しく伸張する傾向があり、最下側羽片はちょこっとしか伸張せずタレ眉になっています。
こういうのを見ると、キドイノモトソウだなぁと思います(適当)。
キドイノモトソウのソーラス。
裏面からでも偽脈は見えますね。
キドイノモトソウの鱗片。
石灰岩にカメラのフラッシュが反射してうまく撮れませんでした。笑
光沢のある黒褐色の鱗片です。
イセザキトラノオ
種名:イセザキトラノオ(Asplenium x kitazawae Sa.Kurata et Hutoh, Aspleniaceae)
解説:クモノスシダとコバノヒノキシダの雑種
場所:福岡県の東部
確認日:2017.11.26
主に石灰岩地に生育するクモノスシダとコバノヒノキシダの雑種です。
フォルムはクモノスシダ寄りですが、単羽状になっており、明確に識別できますね。
これがコバノヒノキシダ。
これがクモノスシダ。
雑種を確認した場所は、この両種が混生する場所でした(というかイセザキトラノオの根元にコバノヒノキシダとクモノスシダが両方生えてた)。
筒井さんが1977年に採集しているようですが、これは私がマダニに負けずに藪漕ぎを頑張って見つけた別の個体です。笑
イセザキトラノオの葉身の拡大(2枚)。
クモノスシダの全縁の単葉に、コバノヒノキシダが混ざっているため、単羽状になっており、裂片には鋸歯が生じています。
クモノスシダといえば無性芽ですが、イセザキトラノオの葉身の先端には無性芽の気配はありませんでした。
イセザキトラノオの葉身基部の拡大。
掲載したクモノスシダの写真からわかる通り、クモノスシダの中肋はあまり目立ちませんが、イセザキトラノオではコバノヒノキシダのように中肋が明瞭に突出しています。
また、葉脈もはっきりしています。
イセザキトラノオのソーラス(2枚)。
各裂片についています。
胞子嚢はわしゃわしゃしていますが、未成熟でした。
イセザキトラノオの鱗片。
Aspleniumの仲間と言えばこの格子状の鱗片が特徴です。
以下にクモノスシダとコバノヒノキシダの鱗片も掲載しますが、イセザキトラノオの鱗片の長さは両種の中間でした。
イセザキトラノオ:4.5mm
クモノスシダ:1.5mm
コバノヒノキシダ:(標本とってなかったけど、標準図鑑によれば3-6mmくらい)
クモノスシダの鱗片。短い。
コバノヒノキシダの鱗片。長い。