しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

クマイワヘゴ

種名:クマイワヘゴ(Dryopteris anthracinisquama, Dryopteridaceae)

解説:ツツイイワヘゴ近似の3倍体無融合生殖種

場所:福岡県東部

確認日:2020.6.27, 2019.7.28

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福岡県産のクマイワヘゴです。湿潤な場所に生育しています。葉身長30〜40cmの個体が多く生育しています。大型でがっしりとしたイワヘゴです。遺伝的にツツイイワヘゴに近い種ですが、別物です(Hori et al. 2019参照*)。3倍体無融合生殖種で、福岡県の個体についても同様であることを確認しています。

熊本県にも自生していますが、熊本県では県条例に指定される程に脆弱な状況になっています。観賞価値があるものではないですが、見つけたら大切にしましょう。

 

クマイワヘゴは葉脈が凹まないことが原記載(宮本 1984**)から特徴とされていますが、このイワヘゴ類の葉脈が"凹む" or "凹まない"というのは見慣れていないとニュアンスが微妙です。せっかくなので、主なイワヘゴ類(Dryopteris atrata Complex)の側羽片を比較掲載しておきます。

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↑クマイワヘゴの側羽片(葉脈はほとんど凹まない)

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↑参考:ツクシオオクジャクの側羽片(葉脈は明瞭に凹む)

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↑参考:オオクジャクシダの側羽片(葉脈は明瞭に凹む)

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↑参考:ワカナシダの側羽片(葉脈はやや凹む)

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↑参考:キリシマイワヘゴの側羽片(葉脈は凹まない)

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↑参考:ツクシイワヘゴの側羽片(葉脈はあまり凹まない)

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↑参考:イワヘゴの側羽片(葉脈はやや凹む〜あまり凹まない)

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↑参考:イヌイワヘゴの側羽片(葉脈は凹まない)

以上のように、クマイワヘゴの葉脈は明瞭には凹みませんが、キリシマイワヘゴやイヌイワヘゴに比較すると葉脈自体は明瞭です。この、あまり〜とか、やや〜とかいう表現は微妙で申し訳ないですが、様々な種について比較見当していく中でこそ理解できていく特徴であり、一朝一夕では難しいかもしれません。

なお、クマイワヘゴのその他の特徴として、側羽片の辺縁が鋸歯縁であること、側羽片は他のイワヘゴ類と比較してやや幅広く、基部の幅は2cmに達します(大型の株でなくても)。あと葉が硬質です。

 

 

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クマイワヘゴの葉身基部。

最下の3対ほどは下向きになります。他の多くのイワヘゴ類と共通する特徴です。

 

 

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↑クマイワヘゴの葉身頂部

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↑参考:イワヘゴの葉身頂部

クマイワヘゴは切れ込みが浅い(側羽片では鋸歯縁)ため、イワヘゴに比べると輪郭がはっきりしています。

 

 

 

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クマイワヘゴのソーラス

ソーラスは葉の頂部から付き、どちらかと言えば羽軸に寄って付いています。葉身の裏面がやや白っぽいこともクマイワヘゴの特徴だと思います。

 

 

 

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クマイワヘゴの中軸下部

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クマイワヘゴの中軸下部の鱗片

中軸には黒褐色の鱗片が密に付きます。鱗片は明瞭な突起縁です。なお、光沢があるように見えますが、濡れているためです。

 

 

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クマイワヘゴの葉柄基部

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クマイワヘゴの葉柄(中部)の鱗片

葉柄基部にも黒褐色の鱗片が密に付きます。中軸と同様、葉柄の鱗片も明瞭な突起縁です。イワヘゴの葉柄基部の鱗片に比べると、クマイワヘゴではより黒っぽく、辺縁の突起も明瞭(太い)です。

↓参考:イワヘゴの葉柄の鱗片

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*Hori et al. 2019. Genome Constitution of the Dryopteris atrata Complex (Dryopteridaceae)

**宮本太. 1984. 日本産オシダ属の新種と新雑種. 植物研究雑誌 第59巻 第8号. 植物研究雑誌.