ハゴロモクリハラン
種名:ハゴロモクリハラン(Lepisorus ensatus f. monstriferus, Polypodiaceae)
解説:葉身の下部から角を出すクリハランの品種(?)
場所:福岡県北部
確認日:2024.1.2
珍しく短期間でブログを更新してみました。
今回はハゴロモクリハランになります。学名はFern Green List ver2.0に従ってLepisorusにしています。品種との扱いになっていますが、実態は十分に解明されてはいないようです。
北九州の自生地では写真のように石垣や林床に群落を作って生育しており、クリハランとも隣接して生育しています。葉身の基部の辺縁は不規則な角状になって突出しますが、角が出ない葉も稀にはあります。
また、全国のハゴロモクリハランも同じかどうかは把握していませんが、この自生地の個体群の葉にはクリハランのような光沢が無く、緑白色をしています。次の比較写真を参考にしてください。
↑ハゴロモクリハラン(左)とクリハラン(右)の比較
↑ハゴロモクリハランの葉身
標準図鑑Ⅱ(海老原 2017)には「ハゴロモクリハランは三角形状の葉身・・・ヒロハクリハランの型に生じるとされる」また「ヒロハクリハランは葉身の幅が10cmに達する型」と記述されています。
ここの自生地のものについては、写真のように葉身が長楕円状披針形で、最大幅は7.0cm〜8.5cm程度であり、ヒロハクリハランと扱うには物足りないかもしれません。
なお、角状の突出部を含めた場合、最大幅は28cmほどあります。参考までにここで同所的に生育していたクリハランの最大幅は4.0〜5.5cm程度でした。
↑ハゴロモクリハランの角状の突出部
小さい葉ではあまり伸びませんが、大型の葉では写真のように著しく伸張する場合もままあります。かっこいいですね。
↑ハゴロモクリハランのソーラス(遠景)
↑ハゴロモクリハランのソーラス(接写)
ソーラスはクリハランと同様に中軸寄りに優先してつき、その周辺に不規則に散在するようです。こういう感じ(円い粒が多い感じの)の写真は好き嫌いが分かれそうです。笑
現地でハゴロモクリハランとクリハランを観察している時、ハゴロモクリハランのソーラスは全て写真のように茶色っぽく、一見すると古いソーラスであるかのように思えたのですが、発育異常のようでした。以下、クリハランと比較してみます。
↑ハゴロモクリハランのソーラスの拡大
↑クリハランのソーラスの拡大
↑ハゴロモクリハランの胞子嚢と胞子
↑クリハランの胞子嚢
↑クリハランの胞子
上記の写真のように、ハゴロモクリハランの胞子嚢自体はクリハランと同程度に発達していましたが、胞子が白っぽく(あるいは透明か)中身が充実していないようでした。ただし、胞子の外殻(周皮か外膜)自体は正常に発達しているようで、未熟な時期に稔性を判定する際には注意が必要かもしれません。
そんなところで、ハゴロモクリハランのソーラスは古いために茶色く見えたのではなく、胞子が発育異常であるためにクリハランのように胞子嚢が黄色くは見えず、胞子嚢の環帯の色が目立ったために全体が茶色く見えたようです。
ヒロハクリハランで指摘されているとおり、この型も雑種(3倍体不稔性)なのかもしれませんね。
↑ハゴロモクリハランの根茎
根茎はクリハランと同様に長く這います。写真のものは地中に埋まっていたために白っぽくなっていますが、地表を這っている根茎は緑色になります。
★掲載種・雑種一覧 2024.1ver【 97種 ・45雑種 】
◆Aspleniaceae
Asplenium
●イチョウシダ ●イノウエトラノオ
[雑種]
●イセザキトラノオ
◆Athyriaceae
Athyrium
●アオグキイヌワラビ ●ウスバヘビノネゴザ(キリシマヘビノネゴザ)
●カラクサイヌワラビ ●サカバサトメシダ ●サキモリイヌワラビ
●トガリバイヌワラビ(ナガエイヌワラビ) ●トゲカラクサイヌワラビ
[雑種]
●アイトガリバイヌワラビ ●オオカラクサイヌワラビ
●オオサカバサトメシダ ●オオサトメシダ ●カラサキモリイヌワラビ
●ヤマカラクサイヌワラビ ●ヤマサカバサトメシダ ●ユノツルイヌワラビ
Diplazium
●イヨクジャク ●ウスバミヤマノコギリシダ ●コクモウクジャク
●シマシロヤマシダ(鹿児島県) ●ニセコクモウクジャク(鹿児島県)
[雑種]
●アカメクジャク ●ウスバツクシワラビ ●サツマクジャク(鹿児島県)
●セフリワラビ ●ダンドシダ ●ツクシワラビ
◆Dennstaedtiaceae
Monachosorum
●オオフジシダ
◆Diplaziopsidaceae
Diplaziopsis
●イワヤシダ
◆Dryopteridaceae
Arachniodes
●オトコシダ ●オニカナワラビ ●コバノカナワラビ
●ツルダカナワラビ(鹿児島県) ●ハガクレカナワラビ (佐賀県)
●ハカタシダ ●ヒゴカナワラビ(熊本県) ●ヒロハナライシダ
[雑種]
●イヌツルダカナワラビ(鹿児島県) ●エンシュウカナワラビ
●ホソバハカタシダ ●マサキカナワラビ ●ヤマグチカナワラビ
Ctenitis
●サツマシダ (鹿児島県)
Cyrtomium
●イズヤブソテツ ●ツクシヤブソテツ(熊本県)
●ツクシヤブソテツ狭羽片型 ●テリハヤブソテツ ●ナガバヤブソテツ
●ヒロハヤブソテツ ●ミヤコヤブソテツ ●ヤブソテツ(ツヤナシヤブソテツ型)
●ヤブソテツ(ヒラオヤブソテツ型) ●ヤブソテツ(ホソバヤマヤブソテツ型)
[雑種]
●ナガバヤブソテツモドキ
Dryopteris
●イヌイワヘゴ ●イワヘゴ ●オオベニシダ ●オクマワラビ
●ギフベニシダ ●キヨズミオオクジャク ●キリシマイワヘゴ(宮崎県)
●タカサゴシダモドキ ●ツクシイワヘゴ ●ツクシオオクジャク
●ハチジョウベニシダ ●ヒロハトウゴクシダ ●ベニオオイタチシダ
[雑種]
●アイノコクマワラビ ●イワヘゴモドキ ●オオスミイワヘゴ(宮崎県)
●タカチホイワヘゴ(宮崎県) ●ナンゴクオオクジャク
Polystichum
●カタイノデ ●キュウシュウイノデ (鹿児島県) ●ツヤナシイノデ
●ツヤナシイノデモドキ ●ツヤナシフナコシイノデ ●ミツイシイノデ
◆Hymenophyllaceae
Hymenophyllum
●オオコケシノブ(三重県) ●コケシノブ ●ヒメコケシノブ
Vandenboschia
●ヒメハイホラゴケ
◆Lindsaeaceae
Osmolindsaea
●サイゴクホングウシダ
◆Marattiaceae
Angiopteris
●ヒノタニリュウビンタイ
◆Polypodiaceae
Lepisorus
●コウラボシ(宮崎県) ●ツクシノキシノブ
Leptochilus
●コマチイワヒトデ (鹿児島県)
Pleurosoriopsis
●カラクサシダ
Polypodium
●オシャグジデンダ
Pyrrosia
●ビロードシダ
◆Pteridaceae
Pteris
●アイコハチジョウシダ(鹿児島県) ●キドイノモトソウ
●クマガワイノモトソウ(熊本県) ●サツマハチジョウシダ(鹿児島県)
●ニシノコハチジョウシダ(鹿児島県) ●ヒカゲアマクサシダ(三重県)
●ヒノタニシダ(鹿児島県) ●ヤクシマハチジョウシダ(鹿児島県)
[雑種]
●イツキイノモトソウ(熊本県) ●ナンピイノモトソウ(熊本県)
◆Thelypteridaceae
Thelypteris
●オオゲジゲジシダ ●コゲジゲジシダ ●ホウライゲジゲジシダ(鹿児島県)
オオフジシダ
種名:オオフジシダ(Monachosorum nipponicum, Dennstaedtiaceae)
解説:葉が細かく切れ込むフジシダの仲間
場所:福岡県南部
確認日:2023.8.20
またブログをさぼってしまいました。知人に更新宣言をしてしまいましたので、大晦日ですが更新します。笑
最近は仕事のほか植物的な諸々が慌ただしい日々を送っていました。
このブログはもはや身バレしているようなのですが、これまでどおり臆せずにいこうと思います。
今回はオオフジシダです。福岡県では分布範囲自体は広いのですが、2〜3株しか生育していない自生地が多く、群生する自生地はごく稀です。今回掲載する個体は八女市で見つけたもので、ここの自生地は150株以上が点在or群生する稀有な場所でした。
↑オオフジシダの葉身①
↑オオフジシダの葉身②
"オオ"フジシダとの和名ですが、葉身の長さ自体はフジシダとそんなに変わらず、葉の幅が広いことが特徴です。この点では"大きな"フジシダですね。葉身は40cmくらいにはなります。
葉身は3回羽状深裂程度で、小羽片が深裂する点もフジシダとは異なります。
↑オオフジシダの最下側羽片
本種に類似するものとしては、ヒメムカゴシダ(国外分布種のムカゴシダとの雑種)が国内に分布していますが、オオフジシダでは最下羽片の小羽片が内先(上側が先)に出る点が異なります。
写真は上側が葉身の先端側になります。
少しわかりにくいですが、側羽片の付け根付近の上側に小羽片があります。
↑オオフジシダの葉身中部の側羽片
葉身の中部でも最下の小羽片は内先(上先)に出ています。
小羽片は中裂から深裂程度です。
↑オオフジシダの葉身の先端
時期によるのかもしれませんが、ここの個体群はどの個体も無性芽をつけていませんでした。無性芽をつけない型はキシュウシダとして区別する場合があるようです。福岡で群生しない場所が多いのもキシュウシダの型が多いからかもしれません。
↑オオフジシダのソーラス(全体)
↑オオフジシダのソーラス(拡大)
ソーラスは裂片の脈端につくため、やや辺縁寄りにみえます。脈端ではありますが、写真を見ると若干脈背生でしょうか。
本種には包膜がないため、胞子嚢がむき出しの状態になっています。
胞子嚢は基部から成熟しているようで、褐色のものから未熟な白濁色のものまで観察できます。
中軸や羽軸、小羽片では脈を中心に褐色の毛(棍棒状の多細胞毛)が疎らについています。この毛は葉身の表面の脈上にも少しあります。
↑オオフジシダの根茎
たくさん生えていたので標本用に採集しました(採集は許可有り)。
根茎は斜上しており、葉柄基部に鱗片はありませんが多細胞毛はあります。
オオゲジゲジシダ
種名:オオゲジゲジシダ(Phegopteris koreana, Thelypteridaceae)
解説:コゲジゲジシダ起源種の片親(2倍体 or 4倍体 有性生殖種)
場所:福岡県西部
確認日:2023.7.23
藤原さんの論文*で整理されたゲジゲジシダ類のうち、ホウライゲジゲジシダとともに雑種起源種コゲジゲジシダの片親であると推定された種になります。岩壁に生えるホウライゲジとは異なって林床や斜面的な場所に生育していました。
【参照記事】→ ホウライゲジゲジシダ、コゲジゲジシダ
オオゲジゲジシダとコゲジゲジシダの主な識別点は以下のような感じです。
★オオゲジゲジシダ(2倍体 or 4倍体)
葉:2回羽状深裂〜2回羽状葉・夏緑性
側羽片:基部5-16対は隣接する側羽片と独立
葉脈:遊離
葉柄基部の鱗片:短い毛状縁
■コゲジゲジシダ(4倍体)
葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂・夏緑性
側羽片:基部3-16対は隣接する側羽片と独立
葉脈:一部辺縁に達する
葉柄基部の鱗片:長い毛状縁
↑中型のオオゲジゲジシダ①
↑中型のオオゲジゲジシダ②(すぐ下にはコゲジゲジシダが混生)
↑中型のオオゲジゲジシダ③
↑大型のオオゲジゲジシダ
現地で見られた主なタイプを掲載してみました。名前に反して中型サイズが優占的でしたが、自生地によっては大型の個体が生育している場合もあり、写真のものでは葉身が62cmありました(論文*の最大サイズにはまだ及ばないが...)。
各個体に共通する特徴としては、(1)コゲジゲジシダに比べて切れ込みが深くて全体的に端正に見えること、(2)側羽片は最大幅が中央付近にあり、両端に向けて明らかに短縮すること、(3)葉身がより幅広い(広楕円形に近い)こと、が挙げられるかと思います。
↑オオゲジゲジシダの葉身基部
↑オオゲジゲジシダの葉身中部
↑オオゲジゲジシダの葉身上部
オオゲジの側羽片はコゲジよりも深く切れ込むため、葉身上部では葉がより細かく端正に見えます。
葉身基部からみて側羽片が何対独立するか(上下で延着しないか)、という点はコゲジゲジシダとホウライゲジゲジシダと間での識別点としては有用でした。
オオゲジゲジシダの場合、個体によっては葉身上部までずっと上下の側羽片が独立しているものもいましたが、葉身中部くらいまで独立している場合がメジャーのようで、この特徴はコゲジとの区別点としては有用ではなさそうです。
■側羽片の特徴
↑オオゲジゲジシダの葉身中部の側羽片
↑大型のオオゲジゲジシダの葉身中部の側羽片
↓参考写真
↑コゲジゲジシダの葉身中部の側羽片
↑ホウライゲジゲジシダの葉身中部の側羽片
オオゲジゲジシダの側羽片は深裂するため、中裂〜浅裂程度のコゲジゲジシダやホウライゲジゲジシダと並べると違いがわかります。ホウライゲジゲジシダについては裂片が鋭頭である点も顕著な違いです。写真ではわかりにくいですが、側羽片と中軸の角度がオオゲジゲジシダでより開出気味になるという違いもあります。
オオゲジゲジシダの側羽片は大型になると裂片も切れ込むようになるようで、裂片が浅裂している個体もまあまあ見られました。
■葉脈の特徴
↑オオゲジゲジシダの葉脈いろいろ
問題の葉脈ですが、観察している限りでは、オオゲジゲジシダの葉脈はほぼ全て遊離していました(奇形とかを除いて)。側羽片の大きさ、裂片の切れ込み、側羽片間の飾り的な裂片によらず、いずれでも葉脈は遊離しています。
ただ、日向で育って葉縁が巻き気味になっているような葉の場合は、屋外で日の透過光によって確認するのは難しいかもしれません。
■鱗片の特徴
↑オオゲジゲジシダの葉柄基部
↑オオゲジゲジシダの葉柄基部の鱗片
↑オオゲジゲジシダ(上)とコゲジゲジシダ(下)の鱗片の比較
ゲジゲジシダ類に特徴的なトゲトゲした鱗片がオオゲジゲジシダにもありますが、コゲジやホウライゲジに比べると鱗片のトゲはより短いです。ただ、これが著しい差かと言えば、比較してみてわかるくらいの違いかもしれません。
■胞子の特徴(スケールは同じです)
↑オオゲジゲジシダの胞子
↑コゲジゲジシダの胞子
今回調べた分については、オオゲジゲジシダの胞子周皮長(perispore)は36.2μm、38.2μmほどでした。コゲジゲジシダでは41.0μm〜46.2μm(平均44μm)でしたので、論文*の掲載値も参考にして、ここの自生地のオオゲジゲジシダは2倍体なのだと思います。
ぱっと見でもコゲジよりは小さいですが、オオゲジゲジシダの胞子表面にはなぞのプツプツがあり、この点も相違点かもしれません。
※補足
シダ植物では(近縁種間において)倍数性の違いは胞子サイズの違いにも反映されると考えられているため、同定の際に参考にできる場合があります。
コゲジは4倍体のみしか知られていませんが、オオゲジは2倍体と4倍体が知られているため、胞子サイズのみでオオゲジとコゲジを区別することは多分難しいです。
↑オオゲジゲジシダのソーラス
載せるタイミングがなかったので一番最後になりました。笑
ソーラスはやや辺縁寄りにつきます。
論文*はこちらとなっています。
*Fujiwara, Tao, et al. "Species Delimitation in the Phegopteris decursivepinnata Polyploid Species Complex (Thelypteridaceae)." Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 72.3 (2021): 205-226.
ホウライゲジゲジシダ
種名:ホウライゲジゲジシダ(Phegopteris taiwaniana, Thelypteridaceae)
場所:鹿児島県大隅半島
確認日:2022.12.28
ホウライゲジゲジシダです。今年もさぼり癖と戦いながらぼちぼち更新していきます。
本種は2021年に発表された論文*でゲジゲジシダ類が整理された際、同時に新種として発表されたシダです。福岡県での発見に期待していましたが、どこへ行ってもコゲジゲジシダしかいないので(笑)、大隅半島へ探しに行ってきました。
↑ホウライゲジゲジシダの生育環境
渓流沿いの岩壁を主な生育環境としているようで、ヤナギニガナやミツデウラボシ(チャボミツデウラボシの型)、シロヤマゼンマイと同所的に見られました。同質的な環境として、渓流沿いの護岸等でも見つかりました。また同じ岩壁的環境でも、乾燥している場所と湿潤な場所とでは形態に変異があるような気がしています。
今回の記事ではコゲジゲジシダとの差異に着目しながら本種の形態について紹介したいと思います。ゲジゲジシダって、タイピングしているとゲジゲジし過ぎて混乱してくるので、たまにゲジゲジゲジシダみたくゲジ過剰になっているかもしれません。笑
識別点は以下のとおり(コゲジとホウライゲジ、前の記事から表現を少し修正)
■コゲジゲジシダ(4倍体)
葉脈:一部辺縁に達する
側羽片:基部3-16対は隣接する側羽片と独立
葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂・夏緑性
裂片先端:卵形〜卵状三角形
★ホウライゲジゲジシダ(2倍体)
葉脈:ほとんど辺縁に達する
側羽片:側羽片は隣接するものと合流、基部1-2対は稀に独立
葉:単羽状中深裂〜2回羽状中深裂・常緑性
裂片先端:卵状三角形〜三角形
以下にサイズ別の生態写真を掲載していきます。
↑小型のホウライゲジゲジシダ1
↑小型のホウライゲジゲジシダ2
↑中型・乾燥地生のホウライゲジゲジシダ
↑中型・湿潤地生のホウライゲジゲジシダ
↑大型のホウライゲジゲジシダ
↑参考:コゲジゲジシダ
葉身の大きさは小型から大型まで様々で、実葉では最小15cmほど、最大40cm超えといったところ。常緑性のため冬季でも青々としてはいましたが、裸葉のみの個体が多く、実葉の発生には季節性があるかもしれません。
葉は単羽状中深裂〜二回羽状中深裂ですが、二回羽状の場合も側羽片が独立することはありません。あとコゲジゲジシダに比べると全体的に先端が尖っています。
葉身の切れ込みがコゲジゲジシダよりは浅いため、小型の葉のときは全体に密な印象を受けますが、大型の葉になると側羽片が交互(対にならずに)につくようになり、コゲジゲジシダの大型葉と似たような形態になります。
続いてポイントとなる葉身基部の側羽片の独立具合をサイズ別に比較します。
↑小型のホウライゲジゲジシダの葉身基部
↑中型のホウライゲジゲジシダの葉身基部1
↑中型のホウライゲジゲジシダの葉身基部2
↑大型のホウライゲジゲジシダの葉身基部
論文*に記載のとおり、隣接する側羽片と連続していないのは最基部の1〜2対のみで、ものによっては最基部まで連続しています。大型葉でも中軸の翼がしっかり連続しています。
稀には最基部の3対が独立している葉もありましたが、その場合でも別の葉では連続していたので、迷った場合には複数の葉を比較すると良さそうです。
また、ホウライゲジの大型の実葉では裂片が鋭い三角形状になる場合が多く、この点もコゲジゲジシダとは明瞭に異なります(ただし、裸葉では卵状寄りになるので注意)。以下参照。
↑ホウライゲジゲジシダの大型葉の側羽片
↑参考:コゲジゲジシダの大型葉の側羽片
ホウライ大型個体の実葉では裂片が明瞭な三角形状になる場合が多いのに対し、コゲジゲジシダは卵形ないし卵状三角形程度のため、より丸っこいです。大型葉での切れ込みの深さは同程度かな。
続いて問題の、ホウライゲジゲジシダの脈が辺縁に達する度合いについて。
↑側羽片の脈1
↑側羽片の脈2
↑側羽片の脈3
ホウライゲジゲジシダ自体、辺縁に達しない脈が交じることは普通のようで、葉の切れ込み具合(観察する場所)によっては辺縁に達しない脈が普通に見られます。
コゲジゲジシダとの差異については、同程度のサイズの葉で比較するとわかるのですが、"ホウライゲジゲジシダの方がより多くの脈が辺縁に達する"ようです(赤い矢印が達していない脈)。論文の検索表のとおりですね。
脈が辺縁に達しているかどうかだけに着目すると同定間違えるので、参考程度の特徴だと思います。
以上のように、脈は参考程度の特徴として、葉身基部の側羽片の連続具合や裂片の尖り具合によってコゲジゲジシダとは識別できそうです。
夏緑性か常緑性かという点も参考にはなりますが、大隅半島では12月末でもコゲジゲジシダの多くは元気にしていたので注意が必要です(そもそもコゲジには常緑性のホウライの遺伝子が入っているので)。
↑ホウライゲジゲジシダの幼若個体
↑コゲジゲジシダの幼若個体
幼若個体でも同様、コゲジゲジシダでは基部の側羽片がより不連続になるので識別可能です(同一地域に生育していた個体)。
その他の特徴についても参考に掲載しておきます。
↑ホウライゲジゲジシダの葉身基部
↑ホウライゲジゲジシダの葉柄基部の鱗片
コゲジゲジシダと同様、鱗片は葉柄に密につきます。鱗片の辺縁の刺もコゲジゲジシダと同様に長いですが、より細長いかもしれません。綺麗ですね。
↑ホウライゲジゲジシダのソーラス
ソーラスは若干辺縁寄りについています。
↑ホウライゲジゲジシダの胞子
↑コゲジゲジシダの胞子
時期的に胞子の観察が難しく、ほじくり出しての検鏡となりましたが、胞子外膜長(exospore)の平均は約36.8μm(最小:34.6μm、最大:38.4μm)でしたのでホウライゲジゲジシダの範囲としてはまあ妥当かなと思います。
※コゲジの小さめの胞子は斜めになっているものです。
論文*
ホウライゲジゲジシダ胞子:32〜36μm
コゲジゲジシダ胞子:39〜43μm
論文*はこちらとなっています。
*Fujiwara, Tao, et al. "Species Delimitation in the Phegopteris decursivepinnata Polyploid Species Complex (Thelypteridaceae)." Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 72.3 (2021): 205-226.