アイノコクマワラビ
種名:アイノコクマワラビ(Dryopteris x mituii, Dryopteridaceae)
解説:クマワラビとオクマワラビの雑種
場所:福岡県
確認日:2020.5.23
シダ初心者にもお馴染みの(?)アイノコクマワラビです。
片親のオクマワラビ自体がクマワラビとイワヘゴ類との雑種起源と考えられているため、オクマワラビ自体にクマワラビの風貌が強いものからイワヘゴ類的な風貌が強いものまで変異があります。そのためか、アイノコクマワラビにはクマワラビによく近似しているものもいます。クマワラビが2回かかっているんだから、クマワラビに似て当然と言えば当然でしょうか。
わかりやすいようで油断すると騙されやすい雑種だと思っています。以下に掲載した2種類の雑種個体については、形態と胞子形状から雑種と判断したものです。
それぞれ、裂片の形状やソーラスがつく葉身頂部の萎縮の状態が異なります。
↑アイノコクマワラビ(1) クマワラビ感が弱いもの(胞子確認済み:不定形)
↑アイノコクマワラビ(1)葉身中部の側羽片
↑アイノコクマワラビ(1)最下側羽片
↑アイノコクマワラビ(1)葉身頂部
↑アイノコクマワラビ(2) クマワラビ近似の型(胞子確認済み:不定形)
↑アイノコクマワラビ(2)葉身中部の側羽片
アイノコクマワラビ(2)最下側羽片
↑アイノコクマワラビ(2)葉身頂部
アイノコクマワラビ(2)は裂片の形状(鋭頭)や葉身の色、葉身頂部の萎縮がやや強く見られる等、クマワラビによく近似していますが、葉脈の凹みは浅いですね。
以上のように、アイノコクマワラビにはクマワラビ感の異なる個体がいます。オクマワラビとの識別点として、裂片(小羽片)が鋭頭であることが挙げられることがありますが、オクマワラビでも大型になると側羽片は深裂〜複生して裂片は鋭頭になっていきます。また、葉身の大きさについてもオクマワラビは育ちが良ければ60cmは軽く超えてくるので必ずしも参考になるわけではありません。
↑側羽片の切れ込みが深いオクマワラビ(胞子確認済み:定形)
最下側羽片では裂片が鋭頭になっています。
続いて葉柄基部の鱗片ですが、色についてはあまり当てになりません。クマワラビの鱗片は明るい褐色ですが、オクマワラビの鱗片は黒褐色〜褐色まで変異があります。もっとも、葉柄基部のごく下の方ではオクマワラビでも鱗片が褐色を呈している場合がやや多いと思います。
一方、鱗片の形状については参考にできると思っています。オクマワラビでは披針形〜狭披針形のやや硬い鱗片が多いことに対し、クマワラビでは卵形〜広披針形の膜質の鱗片が多いため、アイノコクマワラビではクマワラビ的な幅広の鱗片が多く混在するようになります。一応、最初に述べたとおり、オクマワラビ自体にも多少は幅広の鱗片が混じります。
↑アイノコクマワラビ(2)の葉柄基部の鱗片
↑上から順にオクマワラビ、アイノコクマワラビ(1)、クマワラビの鱗片
↑アイノコクマワラビのソーラス(おまけ)