種名:イヨクジャク(Diplazium okudairae Makino, Athyriaceae)
解説:ノコギリシダの夏緑性種
場所:福岡県の西部
確認日:2017.10.24、2019.8.4(写真更新)
単羽状葉のDiplaziumということでノコギリシダ近似の種ですが、明確に識別できる種です。ノコギリシダ、アカメクジャクとの比較はこのページにまとめてしたいと思います。
アカメクジャク。
ノコギリシダ。
葉身全体:イヨクジャクはより丸っこい形状をしていますが、アカメクジャク及びノコギリシダはより細長い形状をしています(広披針形vs長楕円形てきな)。
側羽片:イヨクジャクの側羽片は、アカメクジャク及びノコギリシダに比べてより幅広で、葉あたりの側羽片数は少ないです。
葉の色・質感:ノコギリシダは光沢がある深緑色で、革質です。イヨクジャクは光沢の少ない鮮(淡)緑色で、やや肉質です。アカメクジャクはその間で、紙質と肉質の真ん中くらいな感じ(抽象的)。
イヨクジャクの側羽片(上)と最下側羽片(下)。
アカメクジャクの側羽片(上)と最下側羽片(下)。
ノコギリシダの側羽片(下)と最下側羽片(下)。
側羽片の形状:イヨクジャクではより幅広く、ノコギリシダではより細長いです。
脈:恐らく一番頼りになる違いだと考えます。イヨクジャクの側脈は羽軸に対して狭い角度で分岐します(30度くらい?)。それに対し、ノコギリシダの側脈は羽軸に対して広い角度で分岐します(50-60度くらい?)。アカメクジャクはその中間ですかね。
イヨクジャクの側脈は狭い角度で分岐し、縁に達するまで長い弧を描きます。ソーラスが長くなるのも恐らくこの特徴からきているものでしょうね。
鋸歯:イヨクジャクでは明瞭な波状縁、というか浅裂していることがわかります。が、これはノコギリシダでも個体によっては稀に現れる特徴。
軸:イヨクジャクでは葉身が柄、中軸に流れています。ノコギリシダでも上部では流れますが、中下部では不明瞭になります。アカメクジャクではほとんど下部まで流れますが、延着している幅がイヨクジャクよりも狭いです。そのため、イヨクジャクでは柄の両側にある羽と羽の間の隙間がほとんど無いのに対し、アカメクジャクでは1mmくらいの隙間ができていました。
イヨクジャクのソーラス。
アカメクジャクのソーラス。
ノコギリシダのソーラス。
ソーラス:脈の角度については、この比較で伝わるかと思います。側脈がより狭く分岐するため、イヨクジャクではソーラスの角度がノコギリシダやアカメクジャクに比べて狭いです。また、イヨクジャクでは、側脈の分岐する角度が狭くソーラスのつく脈はより伸張するため、ソーラスも長いです。イヨクジャクのソーラスは10-11mmありますが、ノコギリシダでは長くても6mm程度。アカメクジャクでも7mm程度。
耳片のソーラス:イヨクジャクではアカメクジャクやノコギリシダに比べて出る傾向が強いです。この系統では側脈から最初に分岐する脈にソーラスがついているようなので、耳片がより発達し、"側脈"が複数回"分岐"するイヨクジャクやアカメクジャクででるのでしょうか。ちなみに私は耳片が大きく発達するタイプのノコギリシダでソーラスに耳片がついているのを見たことがあります。
ノコギリシダの葉身頂部。
葉身の先端形状は、イヨクジャクでは鋭頭、アカメクジャクとノコギリシダでは尾状です。また、イヨクジャクでは頂部の側羽片が強く軸に延着しています。アカメクジャクでは隙間が広くなり、ノコギリシダでは独立気味です。
ちなみに図鑑では"頂羽片様の部分を形成する"とよく表現されますが、頂羽片を形成するわけでもなく、はっきりとまとまっているわけでもないので、あまりあてにならないかなと思ってます。
その他、識別点として、
イヨクジャクは夏緑性で、アカメクジャクにも半分その性質が現れているので、晩秋には褐変し始めます。今回訪れた10月末でも既に部分的に変色していました。
あと、イヨクジャクの中軸の背軸側は、タカサゴキジノオの様に平らです(葉身が明瞭に延着し、稜みたいなのができてる。まあ実物を見てみてください)。
イヨクジャクの中軸背軸側の角張り。