イワヘゴモドキ
種名:イワヘゴモドキ(Dryopteris x mayebarae, Dryopteridaceae)
解説:ツクシイワヘゴとオクマワラビの雑種
場所:福岡県の西部
確認日:2019.6.9
イワヘゴモドキです。急にツクシイワヘゴとオクマワラビを連投したのはこの雑種を掲載するため。笑
両種が混成する場所では時折見かける雑種で、この2種の間では雑種が形成されやすいよう(?)。以下に両親種と対比しながら掲載してみます。
イワヘゴモドキの葉身。質感がわかるように自然光の写真も掲載しました。
オクマワラビに比べるとより深緑色・黒っぽい葉色で、ツクシイワヘゴに比べると湿っぽさが少なくドライな感じです(定性的)。
イワヘゴモドキの最下側羽片。
ツクシイワヘゴよりは明らかに深く切れ込みます。オクマワラビよりは切れ込みがやや浅いかな。
↓オクマワラビ(上下が逆...)
イワヘゴモドキの葉身中部の側羽片。
ツクシイワヘゴよりも裂片の切れ込みが深く、よりオクマワラビ的です。
↓ツクシイワヘゴ
↓オクマワラビ(ここまで切れ込まないこともあるけど)
(写真の向きがごちゃごちゃですみません。笑)
イワヘゴモドキの葉表面の様子。
ツクシイワヘゴよりも凹み、オクマワラビよりは凹みが浅いです。
↓ツクシイワヘゴ
↓オクマワラビ
イワヘゴモドキのソーラスのつき方。
ツクシイワヘゴでは葉身の全面につき、オクマワラビでは上半部につきますが、イワヘゴモドキではその中間的なつき方。2/3くらいまでついていたり、大型の葉では葉身の全面についていたりと。
イワヘゴモドキのソーラス。
ソーラスはやや軸寄りにつきます。ツクシイワヘゴの影響(包膜がごく小さい)で包膜の大きさに大小のバラツキが生じます(写真ではわかりずらいですが)。
胞子が飛散した後にも包膜は宿存していました。
イワヘゴモドキの葉柄基部の鱗片。
ツクシイワヘゴのような光沢の無い黒褐色の鱗片で、オクマワラビではやや疎らであるのに対し、イワヘゴモドキでは葉柄に密につきます。
ツクシイワヘゴ
種名:ツクシイワヘゴ(Dryopteris commixta, Dryopteridaceae)
解説:包膜が小さくて早落性の有性生殖イワヘゴ(適当)
場所:福岡県の西部
確認日:2019.6.9
ツクシイワヘゴです。県内では小渓流沿いや杉植林の林床等に広く分布します。
無融合生殖種が多いイワヘゴ類ではやや珍しい有性生殖種で、他の種との雑種をしばしば見かけます(シビイワヘゴ、イワヘゴモドキ、ナンゴクオオクジャク等)。
イワヘゴやイヌイワヘゴの葉の質感がややドライ?な感じであるのに対し、本種の葉の質感は「湿っぽい」とよく表現されます。
ツクシイワヘゴの最下側羽片。
イワヘゴやイヌイワヘゴのように極端に反り返ることはありませんが、葉のつき方や側羽片の生え方によっては写真の程度にはなります。下部の側羽片が極端に短縮することはなく、徐々に短縮する程度です。
ツクシイワヘゴの葉身中部の側羽片。
辺縁はごく浅い鋸歯縁のものから写真のように浅裂するもの、側羽片基部の裂片では独立するものまであり多様です。
ツクシイワヘゴのソーラス。
羽軸から辺縁まで散在するようにつきます。
包膜はごく小さく早落性であるため、写真のような状態の時には観察することはできません。この特徴はわかりやすいため、雑種かどうかの識別をする時には有用な場合があります。
ツクシイワヘゴの葉身。
若干の脈の凹みがありますが、オクマワラビのように明瞭ではありません。
ツクシイワヘゴの葉柄基部の鱗片。
光沢の無い黒褐色の鱗片で、先端部はやや淡色になります。
オクマワラビ
種名:オクマワラビ(Dryopteris uniformis, Dryopteridaceae)
解説:低地から山地まで広く分布する種
場所:福岡県の西部
確認日:2019.6.9
一般種のオクマワラビです。クマワラビと対になるような種で、ソーラスのつき方等が特徴的なため、シダの入門種とされています。アイノコクマワラビを初めて見つけた時は感動しました。笑
オクマワラビの葉身(実葉)。
クマワラビに比べるとややホッソリとした全体形状で、オクマワラビではソーラスがついた部分が萎縮しません。
オクマワラビの最下側羽片。
深裂〜複生(独立)します。
オクマワラビの葉身中部の側羽片。
オクマワラビの葉身。
葉脈は凹みます。クマワラビよりは浅めです。
オクマワラビのソーラスは、葉身の上半部(〜2/3程度)につきます。
オクマワラビのソーラスの位置は軸寄り〜中間程度、クマワラビ比では萎縮しません(ソーラスがついていない部分の葉身と同じ)。
オクマワラビの葉柄基部の鱗片。
ほとんどの個体は黒褐色ですが、クマワラビに近似するような褐色の鱗片の個体も稀に見られます。イワヘゴモドキに比べると鱗片は疎らにつきます。
オクマワラビの鱗片の拡大(おまけ)。
ウスバツクシワラビ
種名:ウスバツクシワラビ
(Diplazium × kanayamaense K. Hori & H. Kanemitsu., Athyriaceae)
解説:ウスバミヤマノコギリシダとヒカゲワラビの推定雑種
場所:福岡県の西部
確認日:2017.7.1, 2017.10.7, 2017.11.19, 2018.7.15, 2019.7.14
シダの会会報Vol.4 No.31(2019.4.1)で発表されたウスバツクシワラビです。
形態からウスバミヤマノコギリシダとヒカゲワラビの雑種と推定しています。実は2年ほど前から存在には気づいていて、冬枯れのフェノロジー等を地道に調べていました。
片親違いのセフリワラビ(ウスバミヤマノコギリシダ✕オニヒカゲワラビ、夏緑)やツクシワラビ(ホソバノコギリシダ✕ヒカゲワラビ、常緑)にやや類似しています。
特に、セフリワラビには類似しているように見えますが、同じくらいの規模の株ではウスバツクシワラビの方がより細かく切れ込みます。その他詳細な形態の相違点はシダの会会報を参照いただければと思いますが、ここでは写真を多めに解説。
ウスバミヤマノコギリシダが関係する既知の雑種の中では、最も華奢で繊細な形態の雑種だと思っています(主観)。
セフリワラビ↑
ツクシワラビ↑
以下、ウスバツクシワラビの形態写真を葉身頂部から順に掲載します。
上から順にウスバツクシワラビの葉身頂部、葉身中部の側羽片、最下側羽片。
比較用にセフリワラビの写真を以下同様に掲載します。
ウスバツクシワラビの方がより繊細で丸っこいです。
次はウスバツクシワラビのソーラスの様子を葉身頂部から順に掲載します。
上から順にウスバツクシワラビの葉身上部の側羽片のソーラス、葉身中部の側羽片のソーラス、最下側羽片のソーラス。
同様に、以下にセフリワラビのソーラスを。
ソーラスはどちらも軸よりにつきますが、ウスバツクシワラビの方がより辺縁との中間に位置する傾向がありそうです。
ウスバツクシワラビの側羽片基部の柄の様子。
セフリワラビの側羽片基部の柄の様子。
ウスバツクシワラビは無毛ですが、セフリワラビは多少とも毛を散生します。
サイズ感の比較。
左から、ダンドシダ、セフリワラビ、ウスバツクシワラビ。
いずれも片親をウスバミヤマノコギリシダとする雑種で、キヨタキシダとオニヒカゲワラビ、ヒカゲワラビの片親違いです。切れ込み方や裂片の先端形状等に違いが見て取れます。
ちなみにこれらは葉身長20cm程度の葉で、セフリワラビについてはかなり小型な状態。ウスバツクシワラビは、これくらいの大きさでも自生地では大きめのサイズです。
ワカナシダ
種名:ワカナシダ(Dryopteris kuratae Nakaike, Dryopteridaceae)
解説:裂片間の広さが特徴
場所:宮崎県
確認日:2019.5.25
久しぶりの更新となりました(ずっと仕事が忙しくて...笑)。
ちょっとマイナーなイワヘゴ類ですが、ワカナシダです。湿潤な小渓流沿いなどで見つかりました。
ワカナシダの葉身(ちょっと拡大しただけ)。
最大幅は中央よりは少し上にあるようです。
ワカナシダの葉身頂部。
葉身の頂部は矛状にはならず、緩やかに狭まります。
ワカナシダの側羽片(葉身中部)。
このシダの特徴はなんと言っても、この角ばった裂片と、裂片間の広い隙間です。
葉の色合いも黒ずんだ緑白色でツクシイワヘゴやキリシマイワヘゴからは明瞭に識別することができます。慣れれば遠目or小株でもひと目で識別できるほどです。
それと、ワカナシダでは脈がやや明瞭に凹むことも、この2種との相違点です。
ワカナシダのソーラスの様子。
もう一つ、わかりやすい特徴としては、ソーラスが他のイワヘゴ類と比べて小さいため写真のように細やかについているように見えること。ちなみにソーラスは軸よりで辺縁近くにまで広がります。
ワカナシダの葉身基部の様子。
最下側羽片は著しく短縮することはないようです。多少は下向きになります。
下部の側羽片基部の裂片は全裂(あるいは更に切れ込む)することもあります。
ワカナシダの葉柄上部の鱗片。
まばらな突起縁で、鱗片は濃(〜黒)褐色でした。
ワカナシダの葉柄基部の鱗片。
葉柄基部では鱗片が褐色〜濃褐色でした。
無融合生殖種ですが、この自生地では100株ほどが群生しており、オオスミイワヘゴ(ツクシイワヘゴとの雑種)も確認できました。