セフリワラビ
種名:セフリワラビ
(Diplazium deciduum N.Ohta et M.Takamiya x D. nipponicum Tagawa, Athyriaceae)
解説:ウスバミヤマノコギリシダとオニヒカゲワラビの雑種
場所:福岡県の西部
確認日:2017.7.1, 2017.8.5, 2017.9.18
福岡県の脊振山系のシダということでセフリワラビ。脊振山系では複数の場所で本雑種を確認しています。場所によっては一面に群生している場合も。
最大サイズはオニヒカゲよりは小さいですが、ウスバミヤマよりは大型になり、70cmくらいにはなるかな。
両親種が夏緑性であるため、本雑種も夏緑性であり11月末には葉が枯れ落ちます。
これが片親のウスバミヤマノコギリシダ。夏緑性。葉は柔らかい肉質的な感じで、標本にするとペラペラになります。
片親のオニヒカゲワラビ。夏緑性。有性生殖型と無融合生殖型のどちらが親種になったのかは知りません。
セフリワラビの印象としては、どちらかというとウスバミヤマの色が強いかなと思います。特に幼株の時や秋葉ではミヤマ系の雰囲気を強く感じます。
幼株のセフリワラビ。
秋葉のセフリワラビ(実葉)。
セフリワラビの最下側羽片。
ウスバミヤマの特徴から、小羽片基部は延着しており、また最下側羽片基部の小羽片は著しく短縮しています。
セフリワラビの葉身中部の側羽片。
深裂〜複生で、ウスバミヤマにしては深く切れ込み、またやや独立しかかっている感がありますね。
セフリワラビの葉身頂部はこんな感じ。
セフリワラビの最下側羽片のソーラス。
セフリワラビの葉身中部の側羽片のソーラス。
ウスバミヤマのソーラスが中間〜小羽軸寄り、オニヒカデのソーラスが小羽軸寄りであるため、セフリワラビのソーラスは小羽軸寄りにつきます。
脈は単状〜二又です。
オニヒカゲの特徴から、中軸や羽軸には短毛が生えます(散生〜やや密)。
以下参考までに両親種のソーラスなど。
オニヒカゲワラビのソーラス。
小羽軸・裂片の軸寄りにつき、各軸は有毛。
ウスバミヤマノコギリシダのソーラス。
やや軸よりについて、各軸は無毛。
セフリワラビの葉柄中部の鱗片。
セフリワラビの葉柄基部の鱗片。
葉柄中部〜基部の鱗片は褐色で、ごく基部と根茎の鱗片は黒褐色でした。
イズヤブソテツ
種名:イズヤブソテツ(Cyrtomium atropunctatum Sa.Kurata, Dryoteridaceae)
解説:並行的な羽片のヤブソテツ
場所:福岡県の西部、中部
確認日:2017.7.8, 2017.12.23
前のシダ植物図鑑では生体写真から特徴がわからず、ヒントの少ないヤブソテツでしたが、典型的なものではその他のヤブソテツ類と容易に識別できます。
県内での個体数は、他のヤブソテツに比べて少なく、稀な種だと思います。
イズヤブソテツの葉身頂部。
明瞭な頂羽片があります。葉色は黒っぽい緑色をしており、やや光沢があります。
葉の質感はかなりパキパキしており、硬いです。
イズヤブソテツの最下側羽片。
イズヤブソテツの中部の側羽片。
いずれも細長く、両側が側羽片中部過ぎまで並行的な幅をしており、上部で急に狭まります。
基脚はくさび形で90度くらい、羽軸の上側の方が下側に比べて幅広です。
ソーラスがついている部分は、表面に突出しますが、このような特徴はその他のヤブソテツ類でも見られるものであるため、この特徴のみをキーに本種と同定することはできません。
側羽片は細鋸歯縁でずが、テリハヤブソテツに比べるとかなり硬質な鋸歯で切れ込みが深いです。
イズヤブソテツのソーラスの様子。
全面に散在し、包膜は小さいです。
イズヤブソテツの包膜。
中心部は黒褐色で辺縁は波状縁でした(標準図鑑では突起縁とされているけど)。
葉柄基部の鱗片は濃褐色で、辺縁は淡色でした。
ナガバヤブソテツモドキ
種名:ナガバヤブソテツモドキ(クマモトヤブソテツ)
(Cyrtomium devexiscapulae (Koidz.) Ching × Cyrtomium laetevirens (Hiyama) Nakaike, Dryoteridaceae)
解説:ナガバヤブソテツとテリハヤブソテツの雑種。
場所:福岡県の東部、中部
確認日:2017.12.17, 2017.12.23
ナガバヤブソテツが群生し、テリハヤブソテツもやや多く生育している場所で見つけました。特徴が中間的なので、両種に目が慣れているとぱっと見で認識できると思います。
ナガバヤブソテツモドキの葉身頂部。
明瞭な頂羽片があることは当然ながら両親種と同じ。各部のフォルムはテリハに似ていますが、明らかに光沢が違いますね。
ナガバヤブソテツモドキの最下側羽片と中部の側羽片。
ナガバヤブソテツに比べるとややツヤ消しになっていることがわかります。基部の耳片は発達せず、円みを強く帯びています(オニヤブソテツの盛り上がり方的な)。
以下、ちょっと両親種載せます。
ナガバヤブソテツ(最下側羽片)
テリハヤブソテツ(側羽片)
という具合に、ナガバヤブソテツモドキでは葉色・光沢が両親種の中間になっています。
ナガバヤブソテツモドキの側羽片先端部。
ナガバヤブソテツの側羽片先端部。
テリハヤブソテツの側羽片先端部。
ナガバヤブソテツモドキでは、先端部の細鋸歯が両親種の中間(というよりナガバ寄り)で"ほぼ"全縁といった具合です。
ナガバヤブソテツモドキのソーラスの様子。
両親種と同様、全面に散在します。包膜の中心が黒くなるかどうかは、個体により程度が異なるようですが、一部が黒くなることがあるようです(ほぼ一面淡褐色の場合もあった)。
ナガバヤブソテツモドキの包膜
ナガバヤブソテツの包膜
テリハヤブソテツの包膜。
マムシヤブソテツとの差異はどこにあるのか、についてはまだ十分には把握できていません(まだ1株しか見たことない)。
が、差異は基本的に片親であるテリハヤブソテツと"ヤブソテツ類"の特徴の差であるものと考えています(無融合生殖種だから単純ではないんだとうけど)。
ホソバヤマヤブソテツ系のものが親であれば、葉がやや黒っぽくなるだろうし、ツヤナシヤブソテツ系のものが親であれば側羽片が幅広くなるかな?
あとは側羽片基部の耳片が多少とも出てくると思います。
ナガバヤブソテツモドキ自体には、かなりテリハヤブソテツ感があるので、生葉であれば気づけると思います。
ナガバヤブソテツ
種名:ナガバヤブソテツ(Cyrtomium devexiscapulae (Koidz.) Ching, Dryoteridaceae)
解説:有性生殖をするヤブソテツ類
場所:福岡県の東部
確認日:2017.12.17
石灰岩地では比較的多いですが、低山ではそこそこ見つかると思います。
オニヤブソテツ系の種で、成熟したような個体はオニヤブソテツと容易に見分けられますが、幼株だとちょっと微妙です。
有性生殖種であり、その他無融合生殖種のヤブソテツ類とも雑種を作ります。
ナガバヤブソテツの葉身頂部。
指が邪魔でした。各羽片は混み合ってつかず、ほっそりとしています。
葉色はやや明るい緑色で、光沢は強いです(テリハヤブソテツよりも)。
テリハヤブソテツの最下側羽片。
テリハヤブソテツの中部の側羽片。
側羽片は細長い形状をしており、基部に耳片は発達しません。
オニヤブソテツのように基部上側が盛り上がることもありません。
辺縁はやや波状縁で、切れ込みが深いこともしばしばあります。
テリハヤブソテツの側羽片の頂部。
側羽片中部は波状縁であったりますが、先端にかけては全縁です。
テリハヤブソテツのソーラスと包膜の様子。
ソーラスは裏の全面に散在します。
包膜は全縁で、中心部が(というよりほぼ全面が)黒褐色です。
鱗片撮り忘れました。笑
テリハヤブソテツ
種名:テリハヤブソテツ(Cyrtomium laetevirens (Hiyama) Nakaike, Dryoteridaceae)
解説:ヤブソテツ類では識別が容易な種
場所:福岡県の中部
確認日:2017.12.23
県内では山に入れば普通に見つかるヤブソテツ類がこのテリハヤブソテツ。
テリハと言うだけあって光沢のある種ですが、光沢のあるタイプのミヤコヤブソテツやヒロハヤブソテツに比べると光沢は少ないです。
テリハも無融合生殖種ですが、それぞれに中間型のある"ヤブソテツ類"や、光沢の有無に変異のあるミヤコヤブソテツに比べると、形質の変異は少ないように思います。
テリハヤブソテツの葉身頂部。
明瞭な頂羽片があります。カメラのフラッシュでわかりにくいですが、葉色はやや黒っぽい緑色をしていることが多いです。
テリハヤブソテツの側羽片。
やや鎌状に曲がることが多いです。辺縁は全体に細鋸歯縁です。
テリハでは側羽片基部に耳片が発達しないことがほとんどです。
テリハヤブソテツの側羽片の先端部。
辺縁は先端部まで細鋸歯状です。オニヤブソテツ系との識別点になる特徴。
テリハヤブソテツのソーラスと包膜の様子。
ソーラスは葉の裏面全体に散在します。包膜は灰白色...というよりは淡褐色で全縁、中心部は黒くなりません。また、"ヤブソテツ類"のうち、ホソバヤマヤブソテツに比べると明らかに包膜は大きいと思います。
テリハヤブソテツの鱗片の様子。