しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

タカサゴシダモドキ

種名:タカサゴシダモドキ(Dryopteris sp?, Dryopteridaceae)

解説:タカサゴシダと混同されやすい種(?)。

場所:福岡県の西部。

確認日:2017.10.14

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かつてシダ植物分類の大御所の方々が訪れた谷をようやく(自力で)突き止め、出会うことができました。

タカサゴシダに類似していますが、やや異なる形態をしています。

恐らくタカサゴシダと同定されている型の多くは、このモドキの型ではないでしょうか。

 

ちなみにタカサゴシダはこちら:

http://shidasagashi.hatenablog.com/entry/2017/10/15/225017

タカサゴの葉身全体

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以下、タカサゴシダモドキとタカサゴシダを比較してみます。

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↑モドキ最下側羽片の様子。

伸張しますが、その程度は様々で、タカサゴに近しい程度からヒロハトウゴクシダ程度まで変異があります。羽片の柄はタカサゴより短く、最下小羽片がかなり近接しているように見えます。

また、最下外側小羽片はタカサゴのように斜上せず、羽片の軸に直角についています。

タカサゴの最下羽片。

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↑モドキ中部の側羽片の様子。

羽片の柄はやはり短いです。

また、タカサゴの側羽片の幅はなだらかに狭まるのに対し、モドキの側羽片の幅は羽片の中部まで平行してそのあと狭まるような違いもありそうです。

タカサゴ中部の側羽片の様子。

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↑モドキの葉身頂部の様子。

やや穂状にまとまっております。タカサゴのように急に短縮することはあまりありませんでした。

 

タカサゴの葉身頂部

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急に短縮します。

 

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↑モドキのソーラスの様子。

タカサゴと同じく中間性で、各軸の裏には黒褐色の鱗片がやや密生しています。

 

 

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↑モドキの鱗片の様子。

(やや黒褐色〜)濃褐色〜褐色で(狭)披針形です。

タカサゴのように幅広いものは混じらず、またやや膜質な感じもありませんでした。

タカサゴシダの鱗片(写真だとわかりにくかった)。

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やや近しいものに"ヒロハトウゴクシダ"がいますが、葉身の光沢や小羽片の形態等で一応は明確に識別できるものです。

恐らく無融合生殖種なのではちゃめちゃな感はあると思いますが、タカサゴシダとタカサゴシダモドキは1/2〜3/4くらいは同じような気がしています。

逆に言えば1/2〜1/4は別物が混じっていると思っています。

また、タカサゴシダとトウゴクシダの中間と言われていますが、かかっているものはトウゴクシダではない別物だと考えています(憶測ですが形態はトウゴクとの中間からずれている気がしている)。

 

タカサゴシダ

種名:タカサゴシダ(Dryopteris formosana (Christ) C.Chr., Dryopteridaceae)

解説:伸張する最下外側小羽片が特徴の種。

場所:福岡県の西部。

確認日:2015.8.10, 2017.10.1, 2018.6.24(追記)

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(2018.6.24追記分)

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県内には2ヶ所に産地があるとされていますが、そのうち"典型的な"タカサゴシダが確認できるのはここ1ヶ所のみです。もう片方の産地に分布するのは、やや類似するタカサゴシダモドキとされる型です。

筒井さんがおっしゃっていた通り、ここの型がいわゆるタカサゴシダだと私も考えています。

 

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よく称される五角形の葉身ですが、裸葉の時に顕著な形のようです。

最下羽片の外側第一小羽片のみでなく、第二小羽片以降もやや伸張するので羽片が幅広いこと、頂部が急に狭まることからくる形状です。

 

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タカサゴの最下羽片の様子(2枚)。

最下羽片の外側第一小羽片は著しく伸張します。

以下、タカサゴシダモドキと比べてみます。

 

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タカサゴシダモドキの最下羽片の様子。

タカサゴシダでは側羽片の柄がやや長く、モドキでは柄が短く詰まっているような違いがあります。また、モドキでは小羽片がやや幅広いため、小羽片のつく間隔がやや広く見えるかと思います。

 

 

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タカサゴシダの中部側羽片。

 

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タカサゴシダモドキの中部側羽片。

やはりタカサゴシダの方がモドキよりも柄が長いようです。モドキの小羽片はやや丸っこいですかね。

また、大型のタカサゴシダでは中部の側羽片でも最下外側小羽片が伸張する傾向がありそうです。

 

 

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タカサゴシダの葉身頂部。

 

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タカサゴシダモドキの葉身頂部。

モドキではやや穂状にまとまるのに対し、タカサゴシダでは急に狭まっています。

 

 

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タカサゴシダのソーラスの様子。

中間性です。ちなみに各軸の背軸側には黒色の鱗片がやや密生しています。

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タカサゴシダのソーラスの様子(2018.6.24追記)。

包膜は白色で、淡紅色になることはありません。 

 

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鱗片の様子。

黒褐色〜濃褐色で、披針形に広披針形のものが混じります。

モドキやヒロハトウゴクに比べて、やや幅広く、若干膜質な感じがあります。

 

あと一応タカサゴシダモドキはこんな。

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以上のように、タカサゴシダとタカサゴシダモドキには明確に区別できる特徴がありそうです。まあ多分どちらも無融合生殖なので、いくらか変異はあると思われます。

少なくともモドキの方にもやや変異がありそうなので、この2型の実体は異なると考えるのが妥当かなと考えます。ちなみにネットで検索してでてきたタカサゴシダのほとんどはモドキの型であって、タカサゴシダの型ではなさそうでした。

 

オトコシダ

種名:オトコシダ(Arachniodes yoshinagae (Makino) Ching, Dryopteridaceae)

解説:男シダ、漢シダ?

場所:福岡県の西部、湿潤な斜面。

確認日:2017.10.7

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たまには普通の種も紹介します。羽状複葉のカナワラビ、オトコシダです。

ベニシダ類でいうナチクジャク的な部類です(見た目が)。

 

2年前シダを始めたばかりの時は、岩についていた10cmくらいの本種を初めて見つけて感激したものです。

そういえば先日はシダの例会にちょこっと参加させていただいて、また新しい繋がりを作ることができてワクワクしているところです。これから時間をかけて、シダのより深い世界を見ていきたいですね。

 

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私がこれまで見てきた中では、福岡県内の中部と西部に本種のまとまった群生地があります。西部で確認した2箇所は状態の良い大株が多数生育していますが、ここでは特に立派な個体が見られました。

中程度のサイズまでだと、本種は単羽状複葉の個体が多いのですが、葉身の伸張により下部の側羽片が羽状深裂〜全裂したりします。

 

 

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深裂している最下側羽片。

 

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真ん中くらいの側羽片。

 

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葉身頂部。

 

以上のように、葉面の光沢がとても美しく、フォルムもかっこいい種です。

オオカナワラビやホソバカナワラビのようにまとまった頂羽片は形成しません。

 

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最下羽片のソーラスの様子。

 

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中部の側羽片のソーラスの様子。

ソーラスは軸と辺縁の中間についています。

 

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鱗片は褐色でした。

アオグキイヌワラビ

種名:アオグキイヌワラビ(Athyrium viridescentipes Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:青茎(緑)のイヌワラビ。

場所:福岡県の西部、渓流沿い。

確認日:2017.9.30, 2018.6.24(更新)

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(2018.6.24に撮影分)

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来年くらいに探しにいこうかと思っていましたが、不意に見つけてしまいました。

青茎という識別しやすそうな特徴を持っている種です。

初見では一瞬タニイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種(ハツキイヌワラビ)...?と思ってしまったくらい、葉面が白っぽくて鋸歯が気になる風貌のシダでした。

タニイヌワラビ似の種と筒井さんが記述したのも納得です。

 

(参考になる生体写真が少ないので、やや半信半疑ではあります。)

胞子を確認したところ、前葉体が正常に発育していたため、 これは雑種等ではなくアオグキイヌワラビ(2017.12.21追記)。

 

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最下羽片付近の軸の様子。葉柄〜葉軸中部までは淡緑色をしています。タニイヌのように最下羽片の最下外側小羽片は短縮します。

 

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ちょっと上にいって葉軸中部。

葉軸が淡緑色であるのに対し、羽軸はいきなり淡紫色となる変わりよう。

ちなみにソーラスは長楕円形で、軸に接するようにつき、タニイヌのように鉤形になることはありませんでした。

 

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葉軸の上から1/3くらいのところで、葉軸は淡紫色となります。

 

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最上部では淡紫色です。

という具合で、軸の先端側が淡紫色となる傾向があるようです。筒井さんの本によれば、シーズン終盤の葉だと軸が全部淡紫色になる個体もいるようで。

 

いつもと順番が逆になってしまいましたが、羽片等の特徴は次の通り。

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アオグキの下部の側羽片。小羽片はツヤ消しで鋸歯縁です。

小羽片基部の耳片は発達。

 

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アオグキの小羽片の拡大。軸の向軸側は小羽片の付け根とかが有毛。

 

一応、比較のためにタニイヌとサキモリとか貼ってみます。

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タニイヌワラビの最下側羽片。

 

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キモリイヌワラビの最下側羽片。

 

アオグキの小羽片は両種に比べてより鈍頭で、鋸歯が低平?になっています。小羽片基部上側の耳片はサキモリより鋭頭です。ツヤ消し感はサキモリと同じか、より強いように感じました。

 

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アオグキの小羽片の拡大その2。

青茎となるイヌワラビ類だと、福岡県にいるものはホウライ、ホソバ、トガリバ、トゲカラクサ(全面ではない)がぱっと思いつきますが、いずれも小羽軸上に顕著な突起を生じる種です(ミドリヒロハ除く)。

写真のように、アオグキの小羽軸上には突起がありません。ちなみに羽軸上にはイヌワラビ類によく見られるあの突起があります。

 

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アオグキイヌワラビの新葉(2018.6.24追記)

新葉の様子を確認してきました。タニイヌワラビと同じで若い時は白い色をしています(今年も健全に生育しているようでよかった)。 

 

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アオグキの鱗片。

ヒロハよりは少し幅広いくらいの細長い鱗片をしています。

色は鱗片の基部で濃褐色、鱗片の上部で褐色です。

葉柄は基部まで青茎でした。

 

ツクシイヌワラビとの雑種であるオオアオグキイヌワラビもどこかにいるはずなのですが、こちらはまた今度探してみることにします。ツクシと混じると光沢が少しでるかな?

 

キヨズミイノデ

種名:キヨズミイノデ

(Polystichum x kiyozumianum Sa.Kurata, Dryopteridaceae)

解説:イノデモドキとサイゴクイノデの雑種。

場所:福岡県西部

確認日:2017.8.5、2017.9.18

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オンガタに続きキヨズミイノデ。こちらはツヤナシイノデではなく、イノデモドキがかかっています。ちなみにシダはほぼ独学なので間違ってたらご指摘ください。

今回も親種と対比しながら掲載していきます。

 

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イノデモドキ。

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サイゴクイノデ。

 

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モドキといえば、カヌー型とか呼ばれる先端部が特徴ですが、サイゴクが混じっている分、あまり尾状にはなっていません。

サイゴクに比べると明らかに光沢が強いですが、モドキよりは光沢が弱いです。

 

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キヨズミの側羽片。

 

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左がキヨズミ、右がモドキ。

キヨズミではモドキに比べて、ややツヤ消しになっていることがわかります。

 

 

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キヨズミのソーラス(2枚)

 

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モドキのソーラス。

 

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サイゴクのソーラス。

 

モドキもサイゴクも辺縁寄りなので、キヨズミも辺縁寄りです。

また、両親種同様に、ソーラスが少ない時は小羽片の基部上側からつきます。

 

そして葉柄の鱗片。

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キヨズミの葉柄上部、中部、下部別に。

 

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モドキの鱗片。

 

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サイゴクの鱗片。

 

鱗片の特徴としては

モドキ:やや広い披針形、辺縁は著しく毛状、淡褐色

サイゴク:細めの披針形、突起縁、中央が黒褐色で辺縁は淡褐色

ということで、雑種のキヨズミには両種の特徴が反映されています。

この個体は葉柄のかなり上部の鱗片でも中央が黒褐色になっていました。

 

ちなみに、イノデモドキにも葉柄の鱗片の中央部が黒褐色になるタイプの個体がいるため、鱗片の特徴だけでキヨズミイノデであると断定することはできません。

ソーラスのつく位置もほぼ同じか両親種の変異の範囲にあるはずなので、同定には葉の光沢や葉身の形状を確認することがポイントでしょうね。

掲載したように発育状態の良いものであれば、ぱっと見で違和感に気づけるかと思います。