アオグキイヌワラビ
種名:アオグキイヌワラビ(Athyrium viridescentipes Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:青茎(緑)のイヌワラビ。
場所:福岡県の西部、渓流沿い。
確認日:2017.9.30, 2018.6.24(更新)
(2018.6.24に撮影分)
来年くらいに探しにいこうかと思っていましたが、不意に見つけてしまいました。
青茎という識別しやすそうな特徴を持っている種です。
初見では一瞬タニイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種(ハツキイヌワラビ)...?と思ってしまったくらい、葉面が白っぽくて鋸歯が気になる風貌のシダでした。
タニイヌワラビ似の種と筒井さんが記述したのも納得です。
(参考になる生体写真が少ないので、やや半信半疑ではあります。)
胞子を確認したところ、前葉体が正常に発育していたため、 これは雑種等ではなくアオグキイヌワラビ(2017.12.21追記)。
最下羽片付近の軸の様子。葉柄〜葉軸中部までは淡緑色をしています。タニイヌのように最下羽片の最下外側小羽片は短縮します。
ちょっと上にいって葉軸中部。
葉軸が淡緑色であるのに対し、羽軸はいきなり淡紫色となる変わりよう。
ちなみにソーラスは長楕円形で、軸に接するようにつき、タニイヌのように鉤形になることはありませんでした。
葉軸の上から1/3くらいのところで、葉軸は淡紫色となります。
最上部では淡紫色です。
という具合で、軸の先端側が淡紫色となる傾向があるようです。筒井さんの本によれば、シーズン終盤の葉だと軸が全部淡紫色になる個体もいるようで。
いつもと順番が逆になってしまいましたが、羽片等の特徴は次の通り。
アオグキの下部の側羽片。小羽片はツヤ消しで鋸歯縁です。
小羽片基部の耳片は発達。
アオグキの小羽片の拡大。軸の向軸側は小羽片の付け根とかが有毛。
一応、比較のためにタニイヌとサキモリとか貼ってみます。
タニイヌワラビの最下側羽片。
サキモリイヌワラビの最下側羽片。
アオグキの小羽片は両種に比べてより鈍頭で、鋸歯が低平?になっています。小羽片基部上側の耳片はサキモリより鋭頭です。ツヤ消し感はサキモリと同じか、より強いように感じました。
アオグキの小羽片の拡大その2。
青茎となるイヌワラビ類だと、福岡県にいるものはホウライ、ホソバ、トガリバ、トゲカラクサ(全面ではない)がぱっと思いつきますが、いずれも小羽軸上に顕著な突起を生じる種です(ミドリヒロハ除く)。
写真のように、アオグキの小羽軸上には突起がありません。ちなみに羽軸上にはイヌワラビ類によく見られるあの突起があります。
アオグキイヌワラビの新葉(2018.6.24追記)
新葉の様子を確認してきました。タニイヌワラビと同じで若い時は白い色をしています(今年も健全に生育しているようでよかった)。
アオグキの鱗片。
ヒロハよりは少し幅広いくらいの細長い鱗片をしています。
色は鱗片の基部で濃褐色、鱗片の上部で褐色です。
葉柄は基部まで青茎でした。
ツクシイヌワラビとの雑種であるオオアオグキイヌワラビもどこかにいるはずなのですが、こちらはまた今度探してみることにします。ツクシと混じると光沢が少しでるかな?
キヨズミイノデ
種名:キヨズミイノデ
(Polystichum x kiyozumianum Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:イノデモドキとサイゴクイノデの雑種。
場所:福岡県西部
確認日:2017.8.5、2017.9.18
オンガタに続きキヨズミイノデ。こちらはツヤナシイノデではなく、イノデモドキがかかっています。ちなみにシダはほぼ独学なので間違ってたらご指摘ください。
今回も親種と対比しながら掲載していきます。
イノデモドキ。
サイゴクイノデ。
モドキといえば、カヌー型とか呼ばれる先端部が特徴ですが、サイゴクが混じっている分、あまり尾状にはなっていません。
サイゴクに比べると明らかに光沢が強いですが、モドキよりは光沢が弱いです。
キヨズミの側羽片。
左がキヨズミ、右がモドキ。
キヨズミではモドキに比べて、ややツヤ消しになっていることがわかります。
キヨズミのソーラス(2枚)
モドキのソーラス。
サイゴクのソーラス。
モドキもサイゴクも辺縁寄りなので、キヨズミも辺縁寄りです。
また、両親種同様に、ソーラスが少ない時は小羽片の基部上側からつきます。
そして葉柄の鱗片。
キヨズミの葉柄上部、中部、下部別に。
モドキの鱗片。
サイゴクの鱗片。
鱗片の特徴としては
モドキ:やや広い披針形、辺縁は著しく毛状、淡褐色
サイゴク:細めの披針形、突起縁、中央が黒褐色で辺縁は淡褐色
ということで、雑種のキヨズミには両種の特徴が反映されています。
この個体は葉柄のかなり上部の鱗片でも中央が黒褐色になっていました。
ちなみに、イノデモドキにも葉柄の鱗片の中央部が黒褐色になるタイプの個体がいるため、鱗片の特徴だけでキヨズミイノデであると断定することはできません。
ソーラスのつく位置もほぼ同じか両親種の変異の範囲にあるはずなので、同定には葉の光沢や葉身の形状を確認することがポイントでしょうね。
掲載したように発育状態の良いものであれば、ぱっと見で違和感に気づけるかと思います。
オンガタイノデ
種名:オンガタイノデ
(Polystichum x ongataense Sa.Kurata, Dryopteridaceae)
解説:ツヤナシイノデとサイゴクイノデの雑種。
場所:福岡県南部
確認日:2017.6.10
久しぶりの更新となりました(仕事が忙しい時期になってきた)。
そう言えば、記載論文(国外のシダ)がWebで公開されたので、これで自信を持ってシダ植物屋ですと言えるようになりました。笑
最近は熊本のシダ植物屋な方々とも知り合いになれて楽しくなってきたところです。
とまあ、今回はツヤナシとサイゴクの雑種を、両親種と対比しながら掲載します。
上の写真はオンガタイノデ。
ツヤナシイノデ。
サイゴクイノデ。
ツヤナシの葉身はやや幅広で上部の最大幅が目立つ感じ、サイゴクは細身の葉身(写真のはまだ子株)で、オンガタではツヤナシが少し細身になった具合です。
オンガタの側羽片。
ツヤナシの側羽片
サイゴクの側羽片。
表面の光沢の強さは、ツヤナシ > オンガタ > サイゴク。
ツヤナシで顕著な小羽片の重なりは、オンガタではやや緩くなっています。
正に中間的といった感じです。
てかツヤナシってツヤあるよね。イノデとかモドキには全然及ばないけど。
オンガタのソーラスの様子(2枚)。
サイゴクのソーラスの様子。
ツヤナシのソーラスの様子。
サイゴクのソーラスは辺縁寄りで、少ないときは小羽片の基部上側にやや優先してつきます。そして軸の鱗片は細く少なめ。
ツヤナシのソーラスは中間で、葉身の上半分につく。軸の鱗片は卵形で密につく。
オンガタのソーラスはサイゴクよりは内側の辺縁寄り。少ない時のつき方はサイゴクに同じで、ソーラスは葉身の一面につく。鱗片はやや幅広いです。
オンガタの基部鱗片。
ツヤナシの基部鱗片。
サイゴクの基部鱗片。
ツヤナシの鱗片は、一面淡褐色で、卵形(たまに披針形も混じる)です。
サイゴクの鱗片は、中央部が黒褐色で辺縁は淡褐色、披針形(長楕円状の)です。
オンガタの鱗片は、広披針形とか狭卵形といった具合で、ほとんどの鱗片の中央部が黒褐色です。
という具合にいろいろな特徴が中間的で識別しやすい雑種でした。
ツクシワラビ
種名:ツクシワラビ
(Diplazium × tsukushiense K.Hori & H.Kanemitsu, Athyriaceae)
解説:ホソバノコギリシダとヒカゲワラビの雑種。
場所:福岡県西部
確認日:2017.8.26
国内でおそらくここだけ(筑紫)の雑種、ツクシワラビを探してきました。
ホソバノコギリシダとヒカゲワラビが混じるのかよ!とダンドシダ並に驚きの雑種です。筒井さんが図鑑に記述されていた通り、葉形や葉質は多様で、上の写真に掲載したように様々な特徴を示す個体・葉が確認できました。
最初の2枚の葉は今春展葉したと思われる葉で、最後の葉は最近(夏)展葉したと思われる葉です。葉質が全く異なりますね(どっちも実葉)。
親種も載せときます。
ヒカゲワラビ(3回羽状複葉)
ホソバノコギリシダ(羽状複葉)
ここからはツクシワラビの特徴を載せます。
最下羽片の様子(肉厚の葉)。小羽片が独立しかかっています。ホソバノコギリのようにやや革質で、軸に対して直角に並ぶ様子は、その側羽片をイメージさせます。一方小羽片の鋸歯の様子はややヒカゲワラビに似た感じがします。
軸上にはやや微毛(腺毛?)があり、これはホソバノコギリの特徴かな。
ちなみに夏葉だとこんな感じで、前の春葉と比べると明らかに薄く辺縁がやや反り返る様子もありません。でもヒカゲワラビに比べると厚く、草質と紙質くらいの違いです。
ツクシワラビ最下羽片のソーラスの様子(春葉)。
以下のホソバノコギリのソーラスに似ています。
ホソバノコギリシダの側羽片。
ツクシワラビ夏葉の側羽片ソーラス。
以下のヒカゲワラビのソーラスに似ています。
ヒカゲワラビの側羽片。
ツクシワラビではヒカゲワラビよりも軸と辺縁の中間に配列するようです。
ツクシワラビの鱗片は基部で黒色、上部にかけて濃褐色でした。
春葉と夏葉は便宜的にそう呼んだだけですので悪しからず。
ただ、異なる形態の葉を同一個体が出しているのは確かなようです。もちろん個体によってややホソバノコギリ寄りだったり、ヒカゲワラビ寄りだったりもするようです。が、両親種とは明らかに異なる形態を備えており、一見で識別することができます。
ナガエイヌワラビ ✕ ホソバイヌワラビ
種名:アイトガリバイヌワラビ
⇒ナガエイヌワラビ ✕ ホソバイヌワラビ(H30.10.8訂正)
(Athyrium iseanum var. iseanum× A. iseanum var.angustisectum, Athyriaceae)
解説:ナガエイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種。
場所:福岡県西部
確認日:2017.7.8
ホソバイヌワラビとナガエイヌワラビを載せたらこいつも載せねばと。
ナガエイヌワラビのようにやや尾状感がありますが、羽片や小羽片、葉身が細身であること等にホソバイヌワラビの特徴が見受けられます。
最下羽片の様子(ピンボケすみません)。
雑種の葉身中部の側羽片の様子。
以下のホソバイヌワラビ(2個体)とナガエイヌワラビと比較してみます。
ホソバ葉身中部の側羽片(裂片の間隔がやや広いタイプ)。
典型的?なホソバの最下羽片も一応。
ナガエイヌワラビ葉身中部の側羽片(小羽片)。
雑種では、小羽片がホソバに比べて三角状にやや幅広くなり、裂片の切れ込みもちょっとだけ深めです。また、ホソバよりは切れ込もうとしている感じがあります。
各軸はやっぱり多毛で、ソーラスも鉤形が多いです。
鱗片も一応掲載しますが、ホソバとナガエイヌワラビの特徴がどう現れているのかまだ認識できておりません。
違いが微妙と思われた方もいるかと思いますが、実際に微妙で、幼株だと識別できる自信はあまりありません。
掲載した個体のように、ホソバ的でありながら、小羽片はやや幅広で、羽片がナガエイヌワラビ的に尾状である場合ですと、現地でもピンときます(胞子は不定形でした)。
小羽片の切れ込み方は、しばしば迷いますが、ナガエイヌワラビではだいたい基部の裂片は独立するくらいに切れ込んでいると思うので、ポイントの1つになるのかなと。
でもまぁ、1つの形質に拘るよりも、葉身の形状+羽片の尾状度+小羽片の形態(+胞子)を総合的に判断するのが一番良いのかなと思いますね。