しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ダンドシダ(ウスバミヤマ×キヨタキ)

種名:ダンドシダ(Diplazium x toriianum Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:ウスバミヤマノコギリシダとキヨタキシダの雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿いの湿った林床。

確認日:2017.7.3

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全体の様子。

マイナー過ぎて情報は少ないですが、一目でこいつがダンドシダだと認識できる程に特徴的な雑種です。Diplaziumにこんなのもいるのかとちょっと感激なシダでした。

 

 

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最下羽片はこんな感じ。

ウスバミヤマもキヨタキも落葉なので、ダンドも同じように落葉です。

両種とは明らかに異なる外観ですが、やや鎌状で長三角状の裂片はウスバミヤマ、裂片がやや独立し、辺縁の円みのあるガタガタした鋸歯にキヨタキの特徴があるように思います。

 

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裏面の様子。ほぼ無毛で、側脈の分岐に不器用さを感じます。

ソーラスをつけていないように見えますが、これが福岡のダンドシダの特徴です。

 

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裂片の辺縁と軸の中間にやや膨らんだ部分があり、ここに未発達な包膜をつけています。

現地ではソーラスをつけてる葉が無いことが不思議で周辺の全個体の葉をひっくり返して周りましたが、やっぱり全部つけてはいなかった。

帰ってから調べ直している時、筒井さんの本の記述に「福岡の個体は不定形の胞子も形成しない」とあることに気づき、納得しました。

筒井さんも昔、ここで同じ疑問を抱いていたのかな〜とか思ったり。

 

 

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ちょっと贅沢なことをして同じ大きさの親種と比較してみました。

左からキヨタキ、ダンドシダ、ウスバミヤマ

追記:右端のは恐らくミヤマノコギリシダとウスバミヤマの雑種。

あ〜なるほど、となりますが、素人目に見れば別種のような印象を抱くかもしれませんね。

 

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このような感じに葉を1対つけている個体が多かったです。

 

不定形の胞子も形成しないとは言われているものの、他の地域に分布するものは胞子嚢が成熟するようなので、もっとよく調べると胞子を形成している個体もいるかもしれません。

でも、そもそもそんな地域の個体とは生じたイベント自体が異なるはずで、福岡では胞子を形成できない特徴を持つ個体が1度だけ生じ、それが根茎の伸張・断裂・拡散で増殖しているのかもしれませんね(妄想)。

 

ヤマグチカナワラビ(オオカナ×ミドリカナ)とオオカナの比較

種名:ヤマグチカナワラビ(Arachniodes x subamabilis Sa.Kurata, Dryopteridaceae)

解説:オオカナワラビとミドリカナワラビの雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿いの杉植林的な雑木林。

確認日:2017.7.16

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オオカナでありながらミドリカナの特徴を併せ持つ個体です。かっこいいですね。

以下のオオカナと比べると違いは一目瞭然です。

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ちなみにこの個体は最下羽片外側の小辺がやや発達していますが、オオカナでも片方の羽片に2本伸張するのはむしろザラで、テンリュウとの有効な識別点にはならないのではと考えています。

胞子を確認するのが当然最も有効ですが、オオカナ自体も生育環境により変化しますしテンリュウカナモドキもありえますので、葉身に対する超羽片長の比率・葉質・小羽片の切れ込み、根茎の這い具合を総合的に判断しなければ識別は難しいようです。

(センスが鋭ければわかるのかも?)

 

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雑種強勢を発動されていらっしゃるようで、ここに生育する一番の大株では葉身のみで約80cm程にもなり圧巻です。最下羽片外側の小羽片も複数伸張しています。

 

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羽片に整然と並列する台形の小羽片にオオカナの特徴は見て取れますが、識別点の1つは頂羽片。

オオカナでは側羽片と同じように基部が狭まり独立した羽片がありますが、ヤマグチではミドリの影響を受けて羽片の基部はまとまらず、基部は緩やかに広がります。

ちなみにオオカナだと下の画像のような感じ。葉質も違いますね。

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写真逆にすればよかった。オオカナの羽片がまとまるというのはこんな感じです。

 

 

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側羽片もオオカナのように並行するのではなく、むしろ狭い三角状に狭まります。

基部以外の小羽片も切れ込みが深く、ミドリの影響が見られます。

もちろんここまで顕著な特徴が現れているのは、この個体が大株であるからで、子株の個体だと小羽片は切れ込まないし、ほとんど三角状にもならない。

 

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この子株の2個体はどちらもヤマグチ。でもまあ、オオカナに比べて鮮緑色で葉質が薄く、やはり羽片のまとまりが弱い点はここでもはっきりしており識別することはできそうです。

この自生地ではオオカナはむしろ少なく、ミドリは1個体しか確認しておらず、ほとんどの個体がヤマグチでした。

 

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裏面の様子。オオナカの小羽片よりもやや長く鋭頭です。またより深く切れ込むために、ソーラスが辺縁と軸の中間にまで及んでいます。

ちなみにオオカナのソーラスは下の画像のようにつく。

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オオカナのソーラスはしっかり辺縁より。切れ込みも浅く、小羽片は鈍頭です。

ただ、小羽片の形状はオオカナ自体でもある程度変異があるので要注意です。

 

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最近は屋外でもコンデジでここまでの画像が撮れます。凄いですね。

ヤマグチはミドリの影響で裏面は多毛。包膜の辺縁は両親とも突起がでるため、しっかり毛状を呈しています。

ムラサキオトメイヌワラビ(ホウライ×ツクシ)

種名:ムラサキオトメイヌワラビ

(Athyrium x purpurascens (Tagawa) Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:ホウライイヌワラビとツクシイヌワラビの雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿い。

確認日:2018.8.5, 2017.7.15(写真追加2018.8.5)

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きらびやかな名称は、親種のホウライイヌワラビの別名がオトメイヌワラビで、軸が紫色に染まるため。

質感はツクシ似で、羽片や頂部が鋭端(しゃきっとした感)になっている点などはホウライ似です。

 

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羽片等の拡大図。小羽片は明瞭な鋸歯縁で、葉軸の上半分は淡紫色です。

 

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小羽軸上には顕著な突起が散在し、ホウライ的な特徴が現れています。

 

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裏面の様子。ソーラスは中軸寄り、ツクシ的なつき方をしています。

 

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鱗片の様子。両種の特徴が反映され、褐色(ツクシ)のものが多く、黒褐色(ホウライ)のものが混じります。

 

参考までに、以下にツクシイヌワラビとホウライイヌワラビを載せときます。

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ツクシイヌワラビ(同じ地点の個体)。これは沢沿いの斜面に生えるタイプの葉形で、林床に生える個体は小羽片がより小さくまとまり、羽軸に延着する傾向が無くなったりします。

 

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ツクシイヌワラビの羽片(下から2対目)。ムラサキオトメに比べて、小羽片の鋸歯は弱く、葉軸は全て淡紫色であることがわかります。

 

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ホウライイヌワラビ(同じ地点の個体)。

自生地での個体数は多いけど分布は局所的な変わり者。

 

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ホウライイヌワラビの羽片(真ん中くらい)の様子。小羽片は中裂程度で、裂片の鋸歯が明瞭であること、葉軸は全て黄緑色であることがわかります。

 

 

 

ユノツルイヌワラビ

 

種名:ユノツルイヌワラビ(Athyrium x kidoanum Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:ホソバイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種。
場所:福岡県の西部、杉植林内の沢沿いにて。
 確認日:2017.7.8, 2020.7.19(2021.1.31更新)

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全体の様子。質感にはヒロハ感がしっかり現れており、これもぱっと見で組み合わせが思い浮かぶような雑種でした。

(ヒロハ感=ややツヤのあるカラクサイヌワラビよりもぼってりとした質感)

葉身は丸っこいタイプのヒロハを少し引き伸ばしたような卵形です。

 

 

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↑ユノツルイヌワラビの最下側羽片。

側羽片の柄が長いヒロハイヌワラビと、側羽片の柄がやや長いホソバイヌワラビの雑種のため、柄は長いです。小羽片がやや三角状な点はヒロハイヌワラビ的な特徴です。

 

 

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↑ユノツルイヌワラビの葉身中部の側羽片。

最下小羽片以外の小羽片はやや切れ込む程度、また裂片にも浅い鋸歯が確認でき、ヒロハやホソバそのものとは明らかに異なります。
もちろんカラクサとも異なり、ヒサツイヌワラビに比べても切れ込みは明らかに浅く、鋸歯も弱いです。葉の質感はヒロハに似たものがあります。軸は多毛です。

 

 

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ユノツルイヌワラビの葉身頂部。
 ホソバに比べてやや頂部がまとまる場合と、写真のようにややなだらかに狭まる場合があります(同一個体でもブレる)。

 

 

 

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ユノツルイヌワラビの小羽軸上の突起。
ホソバが混じっているので、小羽軸上には顕著な突起が生じます。
写真の通り、小羽片、葉によって突起の量にはばらつきがありました。


ちなみに、雑種の個体では両親種のどちらが母方になるのかで特徴に違いがあると聞いたことがありますが、それ以前に同一個体においても葉によって発現する特徴には差があるように思っています。

 

 

 

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↑ユノツルイヌワラビのソーラス。

ソーラスはこんな感じ。たまに鉤型が混じるのはホソバの影響だと思います。
葉軸や羽軸は多毛で、ヒサツやハツキよりも毛の密度が高いように思います。

 

 

 

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↑ユノツルイヌワラビの葉柄基部の鱗片。

 

ヒロハ(中部が黒褐色の時もあるけど)もホソバも褐色なので、鱗片は褐色。
ヒサツだとカラクサの影響で幅の広い鱗片が混じっていましたが、この個体はヒロハの影響でほぼ一様に細長い鱗片のようです。

ハツキイヌワラビ

種名:ハツキイヌワラビ(Athyrium x pseudoiseanum Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:ホソバイヌワラビとタニイヌワラビの雑種。
場所:福岡県の西部、湿った杉植林内。
 確認日:2017.7.8, 2020.7.19(2021.1.31更新)

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ハツキイヌワラビです。初見の印象は白っぽいタニイヌワラビで、一目でタニイヌワラビとホソバイヌワラビが混じっているなと感じました。
白っぽいというのはツヤ消しという意味で、日向で展葉したホソバイヌワラビの葉の質感に近い雰囲気があります。一方でタニイヌワラビのように常緑感のある葉質をしています。
ホソバの特徴としては、より長めの葉身、つや消し感。タニの特徴としては、厚紙質〜やや皮質であること、側羽片がほぼ無柄であること等。

 

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↑ ハツキイヌワラビの最下側羽片。

タニイヌワラビよりもやや切れ込みが深く、先端はゆるい鋭頭〜鈍頭です。タニイヌワラビの側羽片がほぼ無柄のため、ハツキイヌワラビでも柄は短いです。

 

 

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↑ハツキイヌワラビの葉身中部の側羽片。

典型的なタニイヌワラビに比べるとやはり切れ込みが深いです。

 

 

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↑ハツキイヌワラビの葉身頂部。
先端がやや尾状になる点はタニイヌワラビ的な特徴だと思います。

 

 

 

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↑ハツキイヌワラビの小羽軸上の突起

小羽軸上に顕著な突起があるのはホソバの特徴です。
仮にホソバではなくトガリバ的な種が相手だったとしたら、小羽片はより幅広くなると思います。

 

 

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↑ハツキイヌワラビのソーラス。

ソーラスには鉤型のものがよく混じり、軸に接してつきます。羽軸は僅かに有毛の場合があります(毛はユノツルに比べて圧倒的に少なく、ごく疎らなこともしばしば・・・)。

 

 

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↑ハツキイヌワラビの葉柄基部の鱗片。

 

葉柄下部の鱗片は黒褐色〜濃褐色です。ホソバイヌワラビの影響で、タニイヌワラビの鱗片にある光沢感は無くなっています(鱗片に光沢の無いタニイヌワラビもいますが)。
ちなみに胞子は不定形でした。