しださがし

福岡県から九州各地を中心に見つけたシダ植物について紹介していきます。無断での転用・転載は禁止。

ムラサキオトメイヌワラビ(ホウライ×ツクシ)

種名:ムラサキオトメイヌワラビ

(Athyrium x purpurascens (Tagawa) Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:ホウライイヌワラビとツクシイヌワラビの雑種。

場所:福岡県の西部、渓流沿い。

確認日:2018.8.5, 2017.7.15(写真追加2018.8.5)

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きらびやかな名称は、親種のホウライイヌワラビの別名がオトメイヌワラビで、軸が紫色に染まるため。

質感はツクシ似で、羽片や頂部が鋭端(しゃきっとした感)になっている点などはホウライ似です。

 

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羽片等の拡大図。小羽片は明瞭な鋸歯縁で、葉軸の上半分は淡紫色です。

 

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小羽軸上には顕著な突起が散在し、ホウライ的な特徴が現れています。

 

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裏面の様子。ソーラスは中軸寄り、ツクシ的なつき方をしています。

 

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鱗片の様子。両種の特徴が反映され、褐色(ツクシ)のものが多く、黒褐色(ホウライ)のものが混じります。

 

参考までに、以下にツクシイヌワラビとホウライイヌワラビを載せときます。

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ツクシイヌワラビ(同じ地点の個体)。これは沢沿いの斜面に生えるタイプの葉形で、林床に生える個体は小羽片がより小さくまとまり、羽軸に延着する傾向が無くなったりします。

 

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ツクシイヌワラビの羽片(下から2対目)。ムラサキオトメに比べて、小羽片の鋸歯は弱く、葉軸は全て淡紫色であることがわかります。

 

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ホウライイヌワラビ(同じ地点の個体)。

自生地での個体数は多いけど分布は局所的な変わり者。

 

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ホウライイヌワラビの羽片(真ん中くらい)の様子。小羽片は中裂程度で、裂片の鋸歯が明瞭であること、葉軸は全て黄緑色であることがわかります。

 

 

 

ユノツルイヌワラビ

 

種名:ユノツルイヌワラビ(Athyrium x kidoanum Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:ホソバイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種。
場所:福岡県の西部、杉植林内の沢沿いにて。
 確認日:2017.7.8, 2020.7.19(2021.1.31更新)

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全体の様子。質感にはヒロハ感がしっかり現れており、これもぱっと見で組み合わせが思い浮かぶような雑種でした。

(ヒロハ感=ややツヤのあるカラクサイヌワラビよりもぼってりとした質感)

葉身は丸っこいタイプのヒロハを少し引き伸ばしたような卵形です。

 

 

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↑ユノツルイヌワラビの最下側羽片。

側羽片の柄が長いヒロハイヌワラビと、側羽片の柄がやや長いホソバイヌワラビの雑種のため、柄は長いです。小羽片がやや三角状な点はヒロハイヌワラビ的な特徴です。

 

 

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↑ユノツルイヌワラビの葉身中部の側羽片。

最下小羽片以外の小羽片はやや切れ込む程度、また裂片にも浅い鋸歯が確認でき、ヒロハやホソバそのものとは明らかに異なります。
もちろんカラクサとも異なり、ヒサツイヌワラビに比べても切れ込みは明らかに浅く、鋸歯も弱いです。葉の質感はヒロハに似たものがあります。軸は多毛です。

 

 

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ユノツルイヌワラビの葉身頂部。
 ホソバに比べてやや頂部がまとまる場合と、写真のようにややなだらかに狭まる場合があります(同一個体でもブレる)。

 

 

 

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ユノツルイヌワラビの小羽軸上の突起。
ホソバが混じっているので、小羽軸上には顕著な突起が生じます。
写真の通り、小羽片、葉によって突起の量にはばらつきがありました。


ちなみに、雑種の個体では両親種のどちらが母方になるのかで特徴に違いがあると聞いたことがありますが、それ以前に同一個体においても葉によって発現する特徴には差があるように思っています。

 

 

 

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↑ユノツルイヌワラビのソーラス。

ソーラスはこんな感じ。たまに鉤型が混じるのはホソバの影響だと思います。
葉軸や羽軸は多毛で、ヒサツやハツキよりも毛の密度が高いように思います。

 

 

 

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↑ユノツルイヌワラビの葉柄基部の鱗片。

 

ヒロハ(中部が黒褐色の時もあるけど)もホソバも褐色なので、鱗片は褐色。
ヒサツだとカラクサの影響で幅の広い鱗片が混じっていましたが、この個体はヒロハの影響でほぼ一様に細長い鱗片のようです。

ハツキイヌワラビ

種名:ハツキイヌワラビ(Athyrium x pseudoiseanum Sa.Kurata, Athyriaceae)
解説:ホソバイヌワラビとタニイヌワラビの雑種。
場所:福岡県の西部、湿った杉植林内。
 確認日:2017.7.8, 2020.7.19(2021.1.31更新)

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ハツキイヌワラビです。初見の印象は白っぽいタニイヌワラビで、一目でタニイヌワラビとホソバイヌワラビが混じっているなと感じました。
白っぽいというのはツヤ消しという意味で、日向で展葉したホソバイヌワラビの葉の質感に近い雰囲気があります。一方でタニイヌワラビのように常緑感のある葉質をしています。
ホソバの特徴としては、より長めの葉身、つや消し感。タニの特徴としては、厚紙質〜やや皮質であること、側羽片がほぼ無柄であること等。

 

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↑ ハツキイヌワラビの最下側羽片。

タニイヌワラビよりもやや切れ込みが深く、先端はゆるい鋭頭〜鈍頭です。タニイヌワラビの側羽片がほぼ無柄のため、ハツキイヌワラビでも柄は短いです。

 

 

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↑ハツキイヌワラビの葉身中部の側羽片。

典型的なタニイヌワラビに比べるとやはり切れ込みが深いです。

 

 

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↑ハツキイヌワラビの葉身頂部。
先端がやや尾状になる点はタニイヌワラビ的な特徴だと思います。

 

 

 

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↑ハツキイヌワラビの小羽軸上の突起

小羽軸上に顕著な突起があるのはホソバの特徴です。
仮にホソバではなくトガリバ的な種が相手だったとしたら、小羽片はより幅広くなると思います。

 

 

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↑ハツキイヌワラビのソーラス。

ソーラスには鉤型のものがよく混じり、軸に接してつきます。羽軸は僅かに有毛の場合があります(毛はユノツルに比べて圧倒的に少なく、ごく疎らなこともしばしば・・・)。

 

 

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↑ハツキイヌワラビの葉柄基部の鱗片。

 

葉柄下部の鱗片は黒褐色〜濃褐色です。ホソバイヌワラビの影響で、タニイヌワラビの鱗片にある光沢感は無くなっています(鱗片に光沢の無いタニイヌワラビもいますが)。
ちなみに胞子は不定形でした。

ヒサツイヌワラビ

観察したシダ植物の記録用にブログを始めてみました。

分類の精度には力を入れている(つもり)ので、ご意見等お待ちしています。

とりあえずテスト投稿ということで。

 

種名:ヒサツイヌワラビ(Athyrium x hisatsuanum Sa.Kurata, Athyriaceae)

解説:ホソバイヌワラビとカラクサイヌワラビの雑種と推定されている。

場所:福岡県の西部(詳細な地名は載せないことにします)、湿った杉植林内。

 確認日:2017.7.8

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全体の様子。質感としてはホソバイヌワラビに近いものがあります。

頂部が急に狭まる点にカラクサイヌワラビ的な特徴が見て取れます。

小羽片の切れ込みは中程度になり、輪郭はヤマイヌワラビに似ていますが、色合いや質感が異なり、またヤマイヌだと葉身はもっと幅広になると思われます。

 

 

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羽片・小羽片の様子。羽片は有柄です。

小羽片は長楕円的になり、カラクサとは異なることがわかります。

 

 

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小羽片には顕著な突起があり、ホソバ的な特徴が現れています。

 

 

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裏面の様子。羽軸は多毛でホソバ的な特徴が反映されています。

※カラクサは標準図鑑で無毛とされていますが、有毛(多毛ではないけど)の型も稀に確認しています(胞子は正常なのでオオカラクサイヌワラビとかではない)。

 

 

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鱗片は中央部がやや濃い褐色。カラクサの特徴を反映して、やや広めのものが混じっています。

 

 

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上がホソバイヌワラビ、下がヒサツイヌワラビ。

小辺の切れ込み方、葉身の形状が異なることがわかります。

 

 

周辺のシダ植生メモ。

イワガネソウ、ホソバイヌワラビ、カラクサイヌワラビ、ヤマイヌワラビ、タニイヌワラビ、トガリバイヌワラビ、アイトガリバイヌワラビ、シケチシダ、タカオシケチシダ、シロヤマシダ、ヘラシダ、シケシダ、イワヘゴ、トウゴクシダ、リョウメンシダなどなど。